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猫の膵外分泌不全症~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の膵外分泌不全症について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の膵外分泌不全症の病態と症状

 猫の膵外分泌不全症とは、内分泌と外分泌とに分かれた膵臓の機能の内、外分泌機能が損なわれた状態のことです。
 膵臓の内分泌機能は、ランゲルハンス島が中心となってホルモン(インスリンやグルカゴン)の生成に携わっており、対する外分泌機能は主に消化酵素(膵液)の生成に携わっています。ですから外分泌機能不全というときは、消化酵素が十分に働かなくなった状態を言うわけです。
膵臓の構造と機能
膵臓の内分泌部と外分泌部の模式図
  • 膵臓・内分泌部 膵臓の中にランゲルハンス島という形で点在しており、全体の約10%を占める。血糖値を下げる「インスリン」と血糖値を上げる「グルカゴン」を生成する。
  • 膵臓・外分泌部 膵臓の約90%を占める。デンプンを分解する「アミラーゼ」、脂肪を分解する「リパーゼ」、タンパク質を分解する「トリプシン」と「キモトリプシン」、核酸を分解する「ヌクレアーゼ」などを生成する。
 猫の膵外分泌不全症の主な症状は以下です。膵液は炭水化物、脂質、タンパク質という三大栄養素全ての分解に関わっているため、必然的に消化不良が症状の中心となります。
猫の膵外分泌不全症の主症状
  • たくさん食べる
  • 食事量の割りに太らない
  • 油の腐ったような糞(脂肪便)
  • 毛づやが悪い
  • おならが多い
  • おなかがよく鳴る
  • うんちが多い
  • 食糞行動が見られる
  • ビタミンB12欠乏症
  • 小腸性下痢症
小腸細菌過増殖(SIBO)
 「小腸細菌過増殖」とは、小腸内に生息している細菌が何らかの理由で異常に増えてしまった状態のことです。膵外分泌不全症にかかった猫の多くで見られ、小腸性の下痢を引き起こします。

猫の膵外分泌不全症の原因

 猫の膵外分泌不全症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の膵外分泌不全症の主な原因
  • 慢性膵炎 膵臓に発生した膵炎がなかなか治らず慢性化したときに発症します。猫における膵外分泌不全症はほとんどがこのパターンです。
  • 膵臓の萎縮 外分泌腺の萎縮が原因で消化酵素の分泌量が低下してしまうことがあります(膵腺房萎縮)。ただし、なぜ萎縮するかに関してはよくわかっていません。犬と比較すると猫ではまれです。
  • 寄生虫 膵臓に特異的に寄生する「膵吸虫」によって引き起こされることがあります。
 2016年にアメリカのテキサスA&M大学が、膵外分泌不全症の疑いがある150頭の血液サンプルを対象として統計調査を行った所(→詳細)、患猫の年齢中央値は7.7歳で、3ヶ月齢~19歳と非常に広い幅を持っていたといいます。こうした事実から調査チームは、これまで中年以降に発症する病気と考えられてきた膵外分泌不全が、5歳以下の若い猫にも十分起こりうるという認識を持つことが重要だとしています。

猫の膵外分泌不全症の治療

 猫の膵外分泌不全症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の膵外分泌不全症の主な治療法
  • 酵素の補給  本来膵臓が作るはずの消化酵素を食事の中に混ぜて補ってあげます。一度失われた膵臓の機能が回復することはないため、一生涯の継続が必要です。
  • ビタミンB12の投与 アメリカのテキサスA&M大学が2016年に行った統計調査(→詳細)によると、患猫がビタミンB12欠乏症を発症しているかどうかにかかわらず、この成分を投与すると治療に対して良好に反応する割合が3倍に増えたといいます。この事実から調査チームは、膵外分泌不全を発症している猫の体内ではビタミンB12欠乏症が体細胞レベルで起こっていると想定し、血清濃度にかかわらずビタミンB12(コバラミン)を投与することを治療法として推奨しています。ちなみに膵外分泌不全が疑われた血液サンプル119のうち、ビタミンB12欠乏症を起こしている割合は77%という高率でした。
  • 食事療法  消化しやすいメニューに切り替えます。具体的には、脂肪量を減らす、1回の食事量を減らして回数を増やす、腸内細菌の異常増殖を招いてしまう食物繊維は少なめにするなどです。