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抜爪術(爪抜き)を原因とする猫の骨肉腫の症例

 国によっては動物虐待とみなされている抜爪術(爪抜き, declaw)。様々な副作用がありますが、手術を受けてから長い時間をかけ、骨の癌である骨肉腫を引き起こす危険性が示されました。

抜爪術が原因と考えられる骨肉腫の症例

 テキサス州オースチンにある「South Austin Cat Hospital」の獣医師が、抜爪術が原因と考えられる骨肉腫の症例を報告しましたのでご紹介します。
 12歳になる去勢済みのラグドール(オス)が、3日前から左手の親指に現れた腫れ、出血、膿を主訴として来院した。
 レントゲン撮影を行ったところ抜爪術を施した左手の第一指・末節骨を中心とした病変が確認されたため、治療と診断を兼ねて指先を切断。念のため組織学検査を行った。その結果、骨の癌である骨肉腫との診断が下り、他の場所への転移が疑われたため、肩から下の断肢を行なった。 抜爪術を施した第一指を原発箇所とする猫の骨肉腫   他の臓器や組織に悪性腫瘍の兆候が見られなかったため、指を原発箇所とする骨肉腫である可能性が極めて高いと考えられる。おそらく抜爪術によって指先に残った骨の欠片が刺激となり長い時間をかけて細胞の悪性化が引き起こされたのだろう。
Late-onset osteosarcoma after onychectomy in a cat
Breitreiter, K. (2019), Journal of Feline Medicine and Surgery Open Reports. https://doi.org/10.1177/2055116919842394

なぜ骨肉腫(がん)が引き起こされる?

 猫の指先の癌として多いのは、肺で発生した悪性腫瘍が指先に転移する「肺指症候群」です。しかし今回の症例では肺を始めとした他の臓器に病変が見つからなかったため、悪性腫瘍の発生場所は指先そのものであると判断されました。
 外傷によってがんが引き起こされるという現象は様々な事例によって示されています。例えば骨折部位、眼球への外傷、異物による十二指腸への刺激が当該部位の癌化を引き起こすなどです。猫に限って言うと、注射した部位の組織が癌化してしまう「注射部位関連肉腫」(FISS)がよく知られています。
 抜爪術と肉腫との因果関係を示した報告はこれまでひとつもありませんでしたが、潜在的には結構な数に上るのではないかと推測されています。とりわけリスクファクターになるのは指の先端に残った骨のかけらです。かけらが残った状態で指先に体重をかけると、そこに繰り返し外圧が加わります。この外圧が刺激となり、長い時間をかけて細胞や組織を癌化してしまうというメカニズムは十分に考えられます。特にギロチンタイプの器具を用いて抜爪術を施した時は、砕けた骨が指先に残りやすくなりますのでリスクが高まるでしょう。
 今回の症例で報告された猫は飼い主の家に来る前の段階で手術を受けていたため、少なくとも10年が経過していたと推測されています。

抜爪術は動物虐待!

 抜爪術に関しては非常に多くの副作用が報告されているため、動物虐待の一種として法律で禁ずる地域が増えつつあります。例えばカナダでは2019年5月、マニトバ州の獣医師会が抜爪術を禁じる条例を成立させ、医療目的以外での爪抜きを動物虐待として禁じる国内6つ目の州となりました。またアメリカのニューヨーク州では2019年6月、治療を目的としない抜爪術を動物虐待として禁じる法案が議会を通過しています。
 このよう「抜爪=虐待」という認識は世界中に広がりつつあり、この方向が逆向きになることは今後あり得ません。一方、日本国内ではなんだかんだと理由をつけ、この侵襲性の高い虐待まがいの手術を勧めてくる悪徳獣医師がいるので十分ご注意下さい。  十分な説明もせずこの手術を勧めてきたら、その獣医師は間違いなく最新情報をフォローしておらず、また猫の健康と福祉を真剣には考えていません。根底にあるのは金儲け主義ですので、不運にも出くわしてしまったら早々に立ち去りましょう。
 なお抜爪術のデメリットに関しては以下のページで詳しく解説してあります。なぜ動物虐待とみなされているのかがすぐ理解できるはずです。 猫の抜爪術に関する真実