トップ2023年・猫ニュース一覧11月の猫ニュース11月9日

猫に投薬する時に使うピルガンの先端部を誤飲する事故が多発

 猫に投薬する際、成功率を高めるため「ピルガン」と呼ばれる道具を用いることがあります。しかしこの道具の先端についているシリコン部がうっかり外れ、誤飲して病院送りになるという本末転倒な事例が意外と多いようです。

ピルガン先端部の誤飲事故

 調査を行ったのはブラジルにあるリオデジャネイロ連邦大学獣医学部のチーム。国内の個人診療所に蓄積された医療データを回顧的に参照し、投薬時に用いるピルガンのシリコン製先端部を誤飲してしまった猫の症例をピックアップしました。
ピルガン
ピルガン(pill gun)とは先端部で錠剤を把握し、猫の口内に落とし込むためにデザインされた投薬道具。「ペットピラー(pet piller)」「ピルポッパー(pill popper)」とも。 ピルガン先端部のシリコン

調査対象

 検索の結果、2017年10月から2023年2月までの期間で13頭による合計15症例が見つかったと言います。頭数より症例数が多い理由は1頭が11日の間隔を開けて2回、もう1頭が4ヶ月の間隔を開けて2回誤飲事故に巻き込まれたためです。患猫全体の平均年齢は11歳(3~17歳)、メス8頭+オス5頭という内訳でした。

調査結果

 9症例は事故から1時間以内の受診、3症例は3~10時間後受診で、嘔吐、腹痛、居心地の悪さ、血の混じった嘔吐 といった症状を呈したものはいなかったといいます。異物の滞留場所は胃内が14症例、腸内が1症例でした。
 治療に関しては心臓弁膜症を抱えていた猫、および異物が腸内に滞留していた猫を除き催吐剤が第一選択肢として採用されました。13症例ではアルファ2アドレナリン受容体作動薬(キシラジン12+デクスメデトミジン1)が投与され、全ケースで嘔吐の誘発に成功しましたが、異物の吐き戻しに成功したケースはわずか5例だけでした。中には2回に渡って投与を受けたものの吐き戻しには至らなかったとのこと。
 1症例に関しては出血や潰瘍を伴う胃炎につながりうることから催吐を目的とした使用は禁忌とされる過酸化水素(オキシドール/3%, 3?ml)が経鼻胃チューブで投与され、最終的には吐き戻しに成功しました。
 催吐剤による吐き戻しがうまくいかなかった9症例では全身麻酔下での内視鏡検査が行われ、全頭で回収に成功したそうです。事故から内視鏡挿入までの経過時間は3時間が5頭、10~20時間が3頭、30時間が1頭でした。また便として36時間後に自然排出されたケースも1例だけありました。
 異物回収後は4~24時間の入院措置が取られ、胃炎や食道炎を予防するための胃腸粘膜保護薬と制吐剤が投与され、全頭が退院にこぎつけました。
Foreign body ingestion due to detachment of pill dispenser tips in cats: a retrospective study of 13 cases
Heloisa Justen M de Souza, Camila R Alves,Sarah M Castro et al., Journal of Feline Medicine and Surgery(2023), DOI:10.1177/1098612X231201808

ピルガンのデザインに気をつけて

 誤飲事故は持病管理のため投薬機会が多い高齢猫(平均11歳)で多発しますので、同じ状況下にある飼い主は十分な注意が必要でしょう。
 事故が起こった場合、催吐剤で吐き戻してくれる割合はせいぜい半分で、うまくいかなかった時は全身麻酔下の回収が必要となります。しかし高齢猫では心臓や腎臓に持病を抱えている割合が高いため、そもそも麻酔をかけられない状況も十分に考えられます。その場合、便として自然排出されることを期待するしかありませんが、腸閉塞を起こしてしまうリスクも決して少なくありません。 猫にピルガンで繰り返し投薬する際は先端部のデザインに注意  ピルガンの先端が脱着可能なデザインで誤飲事故が起こりやすくなっている時点で、メーカーがこうした事故が起こりうるリスクを十分に把握していないものと推測されます。また獣医師による使用法の説明不足も背景にあるようです。繰り返しの投薬に際しピルガンを用いる際は、先端部が外れないようなデザインを優先的に選ぶようにしましょう。もしない場合は、少なくとも使用上の注意をよく読んでから使うようにしましょう。
かつて催吐剤として用いられていたオキシドールは副作用のリスクが大きいため現在では禁忌とされています。自己判断では絶対に使用しないでください!猫が異物を飲み込んだらどうする?