トップ猫の栄養と食事キャットフード成分・大辞典野菜類ビートパルプ

ビートパルプ~安全性と危険性から適正量まで

 キャットフードのラベルに記された「ビートパルプ」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

ビートパルプの成分

 ビートパルプ(beet pulp)はヨーロッパ、北アフリカ、中央アジアが原産のアカザ科多年草。日本語では「サトウダイコン」や「甜菜」(てんさい)などと呼ばれます。 キャットフードの成分として用いられる「ビートパルプ」  食用としては根や葉をそのまま食したり、根から砂糖を抽出して利用されたりします。また糖分を搾り取った後に残る根のかす(ビートパルプ)はウマを始めとした家畜の飼料として利用されます。
 キャットフードにも含まれることがありますが、こちらは栄養源としてではなく食物繊維源としてです。ビートに含まれる不溶性の複合型食物繊維は「ビートファイバー」と呼ばれ、ペクチン19%、ヘミセルロース36%、セルロース23%、リグニン3%から構成されています出典資料:日本甜菜製糖

ビートパルプは安全?危険?

 ビートパルプを猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?キャットフードの中にビートパルプを含んだ給餌試験がいくつか行われています。
 腸内細菌叢に関しては、一般的に善玉菌と呼ばれる腸内細菌(ビフィズス菌や乳酸桿菌)を増やす効果があるようです。栄養素の消化性に関しては、乾燥物にしても粗タンパク質にしても影響を与えなかったという報告から、消化性が低下したという報告まであり、今一つはっきりしません。糞便のクオリティに関しては、消化管通過時間が減少して排泄総量が増加すると報告されていますので、「便通が良くなる」という表現がぴったりでしょう。
 以下でご紹介するのが実際に行われた給餌試験の内容です。

Buena, 2000

 28頭のメス猫を対象とし、セルロース(8.8%)、ビートパルプ(8.4%)ペクチン・アラビアガムブレンド(8.6%)を含んだキャットフードを最低15日間給餌し、糞便の状態がどのように変化するかが観察されました出典資料:Buena, 2000
 その結果、酢酸塩や酪酸といった短鎖脂肪酸の吸収量が増加すると同時に、糞便中の細菌叢に変化が見られたと言います。具体的にはビフィズス菌、クロストリジウム属、乳酸桿菌 、プレボテーラ属が増え、カンピロバクター、大腸菌、フソバクテリウム属、パスツレラ、レンサ球菌が減りました。
 こうしたデータから調査チームは、キャットフードに添加する場合は中等度の発酵性を備えたビートパルプが最も適しているのではないかとしています。

Fekete, 2004

 10頭の猫を対象とし、10%の割合で様々な食物繊維を含んだ鶏肉ベースのキャットフードを用いた給餌試験が行われました出典資料:Fekete, 2004。用いられたのはピーナツの殻(リグニン)、ビートパルプ(ヘミセルロース+ペクチン)、アルファルファミール(セルロース)の3種類です。
 給餌試験の結果、乾燥重量ベースで見たときの平均摂食量に大きな違いは見られませんでした。またビートパルプでは乾燥物や粗タンパク質の消化性に大きな変化が見られなかったのに対し、アルファルファミールやピーナツの殻では消化性の低下が観察されたと言います。さらにビートパルプとアルファルファミールでは糞便に含まれる乾燥物の質量が低下したのに対し、ピーナッツの殻では逆に増加したとも。

Fischer, 2012

 24頭の猫を対象とし、コントロール食(食物繊維11.5%)、ビートパルプ(食物繊維26%)、小麦ブラン(食物繊維24%)、サトウキビ繊維(食物繊維28%)を用いた給餌試験が行われました出典資料:Fischer, 2012
 その結果、どの食物繊維でもフードと栄養の消化性が低下したといいます。また食物繊維の発酵性に関してはビートパルプが高く、糞便の乾燥重量とpHが低下すると同時に排泄総量が増加したとも。さらに糞便中の酢酸塩、プロピオン酸、乳酸濃度上昇が確認されました。

Loureiro, 2017

 18頭の短毛猫を対象とし、食物繊維を8.8%(うちビートパルプ0%)、17.5%(うちビートパルプ8%)、23.8%(うちビートパルプ16%)の割合で含んだフードを31日間給餌するという試験が行われました出典資料:Loureiro, 2017
 その結果、ビートパルプでは糞便量が増えて消化管通過時間が減少したものの、糞便に含まれる飲み込んだ被毛の量に変化は見られなかったと言います。
猫におけるビートパルプの適正量に関してはよくわかっていません。腸内細菌の発酵を促すプレバイオティクスに関しては「猫の腸内細菌叢(フローラ)」で詳しく解説してあります。