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マイクロチップが猫の背骨の中に迷入した症例

 非常に稀ではありますが首筋に挿入したマイクロチップが脊髄を囲んでいる脊柱管の中に迷入してしまう症例があるようです。

猫における異物侵入性の脊髄損傷

 報告を行ったのはドイツ・バイエルン州オーバーハヒングにある小動物クリニック。マイクロチップを挿入してすぐ麻痺と歩行不全を発症した生後15週齢のブリティッシュショートヘア(オス/1.3kg)がオーバーハヒングにある神経系疾患の二次診療施設を受診しました。  頚椎エックス線写真で斜めに突き刺さったマイクロチップが視認され、第1頚椎と第2頸椎レベルの脊柱管にとどまっていることが明らかになりました。意識と痛覚は正常だったものの頚部のうなだれが見られたといいます。 猫の脊柱管内に迷入したマイクロチップのエックス線画像  運動能力に関しては左前肢および左後肢に顕著な筋トーヌス亢進を伴う麻痺が見られ、足先での荷重や位置取りができず、合わせて右前肢の軽度の機能障害が確認されました。脊柱の触診で痛みの兆候は見られず、神経学的に引っ込め(屈曲)反射と膝蓋腱反射はおおよそ正常だったとも。血液検査値に関してはヘマトクリットの微減(28.4%)を除いて異常はなかったそうです。 挿入性脊髄損傷から1日後における猫の荷重不全  CTスキャンによる精密検査でC1~C2レベルの脊柱管内に長さ10mm×直径2mmのマイクロチップが確認され、神経解剖学的な所見からC1~C5レベルの脊髄症と診断されましたが、侵入した異物による脊髄の偏位や骨組織への損傷は見られませんでした。
 治療に際しては外科的な介入による医原性の症状悪化を懸念し、薬物治療(リンゲル液投与とデキサメタゾン×2日)と理学療法による保存療法が優先されました。
 受傷から6日後、うなだれが改善して排尿と排便にも問題が見られず、自立歩行能力も回復したといいます。それから6週間、全快には届かないまでも筋肉の麻痺や運動失調が目立たなくなり、高い場所に登ったりジャンプしたり走ったりできるようになったそうです。症例報告が行われた時点で20ヶ月齢になっていましたが、元気に暮らしているとのこと。 挿入性脊髄損傷から5週間後における猫の正常な歩様 Recovery after inadvertent intramedullary microchip implantation at C1-C2 in a kitten
Journal of Feline Medicine and Surgery(2022), Nina Schneider, Andreas Blutke, Birgit Parzefall, DOI: 10.1177/20551169221081398

マイクロチップによる後遺症の危険性

 人間における異物侵入性の脊髄損傷(PSCI)は銃弾によるものが多く、外科療法と投薬治療のどちらがよいかははっきりわかっていません。
 外科的に異物を除去する場合、犬や猫では半椎弓切除術や全椎弓切除術を行った症例が過去に報告されています。いずれにしても全身麻酔を要する侵襲性の高い手術で、その手術自体が症状の悪化につながる危険性をはらんでいます。
 幸運なことに今回の患猫は投薬治療だけで大幅な症状の改善につながりましたが、成長に伴って異物の微妙な位置変化が確認されましたのですべての症例でうまくいくとは限りません。例えば人医学の分野でも獣医学の分野でも、後遺症として神経学的な機能不全、脊椎の安定性低下、脳脊髄瘻、異物の異所迷入による肉芽腫や膿瘍の形成、脊髄炎、くも膜炎とそれに随伴するくも膜憩室、脳脊髄液の漏出などが報告されています。
 調査チームは異物侵入性の脊髄損傷が確認された場合、たとえ薬物治療や保存療法によく反応したとしても、数年レベルの長期スパンで症状の再発や悪化をモニタリングする必要があると忠告しています。
事故の詳しい経緯は記載されていませんが、解剖学的な知識のない素人がインプラントを行ったのかもしれません。日本でも同じことが起こらないことを願います。犬猫のマイクロチップ・完全ガイド