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FELIWAY(フェリウェイ)© オプティマムの拡散器で猫の問題行動は本当に減るのか?

 猫の行動を落ち着かせる作用があるというフェロモン製品「FELIWAY(フェリウェイ)© Optimum diffuser」。本当に額面通りの効果はあるのでしょうか?400頭を超える猫たちを対象とした前向きの観察実験が行われました。

フェロモン製品と猫の問題行動

 調査を行ったのはエジンバラ大学付属獣医学校とCevaの共同チーム。調査班自ら、もしくはマーケティング企業を通じて集めた猫の飼い主たちを対象とし、猫の気分を落ち着かせる作用があるとされる製品の効果を「CABIAS(Cat Behaviour Issues Assessment Scale)」と呼ばれる新しい行動指標を用いて検証しました。

調査対象

 調査対象となったのは18歳以上の世話人が少なくとも2人いる猫飼い世帯。参加基準としては問題行動の有無に関わらず1歳以上の猫を1~2頭飼育していること、猫用トイレと専用の爪とぎがあること、猫の行動を変容させる薬やフェロモン製品を用いていないこと、バイアスがかかりやすいペット関連企業に関わっていないことなどが設定されました。また猫の基準としては屋外で過ごす時間が半分以下であること、行動を変化させるような持病を抱えていないこと、過去1ヶ月間自宅から離れていないことなどが設定されました。
 最終的な解析対象となったのは単頭飼い274世帯の274頭と2頭飼い110世帯の220頭です。基本属性は平均年齢は6.1歳、メス54%+オス46%、不妊手術率85%でした。

調査方法

 まず猫の4大問題行動として不適切な爪とぎ、不適切な排泄(粗相)、過剰な怖がり、同居猫との相性が設定されました。次に問題行動の増減を客観的に推し量るため、「CABIAS(Cat Behaviour Issues Assessment Scale)」と呼ばれる新しい行動指標が採用されました。これは問題行動の頻度を0(まったくない)~6(1日3回以上)までの7段階で評価し、問題行動の程度を視覚的アナログスケールとよばれる指標で直感的に評価した後、「頻度×程度」という計算式に当てはめて0~60の間で問題行動スコアを数値化するというものです。
 最初の2週間は問題行動の有無に関わらずフェロモン製品は導入されず、3~6週(開始から15日~42日)のタイミングで一部の世帯にだけフェロモン製品が配布されました。フェロモン製品はフランスのCeva社が販売している「FELIWAY© Optimum diffuser」と呼ばれる拡散器(ディフューザー)で、猫の行動を落ち着かせるとされる人工フェロモンを成分として含んでいます。
問題行動問題あり
+製品あり
問題あり
+製品なし
問題なし
+製品あり
問題なし
+製品なし
爪とぎ12613186151
粗相8776125206
怖がり14210570177
相性81812335

調査結果

 2人の世話人それぞれに週1回のペースで猫の問題行動を評価してもらい、調査開始前の1回を含めた合計7回の評価ポイントにおいて評価者間の信頼度を調べました。その結果、どのポイントにおいても「高い一致」に該当する0.88~0.97という数値を示したと言います。
 主要評価ポイントにおける猫たちの問題行動スコアの遷移グラフは以下です。数値は過去1週間を振り返って猫が特定の問題行動を示した割合です。 フェロモン製品導入の前後において、猫が「爪とぎ」という問題行動を示した割合の遷移 フェロモン製品導入の前後において、猫が「粗相」という問題行動を示した割合の遷移 フェロモン製品導入の前後において、猫が「怖がり」という問題行動を示した割合の遷移 フェロモン製品導入の前後において、猫が「同居猫との相性」という問題行動を示した割合の遷移 Development of a Cat Behaviour Issues Assessment Scale (CABIAS) Assessing Problem Behaviours in Cats
Kevin McPeake, Andrew Sparkes et al., Animals 2023, 13(18), 2992; DOI:10.3390/ani13182992

製品の評価は慎重に

 フェロモン製品の導入前後において、各種問題行動の報告率が如実に減っています。この事実だけから考えると製品に効果があったような印象を受けますが、評価は慎重に行わなければなりません。
 まず調査に参加した世帯数は多いものの、なぜか統計的な有意差が計算されていませんので数値上に現れた減少が偶然なのかどうなのかが今ひとつはっきりしません。また製品を配布する際、「本物の製品/偽物の製品」という形ではなく、ただ単にランダムで選んだ世帯だけに本物の製品を配布するという形で行われました。いわゆる偽薬(プラセボ)群が設けられていないデザインですので、製品を渡された方に「効果があるに違いない!」という暗示がかかり、結果としてポジティブな方向に数字の変化が現れやすくなってしまいます。さらに調査のスポンサーが当該製品を作っているCeva社ですので、調査班自体がスポンサーバイアスの影響を受け、事前に決められた結論に強引に誘導している可能性を否定できません。 FELIWAY オプティマム
 当調査で用いられた商品は日本国内でも流通するようになりました。某通販サイトのレビューを見ると、好意的なものがある一方、否定的なものもそこそこ散見されます。「効果がなかった」だけならハズレくじを引いただけの話ですが、中には「行動が悪化した」という気になる報告をしているものもあります。エビデンスグレードはかなり低い状態ですので、製品の効果を過信せず「もしかしたら悪化するかも…」という慎重な心構えを持っておくとよいでしょう。
当商品は結構な高額です。試してみる価値はありますが、事前に返品規定をよくご確認ください。