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キムリックに多い病気~原因・遺伝性から検査・治療法まで

 キムリックがかかりやすい病気を原因、遺伝性、検査法、治療法などに分けて一覧リストでご紹介します。なお出典データには海外のものも含まれているため日本に暮らしている猫には必ずしも当てはまらないことがあります。

マンクス症候群

 マンクス症候群とは脊椎(背骨)の奇形や脊髄の不全によって引き起こされる様々な障害のこと。診断はエックス線やCTスキャン、MRIなどを通して下します。根本的な治療法はありませんので、猫も飼い主も視力障害と付き合いながら暮らしていくことになります。

疾患遺伝子

 名前に「マンクス」と入っていますが、マンクスとキムリックは被毛の長さ以外多くの部分で遺伝子を共有していますので、キムリックにおいてもマンクス症候群の発症リスクが高まる可能性を否定できません。程度にかかわらず、短い尻尾を持ったマンクスの20%でしっぽ以外の先天的奇形が見られ、奇形をもつマンクスのうちしっぽが全くない「ランピー」が90%を占めるとされています。具体的な障害は仙骨の無形成や異形成、仙髄(脊髄の下の方)の欠損、脊髄破裂、繋留脊髄、硬膜内脂肪腫、鎖肛(肛門の欠落)、後肢の麻痺や不全麻痺、失禁や排便障害などです。短尾マンクスの20%はしっぽ以外の奇形を抱え、そのうちランピーが90%を占める  マンクスの短尾を作り出している遺伝子は長らく謎でしたが2013年、北米にある複数の大学からなる共同チームが、しっぽの長さがバラバラな130頭を超えるマンクスを対象とした大規模な調査を行い、「T-box遺伝子」における4種類の変異が短尾を形成していることが明らかになりました。中でも重要なのは、T-box遺伝子が作り出す「ブラキウリ」(Brachyury)と呼ばれる転写因子であり、これが十分働かなくなることで尾椎の数が0~20に変化し、結果としてしっぽが通常よりも短くなるとのこと。調査に関するより詳しい内容はマンクスに多い病気に記載してありますのでご参照ください。

下部尿路症候群・尿失禁

 下部尿路症候群(LUTD)とは、膀胱から尿道口をつなぐまでのどこかに結石などを生じてしまう病気。猫ではシュウ酸カルシウム結石やストラバイト結石が大半を占めています。診断は尿内の結晶検査やエックス線撮影で下します。治療は結石の除去と食事療法がメインです。 下部尿路症候群の症状・原因・治療

発症リスク

 T-box遺伝子が生成する転写因子「ブラキウリ」がしっぽの長さにだけ影響を及ぼすならさほど問題はありませんが、実際は母体内における脊索の分化という極めて重要な成長プロセスにも関わっています。結果として、T-box遺伝子に変異がある個体ではしっぽが短くなると同時に、神経系に障害を抱えて生まれてくることが少なくありません。
 例えば1982年には脊椎の癒合不全を持つマンクスの子猫に関する症例報告が行われています(→出典)。この子猫を対象としてカテコールアミン作動性検査を行った所、通常は自律神経のアドレナリン作動性線維が豊富に分布しているはずの膀胱三角においてさえ完全に欠落していたといいます。また脊髄の全長に渡り水脊髄症の所見が確認され、膀胱尿道機能の異常、排尿筋の反射消失、膀胱充満に対する自律神経の圧反応異常、近位尿管の機能不全、骨盤底の筋電図異常が確認されたとも。難しい言葉が並びましたが、要するに「おしっこを我慢できずに漏らしてしまう」ということです。
 さらに2001年には、アメリカ・パデュー大学の調査チームが1980年から1997年の17年間における医療データを北米とカナダにある複数の獣医教育大学から集め、下部尿路症候群(LUTD)を発症した猫22,908頭と未発症猫263,168頭の比較を行いました。その結果、マンクスがLUTDを発症するリスクは標準の1.3倍、尿失禁(おもらし)を発症するリスクは標準の6.8倍だったといいます(→出典)。調査対象となったのはあくまでもマンクスですが、多くの遺伝子を共有しているキムリックにおいても同様のリスクがある可能性が高いと考えられます。