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猫との交流(遊び・訓練)は人の脳を活性化して機能を高めるかも~思い通りに行かないからこそ楽しい!

 猫との遊びや訓練は、猫の心身を刺激すると同時に人間の脳を活性化し、機能の維持や向上につながってくれるかもしれません。

猫との交流による脳の活性化

 調査を行ったのは東京農業大学のチーム。大学からリクルートした29名(男性10名+女性19名 | 平均年齢21.17歳)に協力を仰ぎ、大学で飼育されている人馴れしたラグドール(9歳)と様々な交流をした時の脳内における変化を客観的および主観的な指標を用いてデータ化しました。客観評価の指標として用いられたのは「機能的近赤外分光分析法」、主観的評価の指標として用いられたのは「自己評価マネキン」です。
機能的近赤外分光分析法
 機能的近赤外分光分析法(fNIRS)は神経活動と連動した脳血流変化に伴うヘモグロビン(Hb)の変化を計測することで脳の活動状態をとらえる技術。活性化した部位では酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)と総ヘモグロビン(t-Hb)の増加および脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)の減少が観察されるとされる出典資料:Hoshi, 2004)ikinamo Japan 機能的近赤外分光分析法(OEG-SpO2)
自己評価マネキン
 自己評価マネキン(SAM)は感情価(幸せ・楽しい/不愉快)、覚醒度(落ち着いている/興奮している)、支配度(従属的で操られている/独立して相手を支配・コントロールしている)という3つの側面から、ある特定のシチュエーションにおける個人の感情的反応を主観的に測定する指標出典資料:Bynion, 2017)。当調査では感情価と覚醒度が用いられた。 自己評価マネキン(SAM)で用いられる反応度の評価表
 触れ合う(ブラシで被毛をとかす/手で撫でる)、遊ぶ(棒を使う/ゴムボールを使う)、訓練する(ハイタッチ/回転・伏せ・前足を上げる)、給餌する(フードを与える/水を与える)という4種類の交流を用意し、被験者の脳活動がリセットされた状態から30秒間の交流を行うことで、血流量がどのように変化するかをfNIRSで客観的に計測すると同時に、交流後に行ったSAMで感情の変化を主観的に評価しました。
 中途脱落者2名を除いた合計27名のデータを検証したところ、交流のタイプに関わらず、交流前よりも交流の最中および交流後の方が前頭前野に流れ込む血流量が多くなることが確認されたといいます。また交流のタイプごとに下前頭回(※非言語的コミュニケーションや表情の認識と理解に関わる)と呼ばれる部位の血流変化を比較したところ、以下のような関係性が認められたといいます。
猫との交流と下前頭回
  • 右の下前頭回✓給餌(1.88)<遊び (4.60)・触れあい (4.84)・訓練 (6.59)
    ✓遊び (4.60)<訓練 (6.59)
  • 左の下前頭回✓給餌(1.52) <触れあい(4.58)・遊び(4.68) <訓練 (7.14)
 猫の飼育経験がある16名と残りの被験者を比較しましたが、活性度とは関係していなかったとのこと。またSAMによる感情評価では以下のような関係性が確認されました。感情価が高いほど「とても楽しい・愉快だ」、覚醒度が高いほど「とても興奮している」を意味しています。
猫との交流と感情の変化
  • 感情価✓訓練(5.06) <給餌(6.46)
  • 覚醒度✓触れあい(3.15)・給餌(3.37)<遊び(4.61)
    ✓触れあい(3.15)・給餌(3.37)<訓練(4.50)
 上記SAMと交流の成功率との関係性を検証したところ、感情価が高いほど(人が楽しいと感じているほど)すべての交流の成功率が高いことが判明しました。また覚醒度が高いほど遊びの成功率が高かったとも。
 こうしたデータから調査チームは、猫との触れ合い、遊び、訓練という交流が人の前頭前野における血流量を増やし、認知機能や実行機能を高める可能性があるとの結論に至りました。
Effects of the characteristic temperament of cats on the emotions and hemodynamic responses of humans.
Nagasawa T, Ohta M, Uchiyama H (2020) PLoS ONE 15(6): e0235188. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0235188

猫のしつけ(訓練)にチャレンジ!

 交流のタイプに関わらず前頭前野における血流量が増えたことから、猫と接する事自体が大なり小なり脳を活性化してくれるようです。活性化だけに着目すると犬やウマでも同じ現象が引き起こされるかもしれませんが、「猫」という動物に特有と思われる傾向も確認されました。それは交流の成功率が低いほど脳の活性度が強まるという関係性です。
 被験者のデータから交流の成功率を算出したところ、遊び(36.02%)や訓練(35.46%)の成功率は触れあい(62.78%)や給餌(75.65%)よりも統計的に低いことが明らかになりました。一方、血流量ベースで見たときの脳(下前頭回)の活性度は、右でも左でも成功率が高い「給餌」が最低で成功率が低い「訓練」が最高です。この逆説的な現象に関しては、ちょうど難易度の高いゲームにチャレンジするときと同様、「少し難しい方が頭を使う」というメカニズムが働いたのではないかと考えられています。それを裏付けるかのように、SAMベースで評価した覚醒度に関しては、成功率が高い触れ合いや給餌よりも、成功率が低い遊びや訓練の方が統計的に有意なレベルで高くなる(=興奮する)ことが確認されました。平たく言うと「思い通りに動いてくれない猫様の機嫌を伺いながら遊びや訓練に興ずるのはエキサイティング!」となるでしょうか。なお給餌に関しては、下前頭回の活性度は最低でしたが、主観評価(感情価)では最も高い値となりました。こちらは訓練や遊びの「楽しい」という感覚より、「癒やされる」という感覚なのかもしれません。
 過去に行われた調査では、動物との交流が自閉症を患う子供の社会的コミュニケーション能力の向上につながったと報告されています。犬と比べたとき、猫は訓練やしつけになかなか反応してくれませんが、「訓練する」という行動それ自体が飼い主の脳を活性化し、認知機能や実行機能(課題目標に即して思考と行動を管理統制する汎用的制御メカニズム)の維持・向上につながってくれる可能性がありますので、古典的条件づけやご褒美ベースの「オペラント条件付け」の基本くらいは抑えておきましょう。
遊びに関しては「猫と楽しく遊ぶ方法」がちょうどよい資料になります。訓練と調教は違いますので、必ずご褒美ベースの正の強化を基本としてください。詳しくは「猫のしつけの基本」で解説してあります。