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L-カルニチン~安全性と危険性から効果まで

 キャットフードのラベルに記された「L-カルニチン」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

L-カルニチンとは?

 L-カルニチン(carnitine)とは哺乳動物の身体にあるほぼすべての細胞に存在するアミノ酸由来の物質です。L-カルチニン、アセチル‐L-カルチニン、プロピオニル‐L-カルチニンといった複数の物質を総称的に表しています。頭の「L」は 構造が鏡像の関係にある異性体「D-カルニチン」と区別するためのものです。「D」の方は体内において活性を持たず、またL-カルニチンの作用を阻害するため欠乏症の原因になることがあります。当ページ内でただ単に「カルニチン」と言った場合、指しているのはすべてL体の方です。 L-カルニチンの分子構造模式図  基本的な役割は細胞内において長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に運搬し、β酸化を促してエネルギーを産生することです。その他、生成された有毒な物質をミトコンドリアの外に運び出して蓄積するのを防ぐ働きもあります。カルニチンの95~98%が骨格筋や心筋に存在している理由は、こららの組織が多くのエネルギーを必要とするからです。

カルニチンは安全?危険?

 L-カルニチンを猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?
 L-カルチニンは日本の食品衛生法で「人の健康を損なうおそれのないことが明らかであるもの」および「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」とされています。添加物ではありませんので使用基準は特に設けられていません。また海外ではJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)でもEFSA(欧州食品安全機関)でも一日摂取許容量(ADI)や使用基準は設定されておらず、国際がん研究機関(IARC)によって発がん性も確認されていません。
カルニチンの安全性情報・概要
  • 厚生労働省=食品扱い
  • IARC=発がん性なし
  • EFSA=使用基準未設定
  • JECFA=使用基準未設定
  • ペットフード=使用基準未設定
 L-カルチニン、アセチルL-カルチニン、プロピオニルL-カルチニンは医薬品でもありませんので、どれも医師の処方箋なしでサプリメントとして買うことができます。人間向けのサプリ商品は多くの場合、体重減少(ダイエット)の補助、脂肪燃焼効果、運動能力の改善などを謳(うた)っていますが、医薬品であると誤解されるような怪しい表記はできないことになっています。
 猫(キャットフード)におけるカルニチンの役割をざっくりまとめると以下のようになります。
  • 必須栄養素ではない
  • 肝リピドーシス(脂肪肝)との関係性が疑われている
  • 補給によって肝リピドーシスを予防できるという報告がある
  • 脂肪酸の酸化能力が高まるかもしれない
  • ダイエットに効果がある可能性が示されている
  • 大量に摂取しても副作用はまずない
 上記したような位置づけにより、ダイエットや体重減少を目的とした療法食などに多く用いられています。果たして効果は本当なのでしょうか?

カルニチンのダイエット(減量)効果

 人においても猫においても、カルニチンサプリメントがダイエットに有効であるという報告がいくつか挙がっています。

消費エネルギーの増加効果

 P&Gの調査チームは普通体型の猫13頭とやや肥満体型の猫7頭を対象とし、カルニチンサプリメントが代謝にどのような影響を及ぼすかを検証しました。
 基本フードは共通とし、各グループの半数にだけカルニチンを100ppm(1kg中に100mg)の割合で含んだフードを合計42日間に渡って給餌した結果、普通体型の猫においてはカルニチンの有無に関わらず試験中の安静時消費エネルギーと呼吸商(※エネルギー源としてどの栄養素が使われたかを示す指標)に違いは見られなかったといいます。一方、肥満体型の猫においてはカルニチンサプリメントを受けていたグループにおいてだけ、空腹時および食後の安静時消費エネルギーが増え、逆に呼吸商が低下したとのこと。呼吸商の低下(=脂質の代謝率増加)に関しては試験開始から42日目、食後210分までという限定付きでした。さらに遊びへのモチベーションを特殊なセッティングで調べたところ、普通体型の猫よりも高い値を示したそうです。
 こうした結果から調査チームは、カルニチンサプリメントを肥満体型 の猫に与えると、たとえダイエット中でなくても安静時消費エネルギーを増加させ、運動量を増やしてくれる可能性があるとの結論に至りました。また肝リピドーシス(脂肪肝)を発症するリスクを低下させてくれるかもしれないと言及しています出典資料:Shoveller, 2014

脂肪燃焼効果

 コーネル大学の調査チームは肥満体型の猫32頭を対象とし、L-カルニチンがダイエットに及ぼす影響を検証しました。具体的な方法は、猫たちをランダムで8頭ずつからなる4つのグループに分けて与える減量フードは共通とし、カルニチンを50ppm、100ppm、150ppm、何もなしという違いをもたせて約4ヶ月間(自由摂食で28日+カロリー制限をして84日)に渡って給餌するというものです(※1ppm=フード1kg中に1mg)。
 試験開始前後、およびグループ間におけるエネルギー代謝をさまざまな指標で比較したところ、除脂肪体重(骨と筋肉)と安静時におけるエネルギー消費量との比率は、サプリなしグループと比較してサプリメントありグループでは濃度に関係なく有意に高かったといいます(=エネルギー消費量が多い)。また試験開始前と比べて比率の高まりが見られたのはサプリメントありグループだけでした。さらに呼吸商に関しては、減量フード給餌開始から42日目時点において、濃度に関係なくサプリメントありグループの方がなしグループよりも統計的に有意なレベルで低い値を示し、脂肪酸の酸化量に関しては逆に高い値を示したとも(=脂肪の代謝が活発)。
 こうした結果から調査チームは、ダイエットのためにカロリー制限を受けている肥満猫においては、L-カルニチンのサプリメントが脂肪の酸化を促し、効果的な減量につながる可能性が高いとの結論に至りました出典資料:Center, 2012

