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電磁波(RF-EMF)は犬や猫に安全か危険か~首輪装着型デバイスによる悪影響は小さい

 ペットの首輪に装着して位置情報や健康状態をモニタリングする小型デバイスが人気を集めています。こうした機器はわずかならが無線周波数電磁界(RF-EMF)を発していますが、体に害はないのでしょうか?

犬猫向け小型デバイスと電磁波

 無線周波数電磁界(RF-EMF)とは300~300ギガヘルツに属する電磁波の周波数帯域のこと(WHO定義)。電磁波が生体組織内に浸透する深さは周波数と負の関係にあり、周波数が高ければ浅く、低ければ深くなります。例えばメガヘルツレベルの場合は30cm近く浸透するのに対し、6ギガヘルツの場合は1mm程度しか浸透しないなどです。
 生体内に浸透するという性質上、健康との関係には高い関心が寄せられており、各種の調査結果から国際がん研究機関(IARC)はRF-EMFをグループ2B(=ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に区分しています。
 RF-EMFは人間と生活空間を共にするペット動物とも無関係ではありません。例えば迷子になったときの位置情報追跡デバイスとしてGPS付きの機器を装着している場合や、健康状態をモニタリングするため活動計を装着している場合などです。では、こうした機器から放たれるRF-EMFはペットたちの体にどの程度の悪影響をもたらしているのでしょうか? 無線周波数電磁界(RF-EMF)の帯域一覧図  調査を行ったのはオーストリアにあるウィーン獣医大学のチーム。市販されているペット用のトラッキングデバイスを21種類(犬専用7+猫専用4+犬猫兼用8+その他2)集め、それぞれが発するRF-EMFのレベルを推計しました。その結果が以下です。比吸収率(SAR)とは体が電波にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量のこと、「μ(マイクロ)」とは百万分の1のことを意味します。
比吸収率(SAR)
  • 無線ラン:60~810μW/kg
  • DECT:13~27μW/kg
  • 見守りカメラ:10~370μW/kg
  • Bluetooth:466μW/kg
 職業上、ばく露量が多い場合を除いた人間における基本制限(許容される最大ばく露量の目安)に関しては全身が0.08W/kg、局所が2.0W/kgとされています(ICNIRP基準)。上記した値を基本制限と照合した結果、ペット向けデバイスによるRF-EMFばく露は、人間に設けられている参照レベルを遥かに下回るため、現時点で有害事象が起こるとは考えにくいとの結論に至りました。
Tracking Devices for Pets: Health Risk Assessment for Exposure to Radiofrequency Electromagnetic Fields
Klune, J., Arhant, C., Windschnurer, I., Heizmann, V., Schauberger, G, Animals(2021), 11, 2721. DOI: 10.3390/ani11092721

電磁波による影響は未知

 推計の結果、ペット向けの小型デバイスが発するRF-EMFが犬や猫の健康を害する可能性はかなり低いことが明らかになりました。しかし電磁波ダメージは累積しますので、以下のようなばく露ルートも考慮しなければなりません。
ペットのRF-EMFばく露
  • ラジオ
  • テレビ
  • スマートフォン
  • 携帯電話の基地局
  • 無線LANルーター
  • Bluetooth
  • ハンドヘルドデバイス
  • 見守りカメラ
  • DECT(デジタル強化無線電気通信)
  • パソコンや周辺機器
 一部の研究では携帯電話の使用とグリオーマ(脳腫瘍の一種)や聴神経腫との間に正の関係があると指摘されています。また子供に対する携帯電話の影響は脳の皮質、海馬、視床下部、頭蓋骨髄、そして眼球においてとりわけ大きいとされています。 首輪装着型のデバイスから発せられるRF-EMFによる影響は視できない  人間における携帯電話の使用位置と、ペットにおける首輪装着型デバイスの位置は同等のため、人間において示唆されている各種の悪影響がペットにも当てはまると考えるのが妥当です。こうした知見を踏まえ、調査チームは以下のようなアドバイスをしています。
ペットの電磁波予防
  • 必要ないときはこまめにスイッチを切る
  • 必要ないときは可能な限り外す
  • 首輪でなくできればハーネスに装着する
  • 電磁波への感受性が高い若齢動物は要注意
  • 3Gや4Gテクノロジーを優先する
 世界保健機構(WHO)は、RF-EMFが生体に対して及ぼす影響にはまだ未知の部分が残されているため、行動、生殖能力、加齢に対する影響を優先的に研究していく必要があると提言しています。日本国内でも健康状態をモニタリングする犬猫向けデバイスが人気ですが、RF-EMFによる影響は人においても動物においてもまだ研究段階です。上記した各種のアドバイスは頭の片隅に置いておきましょう。
テレビやラジオに設けられているのと同等の安全距離を確保するためには、本来2~35mが必要とされています。パソコン後部の送風口で猫が昼寝をするのも、本当はあまり望ましくありませんね。