トップ猫の迎え方多頭飼いのすすめ猫同士のケンカ

猫同士のケンカ~発生原因から減らすための対策まで

 猫同士のケンカは遊びの延長で行われる軽いものから、流血を伴う本気度の高いものまでさまざまです。「猫間の攻撃行動」(inter-cat aggression)とも呼ばれるこうした問題行動を減らすためには、飼い主による初対面時の適切な顔合わせと、初対面後の「長い目」が必要なようです。

猫におけるケンカの原因

 多頭飼育家庭において猫同士のケンカを増やしてしまう原因は一体何なのでしょうか?過去に行われた複数の調査によって共通して報告されているのは「初対面時の印象」と「時間」です。

アメリカ・コーネル大学の調査

 アメリカ・コーネル大学の調査チームは2001年11月~2002年6月の期間、トンプキンズ郡動物愛護協会から保護猫1頭だけを迎えた後、2ヶ月~1年が経過した里親を対象とした62項目のアンケートを行い、猫同士の間で見られる攻撃行動の危険因子が何であるかを検証しました。ここで言う「攻撃行動」とは本気で引っ掻いたり噛み付いたりすることです。 猫間の攻撃行動~ひっかきと噛み付き  データに不備がなかった252人分の回答を検証した結果、124人は単頭飼い世帯、128人はすでに先住猫がいる多頭飼い世帯だったといいます。「最初のケンカ」を保護猫を家に迎えてから数週間のうちに見られた猫同士の攻撃行動、「現在のケンカ」を保護猫を家に迎えてから2ヶ月~1年のうちに見られた猫同士の攻撃行動と定義した上で、攻撃行動の起こりやすさに影響を及ぼしている因子を探りました。
 その結果、初対面時に非友好的な行動(シャーシャー, うなる, 猫パンチ, 噛みつき)が見られた場合、「最初のケンカ」が起こりやすくなることが明らかになったといいます。また「最初のケンカ」が見られた場合、「現在のケンカ」が見られやすくなるという関連性も確認されました。具体的には「最初のケンカ」が見られた世帯と見られなかった世帯を比較した場合、「現在のケンカ」が見られるリスクは前者において38.5倍(p<0.001)という極端なものでした。要するに猫同士の第一印象が悪いとその後の関係性が悪化するということです。
Intercat aggression in households following the introduction of a new cat
Applied Animal Behaviour Science 90(3), P.Perry, E.Levine, DOI: 10.1016/j.applanim.2004.07.006

アメリカ・二次診療施設の調査

 アメリカ・ミシガン州にある二次診療施設「Oakland Veterinary Referral Services」はソーシャルメディア、動物病院、獣医療カンファレンスなどで告知を行い、複数の猫が見せる親和的な行動と敵対的な行動の頻度に影響している因子が何であるかを、飼い主へのアンケート調査を通して統計的に検証しました。飼い主の選抜基準はもっぱら猫の世話をする人であること、18歳以上、1~4頭の室内飼育、アメリカ国内在住というものです。「親和的」と「敵対的」の定義は以下。
  • 親和的な行動鼻挨拶 | 同じ室内で眠る | 体を触れ合わせながら眠る | アログルーミング
  • 敵対的な行動睨み付ける | つきまとう | 追いかける | 逃げる | シャーシャー威嚇する | 大声で鳴きわめく | しっぽピクピク動かす
 アンケートの結果、選抜基準を満たした3,920名の回答者のうち女性が3,693(94.2%)名、男性が169(4.3%)名、不明が58(1.5%)名だったといいます。また単頭飼いが1,428(36.4%)世帯、2頭飼いが1,424(36.3%)世帯、3頭飼いが689(17.6%)世帯、4頭飼いが379(9.7%)世帯という内訳でした。
 多頭飼育2,492世帯のうち「敵対行動なし」が307(12.3%)世帯、「敵対行動あり」が2,185(87.7%)世帯で、初対面から敵対的だった家庭が1,602(73.3%)世帯、徐々に敵対的になっていった家庭が515(23.6%)世帯、急に敵対的になった家庭が68(3.1%)世帯でした。 猫同士で見られる敵対的な関係は、「初対面から」が四分の三を占める  さらに敵対ありと回答した2,185世帯のうち、敵対的な行動の頻度が変わらないと回答した家庭が1,115(50.6%)世帯、減った家庭が1,019(46.2%)世帯、増えた家庭が70(3.2%)世帯だったそうです。
 意外なことに、敵対的な行動の増減が家庭内における適切な飼育環境と関連していなかった一方、「にらみつける」を除く敵対的な行動の増加と関連していた項目は「過去6ヶ月以内に新しい猫を家庭内に迎えた」および「初対面の成否」でした。ここで言う「適切」の定義はトイレの数が飼育頭数+1、食事場(食器)・スクラッチングポスト(爪とぎ)の数が飼育頭数と同じというものです。ちなみに適切な飼育環境と親和的な行動の減少とが逆説的に連動していたとも。
Conflict and affiliative behavior frequency between cats in multi-cat households: a survey-based study
Journal of Feline Medicine and Surgery(2019), Ashley L Elzerman, Theresa L DePorter, et al., DOI: 10.1177/1098612X19877988

