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ラクトバチルス(乳酸桿菌)~安全性と危険性から適正量まで

 キャットフードのラベルに記された「ラクトバチルス」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

ラクトバチルスの成分

 ラクトバチルス属(Lactobacillus)はフィルミクテス門に属する乳酸菌の一種。糖を代謝して乳酸にする働きを有しています。「乳酸桿菌」の異名が示すとおり、電子顕微鏡で見た形は細長い棒状(桿)です。 キャットフードの成分として用いられる「ラクトバチルス」の電子顕微鏡拡大写真  猫にラクトバチルスを与えると健康になるのでしょうか?この問いに対する答えは「ラクトバチルスにはたくさんの亜種があるため一概には言えない」となります。
 猫に対する推奨給餌量が調査によって示されているもの、人間に対する安全性は確認されているものの猫ではよくわかっていないもの、効果がはっきりしないまま見切り発車で使われているものなどさまざまです。また東京大学が行った調査により、ラクトバチルスはそもそも腸内に保有していな猫がかなりいる可能性が示されています。系統の豊富さや加齢による変動があるため、健康とラクトバチルスとの因果関係は多くの場合よくわかっていません猫の腸内細菌(フローラ)は年齢とともに数も種類も変わる  キャットフードや猫向けサプリメントに用いられている菌株は「アシドフィルス」「ロイテリ」です。微妙に作用が異なるにも関わらず、多くの場合キャットフードのラベルには系統も含有量も記載されていません。どのような作用や効果を持っているのかを学術論文とともに具体的に見ていきましょう。

ラクトバチルスは安全?危険?

 ラクトバチルスを猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはラクトバチルスに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

ラクトバチルス・アシドフィルス

 ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)は通性嫌気性のグラム陽性菌の一種。人を含む哺乳動物の消化管や口内に生息しているありふれた菌です。系統(菌株)の中には腸内細菌叢を変化させて健康増進につながる可能性を持ったものがいくつかあり、人間だけでなく猫に対しても頻繁に与えられています。

アシドフィルスDSM13241

 臨床上健康な15頭の猫を対象とし、普通のドライフード5週間(ベースライン)→サプリメント(プロバイオティクス)として「ラクトバチルス・アシドフィルスDSM13241(1日20億CFU)」を含んだフード4週間半→その後再びサプリなしのフード4週間という給餌試験を行いました。
 その結果、DSM13241が便中から検出され、少なくとも腸管を生きた状態で通過できることが確認されたといいます。また便中では、おそらく乳酸生成量増加が原因と思われるpH低下のほか、ラクトバチルス属の増加およびクロストリジウム属とエンテロコッカス・フェカリスの減少が確認されました。血液組成では末梢血中における顆粒球の食作用促進、血漿中における内毒素濃度の低下、浸透圧に対する赤血球数の抵抗性増加などが見られたといいます出典資料:Jones, 2006)
 EFSA(欧州食品安全機関)は「ラクトバチルス・アシドフィルスDSM13241」の安全性を検証するため、9頭の成猫を対象とし、13週間に渡って推奨量(完全飼料1kg中300億~2000億CFU)の15倍に相当する量を与えるという給餌テストを行いました。その結果、身体的にも血液的にも異常は見られず、人間向けの製品にも用いられていることから、猫や環境に対して悪影響を及ぼすことはないだろうとの結論に至っています。ただし整腸作用などの効果があるかどうかまでは保証していません出典資料:EFSA, 2004)

アシドフィルスD2/CSL

 メインクーン10頭(メス7頭 | 3~9kg)をランダムで2つのグループに分け、一方にだけ「ラクトバチルス・アシドフィルスD2/CSL」(or CECT4529)を1kg中500億CFUで含んだフードを35日間に渡って給餌するという試験が行われました。その結果、体重に変化は見られなかったものの、給餌35日目の便水分量がサプリグループでだけ統計的に有意なレベルで少なくなったといいます。
 EFSA(欧州食品安全機関)では完全飼料1kg中500億CFUまでなら環境や猫の健康に影響を及ぼすことはないだろうとする一方、試験結果の確実性が低い(10%の確率で偶然かもしれない)ことから疑問を呈しています出典資料:EFSA, 2018)

