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猫のFOPS~症状・原因から予防・治療法まで

 猫のFOPSについて病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫のFOPSの病態と症状

 「FOPS」(Feline Orofacial Pain Syndrome, フォップス)とは、口腔内の痛みに端を発する様々な症状の総称で、直訳すると「猫口腔顔面痛症候群」となります。1990年代初頭から少しずつその存在が知られるようになってきた比較的新しい疾病です。
 食事をする、水を飲む、グルーミングをするなど、口を動かす動作によって口内の痛みが誘発され、ひとたび痛みが発生すると、数分から数時間に渡って持続します。顔の中を走る「三叉神経」(さんさしんけい)が関わる神経因性疼痛の一種だろうと推測されていますが、その発症メカニズムに関してはよくわかっていません。「神経因性疼痛」(Neuropathic Pain)とは、末梢神経や中枢神経そのものに発生した障害によって誘発される痛みのことで、体に加わった侵害刺激による「機械的な痛み」や、免疫細胞が放出した炎症性物質による「化学的な痛み」とは別物とされています。猫の三叉神経~眼神経・上顎神経・下顎神経の走行模式図  FOPS(フォップス)の診断方法は未だに確立していないため、以下に示すような徴候と、他の疾患の除外によって最終的な診断を下すことになります。
フォップスの徴候
  • 口を動かすことによって痛みが誘発される
  • 口元を舐める
  • ペチャクチャ音を出す
  • 口の片側だけを異常に前足でこする
  • 舌や唇、頬粘膜を噛み切る
  • 顔面の感覚に異常が見られない
  • 歯科治療や鎮痛治療に反応しない
  • バーミーズの血が入っている
 以下でご紹介するのはFOPS(フォップス)を発症していると思われるバーミーズ(もしくはシャム)の動画です。症状が激しい場合は、自分の爪で舌を引き裂いてしまうこともあるため、エリザベスカラーやソフトキャップ(爪カバー)を装着して自傷を避ける必要があります。 元動画は⇒こちら
 痛みは断続的で、多くの場合片側性です。ひと月近く持続したと思いきや、その後1年くらい小康期間が継続することもあります。しかし一般的に、年齢を重ねるにつれて発症の頻度と度合いは増していき、猫の生活の質を著しく低下させます。

猫のFOPSの原因

 猫のFOPSの原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫のFOPSの主な原因
  • 遺伝 2010年に行われ調査によると、FOPS(フォップス)を発症した猫113頭のうち、バーミーズが100頭を占めていたといいますので、何らかの形で遺伝が関わっていることは間違いないようです。またバーミーズ36頭の遺伝子解析により、そのうち30頭では3頭の共通祖先がいることも明らかになっています。さらに、この疾患と関連しているらしい3ヶ所の遺伝子座が特定され、そのうちの2ヶ所が中枢神経に関係していることも明らかになりました。
  • 歯の生え変わり  乳歯から永久歯に生え変わる5~7ヶ月齢で初来院することが多いことから、歯牙の脱換が神経に対して異常な痛み刺激を伝え、結果として神経の過敏化が起こったという可能性が検討されています。2010年に行われ調査によると、このパターンでの発症率は全体の16%です。
  • 口腔疾患  乳歯がすべて永久歯に変わった後でも、なぜか不快感を抱く猫がいることから、何らかの口腔疾患が関わっている可能性も否定できません。具体的には歯周病口内炎歯根吸収などです。2010年に行われ調査によると、発症した猫の63%で口腔疾患の前歴があったとされています。
  • ストレス  生きて行く上で欠かせない生理的欲求のほか、ストレスフリーな生活を送るために重要な行動的欲求が満たされていない場合、発症しやすくなる傾向が確認されています。2010年に行われ調査によると、発症した猫の20%ではストレスが原因と推定されています。

猫のFOPSの治療

 FOPS(フォップス)の原因はよくわかっていないため、必然的に治療法や予防法も漠然としたものになってしまいます。以下は現時点で考えられている最良の対処法です。
猫のFOPSの主な治療法
  • まずは鑑別診断  口元に違和感を抱えている猫が、本当にFOPS(フォップス)なのかどうなのかを確認するため、他の疾患の可能性を除外していきます。具体的にはホルネル症候群、顔面神経麻痺、ドライアイ、三叉神経痛などです。最後に挙げた三叉神経痛は、人医学の領域でもやっかいな疾病として扱われており、時として尿管結石や出産よりも激しい痛みを引き起こすとされています。
  • 基礎疾患の治療  FOPS(フォップス)が歯周病口内炎歯根吸収などによって引き起こされている場合は、まず基礎疾患の治療が優先されます。ただし、抜歯や歯石のスケーリングといった治療自体がこの疾病を引き起こす可能性もあるため、治療法や獣医師の選択は慎重に行わなければなりません。
  • 投薬治療  急性期における対症療法としては、リドカイン、ケタミン、モルヒネ、デクスメデトミジンを投与したという先例があります。一方、慢性的な痛みに対して用いられる「非ステロイド系抗炎症薬」(NSAIDs)は多くの場合、あまり効きません。また、人間に用いられている鎮痛薬の多くは猫に対して認可されておらず、長期的に使用する場合はそれなりのリスクを負うことになります。本来はてんかんに用いられる抗痙攣薬が処方されることもありますが、効果に関してはまちまちです。投薬治療は生涯続けられることが多いものの、小康状態を取り戻すことも多いため、可能な限り投薬量を少なくする努力も必要となります。
  • ストレス管理  ストレスの増大が症状の悪化を招くことが確認されていることから、猫の生活環境をストレスフリーにすることは非常に重要です。特に同居している他の猫や犬との相性が問題となることが多いようです。猫の感じるストレスを最小限にして福祉を向上させる「環境エンリッチメント」に関しては、以下のページでまとめてありますので参照ください。猫の幸福とストレス