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猫と交流したい人はペースを合わせて!~好かれる人と嫌われる人には理由あり

 猫と交流したい時は自分ではなく猫のペースに合わせることが基本中の基本ですが、100頭近い猫を対象とした観察実験により、やはりこの鉄則が正しいことが確かめられました。

猫に優しい「CATプロトコル」

 調査を行ったのは犬と猫を保護・譲渡しているロンドンの施設「Battersea Dogs and Cats Home」。2020年1月から3月までの期間、人間の接し方によって猫のリアクションがどのように変化するかを確かめるため「CATプロトコル」と呼ばれる簡易ガイダンスを作成し、遵守の前後における猫たちの様子を長時間にわたって観察しました。概要は以下です。
CATプロトコル
  • CControl(制御)とChoice(選択)の頭文字で、自分自身の意志で人間との交流を始めることも止めることもできる状態のこと。
    ✅ゆっくりと猫に手を差し出し自発的に近づくのを待つ。交流を持つかどうかは猫の自主性に任せる。
    ✅猫が触って欲しい時は自分から体を擦り付けてくる。このシグナルが見られない限り無理に触ろうとしない。
    ✅どのくらい猫を撫でるかは猫の意思を尊重し、3秒から5秒に1度のペースで猫の様子を観察する。撫でるのをやめた時、催促するように体を擦り付けて来ない場合は一休みする。
  • AAttention(注意)の頭文字で、猫が見せる感情に関する以下のようなサインに敏感になり的確に反応してあげること。
    ✅自分から距離を置く
    ✅耳が平らになったり後ろを向く
    ✅頭を振る
    ✅背中の皮膚が波打つようにピクピク動く
    ✅鼻先を舐める
    ✅ゴロゴロや体の擦り付けを止めておとなしくなる
    ✅顔や手の方に素早く視線を向ける
    ✅突然数秒間だけ毛づくろいを行う
  • TTouch(接触)の頭文字で、猫と接触する場合は猫が好む場所だけに限定すること。
    ✅人懐っこい猫はたいてい顎の下、頬の周辺、耳の付け根へのタッチを好む。
    ✅尻尾の付け根やおなかは避け、背中、足、尻尾を触るときは十分に注意する。猫のボディランゲージをよく観察して気持ち良さを感じているかどうかに細心の注意を払う。
猫の体を触るときは好きな場所と嫌いな場所を把握することが重要  調査に参加したのはイギリス国内に暮らす120人。女性9割、年齢層18歳~75歳、57%の人は現在少なくとも1頭の猫と暮らしているという属性です。一方、観察対象となった猫たちは施設内に収容された生後6ヶ月齢以上の保護猫たち(最終的には100頭)で、平均6歳、オスメスほぼ同数、9割超が不妊手術済みの非純血種(普通の短毛種 or 長毛種)という内訳です。参加に際しては臨床上健康であることと十分に社会化され人間との交流を極端に忌避しないことが条件とされました。調査のおおまかな流れは以下です。
人の接し方と猫の反応
  • ガイダンス前の5分間交流参加者は最初の位置から動かないこと、猫を抱き上げないこと、猫を拘束しないことを最低条件に、深く考えず自然体で接するよう指示されました(1人につき3頭/1セッション5分)。
  • 交流ガイダンス猫との基本的な交流の仕方を「CATプロトコル」という形でまとめた5分間のビデオを参加者に見てもらい、さらに忘れないよう内容をまとめたシートを提供しました。
  • ガイダンス後の5分間交流参加者はなるべく「CATプロトコル」を遵守する形で猫と交流するよう指示されました(1人につき3頭/1セッション5分)。
  • 猫のリアクション評価専門家の意見および猫の行動に関して行われた過去の学術調査を元に作成した行動リスト(エソグラム)を用意し、猫たちが見せるしぐさや姿勢を47項目に分類した上で反応をポジティブかネガティブかに区分していきました。評価対象は100頭を被写体とした合計535の録画データです。
  • 参加者のパーソナリティ評価「Big Five Inventory(BFI)」という44項目からなるアンケート調査により、参加者のパーソナリティを5つに区分しました。
  • 猫の性格評価日常的に猫たちと接する機会がある保護施設のスタッフに「L-CAT」と呼ばれるアンケートに回答してもらい、猫の社交性(人懐こさ・怖がり・友好性)を評価しました。
  • 猫の譲渡可能性評価猫との交流後、参加者たちにアンケートを配布して猫たちの「友好性」「居心地の良さ」「譲渡可能性(機会があったらどの程度その猫を引き取りたいと思うか)」を5段階で評価してもらいました。
Providing Humans With Practical, Best Practice Handling Guidelines During Human-Cat Interactions Increases Cats’ Affiliative Behaviour and Reduces Aggression and Signs of Conflict
Haywood C, Ripari L, Puzzo J,Foreman-Worsley R and Finka LR(2021), Frontier. Vet. Sci. 8:714143, DOI:10.3389/fvets.2021.714143

交流の仕方による猫の変化

 観察調査中、参加者たちが「CATプロトコル」にどの程度沿っていたかを評価したところ、ガイダンス前が1.71だったのに対し後が2.83に増加していたといいます。
 猫の「友好性」「居心地の良さ」「譲渡可能性」に関する評価はガイダンスの前後でおおむね同じでした。またポジティブスコアとネガティブスコア間の相対的な差異と、猫の性格との間に関係性は見られませんでした。
 一方、以下の項目に関しては統計的に有意なレベルで前後格差が見られたといいます。
ガイダンス前後の格差
  • 敵対的行動前:27%>後:16%
  • 敵対・ネガティブスコア前>後
  • ケージ内での移動の回数前>後(※過ごす時間は最終的に同じくらい)
 「敵対的行動」および「敵対・ネガティブスコア」に関し、ガイダンス後の方が有意に減少していることから、たった5分間のインストラクションでも観察可能なレベルで猫の反応がポジティブに好転することが確かめられました。またケージ内における場所移動を不安や落ち着きの無さの現れと解釈すると、やはりインストラクションによってネガティブな情動価が軽減したことになります。 「CATプロトコル」に従って接すると猫からよい反応が得られやすい  十分に社会化がなされた猫を対象とした過去の調査では、自分が休んでいる時にむやみに近づかない人間、引きこもろうとしている時について来ない人間、姿勢を低くして優しく語りかける人間を好むと報告されています。また自分からアクションを起こした場合に人間との交流時間が長くなり、自分の要求に応えてくれる人に対しポジティブに反応するといった報告もあります。今回の調査結果と総合すると「猫と接するときは猫のペースで」という、猫好きにとっては常識的な鉄則に集約されるでしょう。
 近年、猫カフェだけでなく動物介在療法の現場においても、常に見知らぬ人間と接することを強要されている猫に対し福祉上の懸念を表明する声が高まっています。遵守するのが簡単で覚えやすく、たった5分で概要を伝えられる「CATプロトコル」は、人と猫とが接するあらゆる場面で活躍すると期待されます。
日本における懸念事項は猫カフェです。猫に優しい接し方を経営者が理解し、お客さんを管理できているでしょうか?「抱っこタイム」や「着せ替えイベント」は、果たして猫のペースと言えるでしょうか?猫カフェにおけるマナーと注意