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日本における猫の新型コロナ感染率(2020年7月版)

 飼い主からペットへ感染することが強く示唆されている新型コロナウイルス。日本に暮らす猫たちの感染率はどの程度なのでしょうか?2千頭近い血液サンプルを対象とした大規模な調査が行われました。

猫の新型コロナ感染率・2020年版

 調査を行ったのは北里大学を中心とした複数の大学からなる共同研究チーム。一般的に「新型コロナウイルス」の俗称で知られるSARS-CoV-2の猫における感染率を推計しました。

ELISAベースの陽性率

 解析対象となったのは2020年6月1日から7月31日までの期間、日本全国(東京・千葉・神奈川・大阪・京都・愛知・静岡・岩手)に散らばる101の動物病院を様々な理由で受診した猫たちの血液1,969サンプル。新型コロナウイルスに含まれる固有のタンパク質構造をターゲット抗原としたELISA(酵素結合免疫吸着法)を開発してS1タンパクに対する陽性率を調べたところ、0.46%(9サンプル)だったといいます。

中和抗体検査での陽性率

 上記した事実は猫がSARS-CoV-2に感染している(もしくはしていた)ことを即座に意味しているわけではなく、あくまでもウイルス表面のタンパク質を認識できると言うだけです。
 そこで調査チームはELISAで陽性判定を受けた9サンプルを用い、中和抗体価(細胞変性効果を100%抑制するぎりぎりの濃度)を調べることで血液が実際にウイルスを抑制する能力を有しているかどうかを調べ直しました。その結果、1サンプル(全体の0.05%, 希釈濃度1:80)だけが実際に中和能力を有していたといいます。また少なくとも医療記録上、この猫は過去3ヶ月間呼吸器系、消化器系、発熱等の症状は示しておらず、飼い主の感染有無も不明とのこと。さらにこの数値を2020年6月初旬における人間の中和抗体保有率0.10%(8/7,980)と比較したところ、統計的な差異は認められなかったそうです。
Serological Study of SARS-CoV-2 Antibodies in Japanese Cats: Analysis of Risk Factors Among Cat Lifestyles
Imanishi I, Asahina R, Hayashi S, et al., Research Square(2022), DOI: 10.21203/rs.3.rs-1113354/v1

今まで以上に重要な室内飼育

 当調査で人間と猫の中和抗体陽性率が統計的に変わらないことが示されました。人における感染状況が、どうした訳かそのまま猫にも反映されるようです。

危険因子は「屋外アクセス」

 調査チームは猫の中和抗体保有率に関する報告がある海外5ヶ国(中国・クロアチア・ドイツ・イタリア・フランス)のデータを参照し、感染のリスクファクターが何であるかを検証しました。その結果、室内飼育率と血清陽性率が強い負の関係にあることが判明したといいます。言い換えると「室内飼育の猫ほどリスクが低く、屋外アクセスできる猫ほどリスクが高い」となります。具体的な数値は以下です。 新型コロナウイルスに対する猫の中和抗体陽性率とライフスタイルの関係グラフ

室内飼育による感染予防

 飼育環境と感染率の関係に関し調査チームは、人同士では「ソーシャルディスタンス」が基本とされているものの、猫に対しては同等の配慮がなされておらず、ベタベタ触る人間が多いからではないかと指摘しています。また症状を示さない不顕性感染猫が屋外を散策する際、他の猫に移すことで感染が広がった可能性があるとも。
 前者に関しては鼻マスクで外猫を撫で回す自称猫写真家がいることからも明らかです。後者に関しては実験により猫から猫への空気感染が成立することが確認されています。猫は他の動物種に比べて感染しやすく、また重症化する危険性が指摘されています。世界各国で報告されている猫の感染例の多くでは、人から猫へというルートが強く示唆されていますので、飼い主が猫にウイルスをうつさないよう、最新の注意を払わなければなりません。
 東京都獣医師会の言葉を借りれば「ペットを守るために大切なことは、飼い主であるあなたが感染しないことなのです」となり、当調査チームの言葉を借りれば「猫を室内飼育することが最も効果的な予防策の1つ(housing cats indoors is considered one of the most effective preventive measures to control the)」となります。
猫の体内で変異株が発生するリスクを否定できません。感染性や病原性は予測できませんので、猫を室内飼育することがこれまで以上に重要視されなければならない時代に入りました。