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まばたきとは違うスローブリンクの意味は?~猫の気持ちは「好き」ではなく「ほっといて!」

 猫たちはまるでまぶしいかのように、まぶたをゆっくり半分ほど閉じてその状態をキープすることがあります。通常のまばたきとは違うこのしぐさは一般的に「スローブリンク」や「キティキス」などと呼ばれますが、果たしてどのような意味があるのでしょうか?

スローブリンクによる人と猫の交流

 調査を行ったのはイギリスにあるサセックス大学のチーム。猫の飼い主の間で逸話的に報告されている「スローブリンク」(slow blink)に一体どのような意味があるのかを明らかにするため、飼い主および見知らぬ第三者を実験者とした検証を行いました。基本的な用語の解説は以下です。なお当ページ内では便宜上、下記「ハーフブリンク」と「ナロイング」を合わせた概念を「スローブリンク」としています。
猫のしぐさ解説
猫が見せるゆっくりとしたまばたき「スローブリンク」
  • ブリンクまぶたを完全に閉じて0.5秒未満で再び開く(=通常の生理的なまばたき)
  • クローズまぶたを完全に閉じて0.5秒以上保持する
  • ハーフブリンクまぶたを不完全に閉じて0.08秒未満で再び開く
  • ナロイングまぶたを不完全に閉じて0.08秒以上保持する

飼い主によるスローブリンク実験

 調査に参加したのは14の家庭で飼育されている21頭の猫(オス10+メス14/平均7.05歳)。最低3ヶ月間飼育されており、眼科系の疾患を抱えていない個体が選別されました。実験場は普段暮らしている家の中で、再現されたシチュエーションは以下です。
  • ニュートラル部屋の中に猫と飼い主がいるが、話しかけたり目を見つめるなどの交流を持たない/猫からの距離は任意
  • スローブリンク猫が室内のどこか一ヶ所に落ち着いたら飼い主がおよそ1m離れた正面に陣取り、アイコンタクトが確立したタイミングでスローブリンク(まぶたを不完全に閉じた状態を最低0.08秒保持した後、再び開く)をして見せる
 アウトライヤー(極端すぎるデータ)を除外した18頭分のデータを統計的に計算した結果、飼い主がニュートラルな状態な時よりもスローブリンクをして見せたときの方が、猫の「ハーフブリンク」および「ナロイング」が多くなることが明らかになりました。また飼い主のスローブリンクに対してハーフブリンクで応じる確率に関しては、メス猫よりオス猫の方が高かったとも。その他、猫たちの年齢、世帯内での飼育頭数、通常のまばたきと猫のリアクションに関係性は見られませんでした。

第三者によるスローブリンク実験

 調査に参加したのは上記実験とは別の家庭で飼育されている24頭の猫(オス12+メス12/平均6歳)。最低3ヶ月間飼育されており、眼科系の疾患を抱えていない個体が選別されました。実験場は普段暮らしている家の中で、再現されたシチュエーションは以下です。
  • ニュートラル猫と顔なじみではない第三者が部屋の中にいる/人間が猫の対面に座り、手のひらを上に向けた状態で近づくよう促す/視線は猫から外したまま真顔をキープする
  • スローブリンク猫と顔なじみではない第三者が部屋の中にいる/人間が猫の対面に座り、手のひらを上に向けた状態で近づくよう促す/視線は猫から外したままスローブリンク(まぶたを不完全に閉じた状態を最低0.08秒保持した後、再び開く)をして見せる
 アウトライヤー(極端すぎるデータ)を除外した18頭分のデータを統計的に計算した結果、実験者がニュートラルな状態な時よりもスローブリンクをして見せたときの方が、猫の「ハーフブリンク」および「ナロイング」が多くなることが明らかになりました。 人間が示したスローブリンクに対する猫の反応  さらに猫たちのリアクションを「接近=頭や体を差し出された手に近づける」「中立=反応なし」「忌避=頭や体を差し出された手から遠ざける」という3区分でスコアリングしたところ、人間がスローブリンクをしてみせた後においては統計的に有意なレベル(p=0.035)で「接近」の割合が高まったといいます。その他「クローズ」というしぐさにおいて年齢が高いほど多くなるという関係性が確認された以外、猫たちの性別、年齢、世帯内での飼育頭数、通常のまばたきと猫のリアクションに関係性は見られませんでした。
The role of cat eye narrowing movements in cat?human communication.
Humphrey, T., Proops, L., Forman, J. et al. Sci Rep 10, 16503 (2020), DOI:10.1038/s41598-020-73426-0

猫におけるスローブリンクの意味

 飼い主と第三者の両方が参加した実験の結果から、猫たちは相手が飼い主だろうと第三者だろうと、人間が見せるスローブリンクに反応して自分自身もスローブリンクで応えるという行動パターンを有している可能性が示されました。また第三者による実験結果から、人間が見せる「スローブリンク」が猫の接近行動を促す可能性も示されました。これらの事実から総合的に考えたときのスローブリンクの意味は「私はあなたの敵ではない」だと考えられます。

凝視は基本的に敵意

 第三者による実験では当初、猫の目をじっと見つめると言うシチュエーションで行われました。しかし猫たちに強いストレス反応が見られたことから急遽、視線を外したバージョンに切り替えたといいます。この事例が示すように猫の目を凝視すると言う行為は基本的に脅威と解釈されます。

スローブリンクは儀礼的な行動

 他の個体にじっと見つめられた猫は通常、生来のケンカ好きでない限り、そこから発展するかもしれない争いを回避しようとします。そのために最も簡単でなおかつコスパが良い方法がスローブリンクなのではないでしょうか。
 スローブリンクが発生している状況では、相手は今まさに自分の目を見つめていますので、確実にメッセージを認識させることができます。またゆっくり半分だけまぶたを閉じるというしぐさは、通常のまばたきとはっきり違うことが瞬時にわかります。さらにまぶたを半分閉じることに要する消費エネルギーはほとんどゼロです。たったこれだけの投資でケンカや怪我の危険性を避けられるのであれば、大変な安上がりと言えるでしょう。
 飼い主のスローブリンクに対してハーフブリンクで応じる確率に関し、メス猫よりオス猫の方が高かった理由は定かではありませんが、メス猫をめぐって争うことが多いオス猫の方が、戦争回避のための儀礼的な行動に反応しやすいのかもしれません。

スローブリンクは愛情表現ではない

 調査チームは結語において「スローブリンクは猫におけるポジティブな感情の指標である」としていますが、これは大きな誤解を生む危険な表現です。
 スローブリンクを見せている猫たちの心の声を代弁すると「私は敵意を抱いていません」もしくは「争う気はないので放っておいて」です。必ずしも嬉しいや楽しいといったポジティブな感情は伴いませんので、一部の書籍やネット情報で拡散されている「ゆっくりまばたきするのは愛情表現」という風説は鵜呑(うの)みにしない方が安全でしょう。
 当調査内ではなぜか言及されていませんが、過去に行われた別の調査ではスローブリンクが逆にネガティブな感情の指標である可能性も示されています。猫の顔をじっと覗き込む事は基本的にストレス反応を招きますので控えてあげてください。猫カフェに行ってそんなことすると、ひどく注意されることがあります。 猫がゆっくりとまばたきするのは愛情表現ではない?! 猫は親しさにかかわらず人と見つめ合うのが嫌い
猫の方をじっと見ず、無関心な人の方にほど猫はすばやく近づくと言う報告もあります出典資料:Podberscek, 1991)。決して交流を無理強いせず、猫の方から視界に入ってきてじっと目を見つめてきた時は、ぜひスローブリンクで返してあげましょう。