トップ2019年・猫ニュース一覧10月の猫ニュース10月18日

猫アレルゲン「Fel d 1」は加齢とともに減少するかも~「猫アレルギーがいつの間にか治った」の可能性を検証する

 「いつのまにか猫アレルギーが治った」という話は飼い主の間でよく聞かれます。この現象は人間の体質が変わったのではなく、加齢によって猫が発するアレルゲンの量が減った結果かもしれません。

猫アレルゲンの通年調査

 調査を行ったのは「Nestle Purina Research」の支援を受けたチーム。猫の主要アレルゲンである「Fel d 1」がどのように変動するのかを調べるため、1年間という長期に渡るモリタリングを行いました。
Fel d 1
上皮粘膜から分泌される低分子タンパク質(セクレトグロビン)の一種。猫の皮脂腺、肛門腺、唾液腺から分泌された後、グルーミングを通して皮膚や被毛に付着する。7種類ある猫アレルゲンのうち最もメジャーなもので、猫アレルギー患者の90%が反応するとも言われている。
 調査に参加したのはアメリカ・ミズーリ州の27頭と、カナダ・オンタリオ州の37頭からなる合計64頭の猫。一般家庭で飼われている猫の縮図となるよう、不妊手術済みの短毛・成猫が選ばれました。猫たちの飼育環境を統一した上で、1日おきに朝食直前の午前とその3時間後の午後の2回、1年間に渡り唾液に含まれる猫アレルゲン「Fel d 1」の濃度を計測し続けました。その結果、別々の猫たちの間でも、同一個体の間でも1年のうちに大なり小なり変動が見られたといいます。 1年スパンで見たときの猫アレルゲン「Fel d 1」の変動グラフ

アレルゲンの個体変動

 アメリカグループ(27頭)からは1頭平均250のサンプルが採取され、平均濃度は「6.3 ± 7.8 μg/mL」。カナダグループ(37頭)からは1頭平均297のサンプルが採取され、平均濃度は「8.1 ± 12.8 μg/mL」だったといいます。
 個体差に関してはアメリカグループでは「0.05~103.1 μg/mL」、カナダグループでは「0(※検知不能レベル)~322.1 μg/mL」という開きが見られました。またアレルゲンの年間平均値に関し、一番低い個体では0.4 μg/mL、一番高い個体では35.0 μg/mLを記録し、両者の間には80倍もの開きが見られたそうです。
 同一個体間で見られた標準偏差はアレルゲンの平均値と連動していることが判明しました。つまりアレルゲンレベルが低い猫においては濃度の上下動が小さく、アレルゲンレベルが高い猫においては乱高下しやすいということです。

アレルゲンへの影響因子

 アレルゲンレベルと無関係と判断された項目は「性別」「体重」「被毛色」「被毛パターン」など。一方、唯一関係があると判断された項目は「年齢」でした。具体的には猫が歳を取るほど唾液中のアレルゲンレベルが低下する傾向が見られたそうです。 猫の年齢とアレルゲン「Fel d 1」レベルの相関関係  なおどちらのグループにおいても午後より午前の方が高い値を示す傾向が見られたものの、時間帯というより採取方法による偶発的な影響が大きいのではないかと考えられています。

低アレルゲン猫は実在する

 猫たちの中には平均と比べ明らかにアレルゲンレベルが低いと判断される個体が含まれていました。こうした「低アレルゲン猫」を90%以上の確率で見分けるためには、少なくとも4回のサンプル採取が必要だったとのこと。またこれらのサンプルは、時間をあければあけるほど精度が高まっったといいます。要するに4日連続で採取した唾液サンプルよりも、春夏秋冬に1回ずつ採取した唾液サンプルを元にしたほうが、より高い確率で低アレルゲン猫を言い当てることができるということです。
Influence of time and phenotype on salivary Fel d1 in domestic shorthair cats
Berenice Camille Bastien, Cari Gardner, Ebenezer Satyaraj, Journal of Feline Medicine and Surgery 2019, Vol. 21(10) 867 ?874, DOI: 10.1177/1098612X19850973

加齢による猫アレルゲンの減少

 アレルゲンレベルと唯一関係性があると認められたのは猫の年齢でした。「Fel d 1」は主として舌下腺と皮脂腺からから分泌されます。加齢に伴ってこうした腺組織の機能が低下し、それに連動する形でアレルゲンの産生量も減るのでしょうか。人間においても年をとると、指先にある汗腺や脂腺が衰えてパサパサになりますので、それと同じ現象が猫の体内でも起こるのかもしれません。 腺組織の衰えに連動して猫アレルゲンが目減りする可能性あり  上記した仮説が本当だとすると、猫の飼い主の間でよく聞かれる「いつのまにか猫アレルギーが治った」という逸話にも部分的に説明がつきます。アレルゲンに長期的に接することによって飼い主の側で脱感作が起こったという可能性もありますが、猫が歳をとることによってアレルゲンの産生量が少しずつ減っていったという可能性も考えられるでしょう。
 ただし過去に行われた別の調査では、年齢とアレルゲンレベルの間に関連性を見つからなかったと報告されてるため、調査チームはさらなる検証が必要であると指摘しています(Kelly et al., 2018)。また調査に参加した猫は全て不妊手術済みでしたので、不妊手術を受けていない猫において同じ現象が見られるかどうかは別の検証が必要でしょう。

低アレルゲン猫は個体レベル

 アレルゲンの産生量が他の猫たちに比べて少ない「低アレルゲン猫」の実在が確認されました。しかしそれは世間一般で言う「サイベリアンはアレルゲンが少ない」といった品種レベルのものではなく、あくまでも個体レベルのものです。
 その猫が本当に低アレルゲンかどうかを90%以上の確率で断定するためには、時間を空けて少なくとも4回の濃度検査が必要だと言いますので、「この猫は低アレルゲンだ」と主張するには時間もお金もかかります。ペットショップでこのような主張を聞いたとしても決して鵜呑みにしないでください。
アレルゲン産生量が少ない特定品種は科学的に確認されていません。ですからアレルギーを引き起こしにくい「ハイポアレジェニック・キャット」はガセネタということになります。詳しい検証はこちらの記事をご参照ください。