トップ2019年・猫ニュース一覧7月の猫ニュース7月28日

猫は親しさにかかわらず人と見つめ合うのが嫌い

 狭い空間内に人と猫がいる時、親しさにかかわらず「見つめ合う」という状況を避ける傾向が確認されました。猫と仲良くなりたいときに役立ちそうな知識です。

猫の凝視実験

 調査を行ったのは麻布大学の獣医学部介在動物学研究室。狭い空間を人間と猫が共有している時、「見つめる」という行動が猫の行動にどのような影響を及ぼすかを検証しました。

猫カフェ型の実験

 大学の研究室で飼育されている猫3頭を2.1×2.7mという大きさの囲いの中に入れ、人間と空間を共有する状況を作りました。中に入る人は普段猫の世話を行う顔なじみ5人と全く見知らぬ5人の合計10名。人間の行動は「5分間安静→2分間猫を見つめる→2分間猫から目をそらす→2分間猫を見つめる→2分間猫から目をそらす」もしくは「5分間安静→2分間猫から目をそらす→2分間猫を見つめる→2分間猫から目をそらす→2分間猫を見つめる」のどちらかです。猫に対する余計な刺激をできるだけ排除するため、モゾモゾと動く、声をかける、撫でるといった行動は一切禁止されました。 猫カフェのようにオープンスペースで人間が猫を見つめる状況  猫1頭につき10名が同様の実験を行いデータを検証したところ、「猫の方を見つめる」という人間側の行動により、猫のリアクションに変化が見られたと言います。具体的には、凝視されている状況において猫が人間を見る総時間が短くなり、猫が人間を見る1回の持続時間も有意に短くなったそうです。この変化は人間と猫との親密度による影響は受けませんでした。また統計的に有意ではなかったものの、見知らぬ人間といるときの方が鳴く回数が増えたとも。

ペットショップ型の実験

 大学の研究室で飼育されている猫4頭を縦1.0m×横0.8mという大きさのケージの中に入れ、人間がケージの外50cm地点に陣取るという状況を作りました。陣取る人は普段猫の世話を行う顔なじみ5人です。人間の行動は「5分間猫を見つめる」「5分間猫から目をそらす」のどちらかで、それ以外に「誰もいない」という状況も設定されました。 ペットショップのようにクローズドスペースで人間が猫を見つめる状況  上記3つの状況における猫の行動を観察した所、人が見ていない状況においては猫が人間を見る総時間が長くなったといいます。しかし1回あたりの猫が人間を見る時間に違いは見られませんでした。また人が見ている状況においては、他の2つの状況と比較してまばたきの回数が有意に多かったとのこと。
ネコにおけるヒトから向けられた視線の認識
Hikari Koyasu, Miho Nagasawa, The Japanese Journal of Animal Psychology (2019), doi: 10.2502/janip.69.2.3

猫は見つめ合うのが嫌い?

 開けたオープンスペースにおいても、閉鎖されたクローズドスペースにおいても、どうやら猫は人間と見つめ合うという状況を積極的に避けているようです。

人が見ると猫は目をそらす

 最初の実験で設定したような、人間と猫とが開けた空間を共有する状況はちょうど「猫カフェ」に近いと言えるでしょう。
 この状況において人間が猫の方を見つめると、猫は素早く視線をそらし、人の顔を見なくなるという現象が確認されました。猫にはにかみの感情はありませんので、視線を逸らした理由はおそらく、相手の凝視を脅威と感じたからだと推測されます。猫カフェの注意書きに「あまり猫の方を見つめないでください」とあるのには、それなりの理由があるということです。

人が見ていないと猫はチラ見する

 2つ目の実験で設定したような、猫の動きが囲いで制限されており、人間が外から眺めるという状況はちょうどペットショップに近いと言えるでしょう。
 この状況においては、人が猫の方を見ていないときに限り、猫が人間の方を見つめるトータルの時間が長くなりました。1回あたりの凝視時間が伸びたわけではありませんので、凝視する回数が増えたということになります。また人が見ている状況においては、まばたきの回数が増えるという現象も確認されました。
 過去に行われた調査では、ゆっくりとした瞬き(スローブリンク)を含めた瞬目行動が、猫におけるストレスサインである可能性が示されていますので、「そんなに見つめないで…」と言いたいのかもしれませんね。ペットショップでショーケースに入れられた猫をじっと見つめることは、かなりのストレスになっていると推測されます。

猫にとって凝視は脅威?

 犬が家畜化される過程では、「人間の目をじっと見つめて指示を待つ」という能力を備えた個体が選択的に繁殖されてきたと考えられています。祖先であるオオカミが嫌う「アイコンタクト」という行動を、いとも簡単に覚えてしまうのはそのためです。それに対し猫は、人間の指示に従うことではなく、人間の集落に集まる小動物を獲物として生きてきました。つまり猫にとって「人間の目をじっと見つめて指示を待つ」という行動にはほとんど意味がないということです。 猫の世界において見つめ合うことは脅威、視線を外すことは回避  今回の調査で確認された「視線嫌悪」とでも言うべき猫の行動特性は、人間に依存しない形で家畜化されてきた事実を反映しているのかもしれません。犬においては凝視が親愛の情と解釈されるかもしれませんが、猫においては単なる脅威として受け取られる可能性が大です。ネット上では「ゆっくりとした瞬きは愛情の印」といった風説が未だに残っていますが、理論的にも実験的にもストレスサインである可能性の方が高いので、猫とにらめっこするのは控えてあげましょう。 猫がゆっくりとまばたきするのは愛情表現ではない?!