ケトーシス予防効果

 フランスのアルフォール国立獣医大学の調査チームは肥満体型の猫たちをランダムで2つのグループに分け、7頭にはカルニチンを40ppmの割合で含んだフードを、4頭には1000ppmの割合で含んだフードを給餌し、減量に及ぼす影響を検証しました。
 その結果、40ppmの低カルニチングループにおいては食事制限中および肝リピドーシス(脂肪肝)発症中における脂肪酸の血漿濃度が2~3倍に増加したといいます。またカルニチンの前駆体であるβヒドロキシブチレイトは10倍超の増加を見せたとも。一方、1000ppmの高カルニチングループにおいては肝リピドーシスを発症している間だけβヒドロキシブチレイトの増加が見られたそうです。
 こうした結果から調査チームは、カルニチンサプリメントは肥満状態の猫が食事制限中に発生するケトーシスの予防につながるかもしれないと指摘しています。具体的には避妊・去勢手術後の食事制限や、肥満猫のダイエットのため食事制限する際などです出典資料:Blanchard, 2002

ダイエット促進効果

 コーネル大学の調査チームは一般家庭で飼育されている肥満体型の猫をランダムで2つのグループに分け、摂取カロリーを必要量の60%に制限(体重1kg当たり1日60kcal)した上で、14頭には1日250mgのカルニチン水溶液、10頭にはプラセボ(偽薬)を与えてどのような違いが見られるかを検証しました。
 その結果、どちらのグループでもカルニチンの値が増加したものの、サプリグループの方が増え幅が大きかったといいます。またカルニチングループではプラセボグループと比べて減量スピードが早く、18週間で20%の減量に成功したとも。
 調査チームはカルニチンサプリメントが血漿カルニチン濃度を上昇させ、肥満猫の減量を効率化させる働きがあるのではないかと推測しています。なお給餌試験中に副作用は見られなかったそうです出典資料:Center, 2008

カルニチンの必要量は?

 心臓を始めとする筋肉の働きを維持するために必要なカルニチン。ではいったいどのくらいの量を摂取するのが適正なのでしょうか?

カルニチンの摂取と生合成

 カルニチンは赤身の肉、魚肉、鶏肉、牛乳などの動物性食品に豊富に含まれています。また人間や猫を含む哺乳動物においてはカルニチンの前駆体であるγ-ブチロベタインが体のいろいろな組織内で生成された後、肝臓に送り込まれて最終的にカルニチンに生合成されます。必要なのはリジンやメチオニンのほか鉄、ビタミンC、ビタミンB6です。 カルニチンの生合成経路・模式図  動物性食品を日常的に食べている健康な人の場合、1日に必要な量が自然に摂取されますので欠乏症に陥ることはありません。また仮に動物性食品を摂取していなくても、合成に必要なアミノ酸やビタミン類さえが足りていれば体が自動的に補って欠乏症を防いでくれます出典資料:eJIM「カルニチン」

人間におけるカルニチン必要量

 人間におけるカルニチンの必要量は特に定められていません。一次性もしくは二次性のカルニチン欠乏症患者に対して投与されることもありますが、これは不足分を補うための療法食ですので健康な人が摂取する必要はありません。ダイエットを目的として市販されているサプリメントの場合は、1日の摂取目安が500~1,000mgとされています。
 逆に過剰摂取した場合の副作用としては、吐き気、嘔吐、腹部痙攣、下痢、生臭い体臭などが報告されています。こうした症状は1日約3gを摂取した場合のものですので、体重50kgの人を想定すると体重1kg当たり1日60mgとなるでしょう。
 なお人間におけるカルニチン欠乏症は先天的な原因と後天的な原因の両方によって発症します。先天的な原因は遺伝性疾患で、細胞内におけるカルニチン輸送システムが正常に機能しないことで心筋症、骨格筋の脱力、低血糖などの症状が5歳未満の若齢で引き起こされます。一方、後天的な原因は以下です出典資料:カルニチン欠乏症の診断・治療指針2018
二次性カルニチン欠乏症の原因
  • 動物性食品の摂取不足
  • 肝不全による合成障害
  • 下痢や透析による大量の喪失
  • 胃腸疾患による吸収障害
  • 腎不全による再吸収量の低下
 ベジタリアンやヴィーガンなど、動物性食品の摂取量が極端に少ない人の場合は、たとえ健康でも血中のカルニチン濃度が低くなります。もし猫が上記したような植物由来の食事を主食としている場合、同じメカニズムを通してカルニチン不足に陥るかもしれません。

猫におけるカルニチン必要量

 猫におけるカルニチンの必要量も定められていません。過去に行われた給餌試験ではフード1kg中に50~1000mg(50ppm~1000ppm)という割合で含まれていましたが、副作用は見られなかったといいます。またダイエットを目的として販売されている市販の猫向け療法食は500ppm程度のようです。一方、食事による犬や猫のカルニチン欠乏症を予防する方法として特許を申請している人によると、理想は700ppmとのこと出典資料:Shug, 2001。より安価に入手できるカルニチン前駆体「γ-ブチロベタイン」の場合、最低1,000ppm程度が妥当ではないかとも言及しています。
カルニチンはそもそも体の中に存在している成分ですので、よほど大量に摂取しない限り有害反応は起こりにくいと考えられます。ベジタリアンフードや肝臓の障害で欠乏症に陥る危険性がありますので気をつけましょう。