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猫の膵外分泌不全に関する統計調査

 膵臓からの消化酵素が機能不全に陥り、消化不良を起こしてしまう「膵外分泌不全」に関する統計的な調査が行われ、最も効果的と思われる治療法が明らかになりました(2016.11.3/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのはテキサスA&M大学獣医学生物医科学のチーム。2008年3月から2010年1月の期間、検査のため大学付属の消化器研究所に寄せられた46,529の血液サンプルを調べた所、1,095サンプル(2.4%)が膵外分泌不全の目安である「血清トリプシン様免疫活性(fTLI)レベルが8μg/L以下」を満たしていたといいます。さらに、ランダムで選ばれた患猫150頭の担当医から猫に関する医療情報をもらって統計的にまとめた所、以下のような結果になりました。
患猫の基本ステータス(150頭)
  • メス猫=61頭(41%, 避妊手術率100%)
  • オス猫=89頭(59%, 去勢手術率96.6%)
  • 年齢中央値=7.7歳
  • BCS中央値=9段階のうち「3」
臨床症状
  • 体重減少=91%
  • 下痢便=62%
  • 被毛の粗雑化=50%
  • 拒食=45%
  • 食欲増進=42%
  • 倦怠=40%
  • 水様便=28%
  • 嘔吐=19%
血液検査(119頭)
  • ビタミンB12欠乏症=77%(92頭, 149ng/L)
  • 葉酸の低下=5%(6頭, 21.1μg/L)
「正常値」は、ビタミンB12=290~1,500ng/L、および葉酸=9.7~21.6μg/L
治療(121頭)
  • よく反応=60%(72頭)
  • 部分的に反応=27%(33頭)
  • あまり反応しない=13%(16頭)
「よく反応」=たまに軟便が見られる程度、「部分的に反応」=以前よりは症状が軽くなったものの完全になくなったわけでは無い、「反応が悪い」=症状の改善が見られない
 統計的に見た時、治療効果の予見因子になっているのは血清トリプシン様免疫活性値(fTLI)とビタミンB12の濃度だけだったといいます。具体的には、fTLIの値が「4μg/L未満」のとき治療に対して良好に反応する率が3.2倍高まり、ビタミンB12の投与により反応率が3倍高まったとのこと。 Feline Exocrine Pancreatic Insufficiency: A Retrospective Study of 150 Cases
P.G. Xenoulis, D.L. Zoran, et al. 2016

解説

 膵外分泌不全を発症した猫の年齢中央値は7.7歳だったものの、患猫の年齢は3ヶ月齢~19歳と非常に広い幅を持っていました。若い猫における膵外分泌不全の原因としては、膵炎のほか膵腺房萎縮、膵臓萎縮、膵形成不全、膵蛭の寄生などが考えられています。調査チームは、これまで中年以降に発症する病気と考えられてきた膵外分泌不全が、5歳以下の若い猫にも十分起こりうるという認識を持つことが重要だとしています。
 犬と猫では膵外分泌不全によって引き起こされる症状に若干の違いがあるようです。例えば下痢に関し、犬では95%であるのに対し猫では62%とかなり低い値になっています。また犬には少ないと言われている水様便に関しては、猫が33%と逆に高い値を示しました。こうした微妙な違いから調査チームは、犬においてよく見られる臨床所見を、そっくりそのまま猫に適応してはならず、原因不明の体重減少や食欲不振がある場合は、膵外分泌不全の可能性を除外してはならないと注意を促しています。
 ビタミンB12欠乏症の有無にかかわらず、ビタミンB12の投与は治療に対する良好な反応を増加させました。この事実は、ビタミンB12欠乏症が血液成分に反映される前に、体細胞レベルではすでに起こっている可能性を示唆するものです。調査チームは、ビタミンB12の血清濃度にかかわらず、ビタミンB12(コバラミン)を投与することは膵外分泌不全の治療に有効であると推奨しています。
 膵外分泌不全はこれまで、猫において比較的稀な病気と考えられてきましたが、今回の調査では46,529サンプルのうち1,095(2.4%)が病気の疑いありと診断されました。消化器系に何らかの不調を抱えている猫のうち、およそ50頭に1頭は膵外分泌不全であるかもしれないという事実は、決して看過できるものではないと思われます。調査チームが推奨しているように、原因不明の食欲不振や下痢といった症状が見られた場合は早めに動物病院に行き、血液検査を始めとした健康診断を受けた方がよいかもしれません。 猫の膵外分泌不全症