トップ猫の文化猫の浮世絵美術館国芳以外の浮世絵師かひこ心得草

かひこ心得草

 猫の登場する江戸時代の浮世絵作品のうち、かひこ心得草について写真付きで解説します。

作品の基本情報

  • 作品名かひこ心得草
  • 制作年代1859年(江戸・安政6)
  • 作者歌川芳員
  • 板元佐野屋喜兵衛
かひこ心得草のサムネイル写真

作品解説

 「かひこ心得草」(かいここころえぐさ)は、養蚕(ようさん)の仕方を図示した歌川芳員(うたがわよしかず)の作品です。ちなみに「心得草」(こころえぐさ)とは「手本書」、「手引き」といった意味をもちます。
桑の葉とカイコ  当作品の背景にあるのは、江戸時代後期に発展した養蚕業(ようさんぎょう)、すなわち生糸の生産業です。江戸時代になり町民文化が花開くと生糸や絹製品の需要が高まりました。それに伴い、それまで中国からの輸入に頼っていた生糸や絹を国内で生産しようとする動きが高まります。生糸生産にはカイコ(クワの葉をエサとして糸を吐き出し、サナギを作る。この糸が生糸の原料になる)が不可欠であり、カイコの飼育に関する浮世絵や指南書が数多く刊行されるようになりました(「蚕養育手鑑」・「新撰養蚕秘書」・「養蚕秘録」など)。そういう流れの中で当作品も生み出されたものと思われます。
 手前には子猫と親猫、そしてその姿を優しく見つめる女性の姿が描かれていますが、養蚕業と猫とは、実は切っても切れない仲にあります。生糸を生み出すカイコは生活費を稼ぐ大黒柱であり、非常に珍重されていましたが、天敵はそれを食べてしまうネズミです。ですから養蚕を営む施設内ではネズミよけのための猫が飼われることが多く、猫を飼えない家では「鼠よけの猫」という名の絵を貼って、まじない代わりにしていたところもあります。
養蚕をテーマとした浮世絵と猫
養蚕をテーマとした浮世絵と猫  当作品以外にも養蚕風景を描いた浮世絵作品は多々あり、「蚕やしない草」(歌川芳藤)、「たけの休」(渡辺周渓・貞斎泉晁)、「繭やしない草」(英斎)等がその一例ですが、どの作品にもやはり、ワンポイントとして猫が描かれています。