ラクトバチルス・ロイテリ

 かつてラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)と呼ばれていた菌は脊椎動物の腸管内に広く生息している乳酸菌の一種。非常にたくさんの系統(菌株)が存在しており、そのうちのいくつかはすでに専売特許となっています。なお2020年に行われたラクトバチルス属の再分類により、「Lactobacillus reuteri」は「Limosilactobacillus reuteri」という名称に変更されていますが、一般にはまったく浸透していないため当ページ内では便宜上、調査が行われた当時の名称で記載させていただきます。
 「ラクトバチルス・ロイテリNBF-2」の給餌試験はいくつかあるものの、どのレポートも何らかの不備を抱えていたといいます。例えば給餌期間が15日間と短い、疾患を抱えた猫を対象としている、一般家庭で飼育されている猫の糞便スコアを目視で評価するという主観性、調査に参加した猫がどのように選別されたのかがわからない、猫がしっかりサプリを食べたのかがわからないなどです。
 EFSA(欧州食品安全機関)が2019年に行った検討会では、猫に対して1日600億CFUまでなら健康に悪影響を及ぼすことはないだろうとする一方、「糞便スコア(下痢)が改善する」という効果に関しては、上記したように調査デザインのクオリティが低いため疑問の余地があるととしています出典資料:EFSA, 2019)
 また2022年に行われた最新の検討会でも、完全飼料1kg中1000億CFUの割合でL.reuteri(DSM 32264)を含んでいる場合、便の水分量を減らして固さの改善につながる可能性があるとする一方、長期的に給餌した場合の便秘の危険性は否定できないとしています出典資料:EFSA, 2022)

複合サプリメント

 複数の菌株を1つにしたサプリメント(プロバイオティクス)に関する検証報告がいくつかあります。海外で行われたものですので、当該商品を入手するためには輸入が必要になるかもしれません。

SLAB51®

 治療に反応しない難治性の便秘の猫7頭と便秘と巨大結腸症の両方を抱えた猫3頭を対象とし、複数の菌を含む「SLAB51®」と呼ばれるサプリメントを1日2兆CFU、90日間に渡って給餌するという試験が行われました。製品に含まれる菌は以下の8つです。
SLAB51含有菌群
  • ストレプトコッカス・サーモフィルスDSM32245
  • ラクトバチルス・アシドフィルスDSM32241
  • ラクトバチルス・プランタルムDSM32244
  • ラクトバチルス・カゼイDSM32243
  • ラクトバチルス・ヘルベティカスDSM32242
  • ラクトバチルス・ブレビスDSM27961
  • ビフィドバクテリウム・ラクティスDSM32246
  • ビフィドバクテリウム・ラクティスDSM32247
 臨床上健康な猫5頭と比較した時、便秘の猫ではカハールの介在細胞(ICC, 腸管の運動に関わる)が減少、特発性の巨大結腸症を抱えた猫では腸管神経細胞死の増加が見られたといいます。また給餌試験の結果、慢性腸管疾患の活動性を示す指標「FCEAI」、糞便スコア、腸管粘膜の組織学的なスコアが有意に減少(P<0.001)し、ICCの増加が見られたとも。給餌前および健康な猫に比べ、サプリを摂取した後ではラクトバチルス属とバクテロイデス属が増加が確認されました。
 こうした結果から調査チームは、「SLAB51®」が消化管における粘膜浸潤の減少とカハール介在細胞数の回復を促し、結果として抗炎症作用につながったのではないかと推測しています出典資料:Rossi, 2017)。ただしビフィズス菌を含む複数の菌株が用いられていますので「ラクトバチルスが炎症を軽減する」という効果が証明されたわけではありません。

Proviable-DC®

 慢性の下痢症を抱えた猫53頭を対象とし、複数のプロバイオティクスを含む「Proviable-DC®」(最低50億CFU含有)を21日間に渡って給餌するという試験が行われました。具体的な菌群は以下です。
Proviable-DC含有菌群
  • エンテロコッカス・フェシウム30183
  • ストレプトコッカス・サーモフィルス30189
  • ラクトバチルス・アシドフィルス30184
  • ラクトバチルス・ブルガリカス30186
  • ラクトバチルス・カゼイ30188
  • ラクトバチルス・プランタルム30187
  • ビフィドバクテリウム・ビフィダム30179
 給餌期間終了時における糞便スコアを飼い主が目視評価したところ、スコアが6.0から4.4に改善たといいます。また72%の飼い主は「下痢症状の軽快が見られた」と評価しました出典資料:L.Hart, 2012)。ただしビフィズス菌エンテロコッカスを含む複数の菌株が用いられていますので「ラクトバチルスが下痢症状を軽減する」という効果が証明されたわけではありません。
ラクトバチルスの系統(菌株)や含有量が記載されていない場合、安全性や期待できる効果の検証ができません。猫に対する影響がわからないまま実験的にヨーグルトを与えていませんか?腸内細菌に関する詳細は「猫の腸内細菌(フローラ)」をご覧ください。