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皮膚糸状菌症

 人獣共通感染症の内、皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)について病態、症状、原因、治療法別にまとめました。人にも犬猫などのペットにも感染する病気ですので、予備知識として抑えておきましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

皮膚糸状菌症の種類と症状

 皮膚糸状菌症とは、真菌の一種である皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)が感染することで発症する病気のことです。「皮膚真菌症」や「白癬」も呼ばれます。

皮膚糸状菌の種類

 皮膚糸状菌には30種以上の亜種があり、土壌を好むもの、野生動物を好むもの、そして人間を好むものなどに分類されます。以下は大まかな一覧です。なお「M」は「Micosporum」、「T」は「Trichophyton」の略です。
皮膚糸状菌と宿主の関係
  • 家畜動物を好むM.canis(猫)/M.equinum(馬)/M.nanum(豚)/M.gallinae(家禽)/T.equinum(馬)/T.verrucosum(反芻動物)
  • 野生動物を好むT.mentagrophytes/M.persicolor
  • 土壌を好むM.cookei/M.fulvum/M.vanbreuseghemii/T.simii/M.gypseum/T.gerrestre/T.ajelloi
  • 人を好むEpidermophyton floccosum/M.audouinii/T.megninii/T.rubrum/T.schoenleinii/T.tonsurans/T.violaceum小動物の皮膚病マニュアル(学窓社)

皮膚糸状菌症の主症状

 皮膚糸状菌症の症状には以下のようなものがあります。犬や猫に感染するのはイヌ小胞子菌(M.canis)、石膏状小胞子菌(M.gypseum)、トリコフィトンメンタグロフィテス(T.mentagrophytes)の3種ですが、人間にはもっとたくさんの種類が感染します。

犬や猫における症状

 犬や猫が皮膚糸状菌症に感染した時の症状は、顔、耳、四肢の一部分などにほぼ円形の脱毛ができ、その周りにフケやかさぶたが見られるようになります。悪化すると、分厚いかさぶたをともなう丘疹(赤いブツブツ)が見られることもあります。また脱毛部分をかきむしる動作なども見られるようになります。猫の白癬

人間における皮膚糸状菌症の種類

 人間が皮膚糸状菌症に感染した時の症状は、感染部位によって以下のように呼称が変わります。
  • 体部白癬被髪頭部・手・足・股以外に生じる白癬菌感染症です。「たむし」とも呼ばれます。
  • 股部白癬股に生じる白癬菌感染症です。「いんきん」とも呼ばれます。
  • 足白癬足底・足の指の間に生じる白癬菌感染症です。「水虫」とも呼ばれます。英語では「アスリートの足」(athlete's foot)という一風変わった名前がついています。
  • 爪白癬手の爪・足の爪を侵す白癬菌感染症です。「爪水虫」とも呼ばれます。
  • 頭部白癬頭部に生じる白癬菌感染症です。「しらくも」や「ケルズス禿瘡(とくそう)」とも呼ばれます。
体部白癬と頭部白癬 画像出典→体部頭部
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皮膚糸状菌症の原因

 皮膚糸状菌症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
皮膚糸状菌症の主な原因
  • 接触感染  皮膚糸状菌症の感染経路は、主として接触感染です。すでに糸状菌に感染している犬や猫、人などと接触することで感染します。公衆浴場のマットを通じて水虫が移ってしまうなどが好例です。
  • 免疫力の低下 免疫力を低下させるような精神的・身体的なストレスや、免疫力を低下させる後天的な病気などの影響により、通常であれば抑え込めるはずの菌の増殖を防ぐことができず、発症してしまうことがあります。たとえ菌を保有していても免疫力によって抑え込んでいる状態を「不顕性感染」(ふけんせいかんせん)、逆に免疫力が低下して菌が増殖してしまった状態を「日和見感染」(ひよりみかんせん)といいます。
  • 長毛種(?) ペルシャに代表される長毛種で高い感染率が確認されていることから、毛の長さが一因になっていると推測されます。例えば、グルーミングを通して被毛から機械的に菌が除去される割合が短毛種に比べて少ない、ブラッシングを受ける機会が多いため、生じた静電気が空気中を漂っている胞子を引き寄せてしまう、品評会などへの参加により菌を保有した他の猫と接する機会が多くなる、などです。
 世界各国で行われた猫の白癬菌保有率調査によると、イギリスの2.2%(1994年)からブラジルの88.5%(1985年)まで非常に大きな開きがあります。一方日本においては2017年、一般家庭で飼育されている猫216頭を対象に皮膚糸状菌の感染率調査が行われ、1.4%に相当する3頭で菌が検出されました。またそれらは全てイヌ小胞子菌で間違いないとも。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
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皮膚糸状菌の感染源

