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キツネネコは本当に新種のネコ科動物か?

 新種のネコ科動物ではないかと話題になったコルシカ島の「キツネネコ」。この動物は本当にヤマネコでもイエネコでもないのでしょうか?現時点で分かっている事実をご紹介します。

キツネネコとは何か?

 キツネネコ(仏:chat-renard, シャルナール)とはフランス領コルシカ島で発見されたイエネコに極めて似た動物。コルシカ語では「Ghjattu volpe」と呼ばれています。一見すると普通の猫と区別がつきませんが以下のような身体的特徴を有しています。
キツネネコの特徴
キツネネコは通常のイエネコよりも一回り体が大きい
  • 幅の広い大きな耳
  • 短いひげ
  • 発達した犬歯
  • 厚くてシルキーな被毛
  • 前足の縞模様
  • 後ろ足の暗い色
  • 腹部のラセットカラー
  • 2~4のリングと黒い先端部をもったしっぽ
 以下でご紹介するのは捕獲されたキツネネコの動画です。フランスの「ONCFS」(国立狩猟野生動物局)が生態調査にあたっています。 元動画は→こちら

いつからコルシカ島にいるのか?

よく分かっていません。

 地元の羊飼いの間では古くから、家畜を襲う動物として言い伝えられてきました。目撃例があまりにも少ないため、伝説や民話の類(たぐい)と考える人たちもいたようです。
 ところが2008年、コルシカ島北端の半島カップ・コルスのオルカニという場所で、鶏の檻に偶然入り込んだことからその実在が確認されました。 目撃例の少なさからキツネネコを単なる言い伝えと考える人もいる  なおキツネネコの調査に当たっているフランスの「ONCFS」(国立狩猟野生動物局)の調査員は、今から6,500年前に農耕民とともに中東から島内に渡ってきたのではないかと推測していますが、物的な証拠は今のところ全くありません。

どこに住んでいるのか?

人里離れた森の中です。

 生息が確認されているのは、アスコ(Asco)と呼ばれる共同体の近くにある森の中です。このエリアは森林で覆われており人間でも容易に立ち入ることができません。鬱蒼と生い茂った木々がタカなどの天敵から猫を守ってきたものと推測されています。 キツネネコが生息している森

何を食べて生きているのか?

生態はよく分かっていません。

 家畜動物を襲うという言い伝えや、鶏の檻に入り込んだという事実から、ヤマネコやイエネコと同じ肉食であると推測されます。

何頭ぐらい生息しているのか?

生息数はよくわかっていません。

 2016年から2019年の上半期までの間に16頭の存在が確認され、そのうち12頭は元の場所にリリースされています。リリースの際、GPSトラッカーを内蔵した首輪を取り付けられましたので、今後より詳細な生態がわかってくるでしょう。 キツネネコは首輪にGPSトラッカーを装着した状態でリリースされた

ヤマネコではないのか?

可能性は否定できません。

 2012年に行われた遺伝子調査により、少なくともヨーロッパヤマネコではないことが確認されています。リビアヤマネコに近かったと報告されていますが、全く同じ動物かどうかまでは確認されていません。

キツネネコは新種のネコ科動物?

 キツネネコがネコ科動物に属する新たな種であると認定されるためには、今後より詳細な遺伝子検査を行い、既存のヤマネコでもイエネコでもないことが証明されなければなりません。
 可能性として高いのは、新種の動物というシナリオよりもヤマネコとイエネコの交雑種と言うシナリオの方です。交雑現象(hybridization)はヨーロッパヤマネとイエネコの間でも確認されている現象で、遺伝的に純粋なヤマネコの個体数を減らしてしまうという観点から懸念されています。
 キツネネコが交雑種だとすると、大昔にコルシカ島に持ち込まれたヤマネコとイエネコが番(つがい)となり、両者の特徴を有したハイブリッドとして誕生したという可能性が考えられます。そうだとすると、キツネネコは新種ではなく単なる交雑種という扱いになります。
 例えば以下は、スコットランドヤマネコとイエネコが交雑したときの身体的な特徴です。キツネネコと似てなくもありませんね。
ヤマネコ交雑種の特徴
ヤマネコとイエネコの交雑種(ハイブリッド)で見られる身体的特徴
  • ①=崩れた縞模様
  • ②=斑点模様
  • ③=尾につながる背側線
  • ④=不鮮明な輪
  • ⑤=中等度に厚い被毛と丸っこい先端
  • ⑥=足先が白いことあり
 なおキツネはイヌ科動物ですので、ヤマネコとの間に交雑は起こりません。「キツネネコ」と呼ばれている理由は、キツネの血統が混じっているからではなく、ただ単にしっぽがキツネに似ているからです。 ネコ科動物の種類と分類法・最新2017年版