トップ2019年・猫ニュース一覧6月の猫ニュース6月13日

猫の下腹にある皮膚のたるみは脂肪の貯蔵袋

 猫の下腹にある皮膚のたるみ(プライモーディアルパウチ)。存在している意味についてはさまざまな説がありますが「脂肪を蓄えるための袋」という役割が大きいようです。

猫の肥満と脂肪分布

 調査を行ったのはブラジル・マリンガ州立大学獣医学部のチーム。9段階式のボディコンディションスコア(BCS)で肥満と判断されたオス猫8頭(BCS8.5 | 平均体重5.38kg)とメス猫8頭(BCS8.7 | 平均体重4.59kg)を対象とし、DXAと呼ばれる測定器を用いてダイエット前後における体組成の変化をモニタリングしました。
DXA
DXA(Dual Energy X-Ray Absorptiometry)は骨量や骨密度を測定するために使用される機器。骨のほか筋肉や脂肪などの軟部組織も定量することができる。 骨量や骨密度を測定するDXA
 日々の摂取カロリーをNRC(全米研究評議会)が定める栄養要求量のおよそ60%(326kJ/kg BW0.4)に制限し、1週間に0.87~1.02%のペースで体重を落としていったところ、すべての猫が24.6週後には20%超の減量に成功したといいます。具体的には、オス猫が23.8%減のBCS6.0、メス猫が22.1%減のBCS6.7という結果です。体重が目標値に到達したタイミングでメンテナンスフードに切り替え、さらに17週間の給餌試験を行いました。
 「太っている時」「20%の体重減少を達成した時」「17週間のメンテナンス期を終えた時」というタイミングで1頭につき3回体組成分析を行ったところ、以下のような変化が確認されたと言います。なおすべてのフェーズにおいて1日あたりの代謝熱量(1kg BW0.4)はオス猫のほうが12.2%高かったとのこと。
猫の減量と脂肪動員様式
  • オス猫ダイエットで減少した体重1,276gのうち75%に相当する958gが脂肪で、そのうちの95.4%が体幹部の脂肪。体幹部の脂肪減少率は50.3%。
  • メス猫ダイエットで減少した体重825gのうち93.9%に相当する775gが脂肪で、そのうちの76.3%が体幹部の脂肪。体幹部の脂肪減少率は37.0%。
 こうした結果から調査チームは、猫の体脂肪はほとんどが体幹部(四肢、頭、会陰部を除いたすべての部位)に集中しており、減量に伴ってその部分の脂肪が大幅に減るという現象を発見しました。また去勢しているにも関わらずオス猫の基礎代謝がメス猫よりも10%以上高く保たれている理由は、筋肉量が影響しているからではないかとも。
Male and female cats have different regional body compositions and energy requirements for weight loss and weight maintenance
Vasconcellos RS, Goncalves KNV, Borges NC, et al.. J Anim Physiol Anim Nutr. 2019;00:1?10. https ://doi.org/10.1111/jpn.13127

猫の肥満はリンゴ型(中心型)

 人間の肥満体型の女性においては、脂肪の分布が体の部位によって大きな格差があり、腕11%、足31%、体幹部58%とされています。またこの割合は23%の減量に成功し、体脂肪量が25.7%減少した状態においても変わらなかったとも(Okura, 2004)
 一方、猫においては減量前の脂肪重量分布が前足0.3%、体幹部89.3%、後ろ足3.5%で、減量後のそれは前足0.45%、体幹部85.6%、後ろ足4.6%でした。要するに肥満の有無にかかわらず、脂肪の8~9割が体幹部に集中しているということです。人間で言う「リンゴ型」(中心型)に近いということになるでしょう。 猫の肥満は脂肪が体幹部に集中するリンゴ(中心)型

プライモーディアルパウチの役割

 猫の腹部には「プライモーディアルパウチ」(primordial pouch)と呼ばれる皮膚のたるみがあります。その役割については様々な仮説が提唱されていますが、今回の知見から考えると脂肪を体幹部に集めるための貯蔵タンクという側面が見えてきます。 猫の下腹部にある皮膚のたるみ「プライモーディアルパウチ」  人間では腕や足にも脂肪が蓄積するいわゆる「洋ナシ型肥満」の人もいます。一方、猫では前足と後ろ足の脂肪が極端に少なく、性別にかかわらず「リンゴ型肥満」というデザインになっています。前足や後ろ足に余った脂肪を分散できないため、全てを体幹部に集めなければなりません 。こうした必要に駆られて発達したのが腹部のパウチというわけです。
 このパウチがなかったら前足や後ろ足によけいな脂身がつき、運動能力を著しく損なってしまうことでしょう。野生の猫にとって動きが鈍くなるということは、食料を確保する上でも危険から身を遠ざける上でも不利になりますので死活問題です。
 人間においては中心型肥満と高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、心血管障害との因果関係が示唆されています。猫においても同様のメカニズムにより、体のあちこちに悪影響が出る可能性がありますので、飼い主は定期的に猫の体型をチェックし、適宜ダイエットを遂行しなければなりません。
太り過ぎのリスクに関しては「猫の肥満」、体型のチェック方法や具体的な減量のコツについては「猫のダイエット」でまとめてあります。疑わしい場合はすぐに取り掛かりましょう!