 「猫可愛がり」という言葉が示すように、愛猫家としては猫の体に顔を埋めてモフモフしたいところですが、皮膚糸状菌の感染源としての側面を忘れてはいけません。

野良猫と皮膚糸状菌

 散発的ではありますが、野良猫から人間に皮膚糸状菌が感染したという症例が報告されています。
野良猫からの糸状菌感染例
  • 1997年野良の子猫を自宅の屋内で飼育し一緒に寝ていた8歳の女児が、「イヌ小胞子菌」による体部白癬を発症した(→出典)。
  • 1982年中学校内で集団検診を行なったところ、頚部を中心とする皮疹が19名で認められ、うち18名からは「イヌ小胞子菌」が検出された。大本の感染源は、女生徒が登校途中で拾ってきた子猫によるものと思われ、猫との直接感染後2~4日で発症したものが11名、人から人への間接感染と思われるものが10名で認められた(→出典)。
  • 1986年脱毛斑のある猫を拾った58歳主婦が、2週間後くらいから顔面、体幹、両前腕に合計81個の痛みの強い鮮紅色で炎症症状の強い紅斑を発症した。培養の結果「イヌ小胞子菌」による白癬であることが判明した(→出典)。
 野良猫を汚いと言う人間に対する対抗心から、道端で拾った猫を家に迎え入れてそのまま添い寝したくなるのは愛猫家の常です。しかし「イヌ小胞子菌」による白癬を発症してしまう可能性を否定できませんので、一旦動物病院に連れていき、ノミダニの駆除と皮膚糸状菌の培養を行ってからにしたほうが無難でしょう。

ペット猫と皮膚糸状菌

 2008年から2010年の期間、熊本県の一診療所において診断されたイヌ小胞子菌による白癬25症例を調べた所、飼育動物が感染源と考えられた症例は24例で、そのうち猫との接触が疑われた例は23例にも及んだと言います(→出典)。また2015年3月から7月の期間、北里大学が行った調査により、ペットショップの猫はおよそ4%の割合で皮膚糸状菌を保有しているという可能性が示されました(→出典)。さらに2017年、同じく北里大学が日本国内の一般家庭で飼育されている猫216頭を対象に皮膚糸状菌の感染率を調査したところ、1.4%に相当する3頭で菌が検出され、それらはすべてイヌ小胞子菌だったと報告されています(→出典)。

感染源は猫<人間!

 日本国内で年間に販売される猫の総数を13万頭(アエラNo.44/朝日新聞社)と想定すると、その4%は5,200頭になります。また日本国内で飼育されている猫の総数を980万頭(ペットフード協会, 2016年度)と想定すると、その1.4%は13万7千頭になります。概算ですが決して少ない数字とはいえませんので、野良猫だろうとペットショップで購入した猫だろうと、ノミやダニの駆除と同時に皮膚糸状菌の有無を確認したほうが無難だと考えられます。 猫の白癬  一方、人間の糸状菌保有率は、足白癬(水虫)が20%(2000万人以上)、爪白癬(爪水虫)が10%(1000万人以上)程度と推定されています(→出典)。この数値から単純計算すると、糸状菌の感染源としては犬や猫よりも人間の方が200倍近く危険なようです。銭湯、プール、スポーツジムなど、不特定多数の人間が集まる場所では、以下のような点に注意したほうが良いでしょう。
人からの糸状菌予防
  • できればお風呂場を共有しない
  • 床を裸足で歩かない
  • タオルを共有しない
  • バスマットを共有しない
  • スリッパを共有しない
  • よく手や体を洗う
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皮膚糸状菌症の治療

 皮膚糸状菌症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
皮膚糸状菌症の主な治療法
  • 犬や猫における治療  犬や猫の皮膚糸状菌症の治療には、抗真菌薬の内服や抗真菌薬の入ったローションや軟膏などの塗布が行われます。また、抗真菌薬の入ったシャンプーで薬浴を行うこともあります。なお、治療を行う前には、皮膚糸状菌に侵された病変部とその周囲の毛を刈って、薬剤が塗りやすいようにする必要があります。猫の白癬
  • 人間における治療  人間の皮膚糸状菌症の治療では、白癬菌を殺す働きのある抗真菌薬を使用するのが一般的です。外用剤は病院や診療所のほかドラッグストアでも入手できますが、爪白癬や広範囲の真菌感染症に用いられる内服薬には医師の診断と処方箋が必要です。
  • 皮膚糸状菌症の予防策  皮膚糸状菌症の予防策は、他の動物から菌をもらわないよう、なるべく不用意な接触を避けるということです。手の写真の黒い部分は、洗い残しが発生しやすい場所を示しています。 手の中で洗い残しが発生しやすい部位
    • 毛の抜け落ちた野良猫を触った手で自分の飼い猫を触らない
    • 感染が疑われる動物を触ってしまったら必ず手を洗う習慣をつける
    • そもそも猫を放し飼いにしない
    • 人間が皮膚糸状菌に感染している場合は不用意に動物を触らない
     また、犬や猫などの動物でも人間でも、免疫力の低下に伴って症状が悪化しますので、日ごろから栄養に気をつけ、ストレスのたまらない生活環境を整えることが重要となってきます。 猫の幸福とストレス
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