猫のケンカを減らす方法

 時間と場所が異なる2つの調査を比較することで、両者に共通する項目が見えてきました。これらは取りも直さず、猫同士の関係を悪化させないための予防策になってくれます。

初対面の第一印象

 コーネル大学の調査では「猫同士をどのように引き合わせたか?」という質問に対し44%の世帯が「何の下準備もなくただ単に猫同士を対面させた」と回答しています。初対面時の攻撃行動は先住猫から発せられるケースが多かったとのこと。また二次診療施設が行った調査では過去6ヶ月以内に新しい猫を家庭内に迎えたことや、初対面における成否と「にらみつける」を除くすべての敵対的な行動とが連動していました。 猫同士の関係を良好に保つためには初対面と第一印象が重要  こうした事実から、新参者の急な登場により恐怖心や縄張り意識が刺激されて先住猫のネガティブな反応につながってしまったのだと推測されます。過去に行われた別の調査でも「新しい猫を迎えると縄張り意識を喚起する」(Houpt, 1998)とか「攻撃行動につながる」出典資料:Crowell-Davis, 1997)とか「時間をかけて引き合わせることで攻撃行動を減らせる」(Beaver, 2003)と報告されていますので、猫同士のケンカを減らすための大原則はいきなりのご対面は絶対に避けるということになるでしょう。

仲の悪さは時間が解決

 コーネル大学の調査では、1年以内に91%の世帯で猫同士のいがみあいがなくなったとされています。出会ってすぐに受け入れた世帯の割合は22%止まりでしたので、いきなり仲睦まじく相互グルーミングする状態はむしろ例外で、よそよそしい~排他的な状態が基本と考えた方が現実的なのかもしれません。また二次診療施設が行った調査では、時間の経過とともに徐々に敵対関係が減った家庭が1,019(46.2%)世帯でした。最初は仲が悪そうに見えても、少しずつ敵対関係が消えていく様子がこちらでも見て取れます。 猫同士の敵対関係は時間の経過とともに自然と緩和されていく  過去に行われた別の調査でも、一緒に暮らしている時間が長くなるほど攻撃行動は減る出典資料:Barry, 1999)と報告されていますので、猫同士のケンカを減らすためにはゆっくり時間をかけて猫同士を引き合わせる→1年くらいかけてじっくり関係性を築かせるという長期的な視野をもつことがコツだと考えられます。

保護猫トライアルの注意点

 保護猫の譲渡活動においては、先住猫との仲が悪いことを理由としてトライアルを中断し、戻されることがよくあります。こうした家庭では、何の下準備もなく無神経に猫同士をご対面させていないでしょうか?初対面から仲睦まじく毛づくろいをする場面を思い描いていないでしょうか? 猫同士を強引に顔合わせさせるのは絶対のNG行為  上で紹介した統計的なデータでは、出会ったばかりの猫は半数~8割が敵対的な行動を見せること、および時間の経過とともに少しずつ敵対関係が解消されていく可能性が強く示されています。たった数日~数週間の観察で「猫同士の仲が悪い!」と決めつけるのではなく、もう少し現実的で長期的な視野を持ってくれれば譲渡率も高まるのではないでしょうか。
新しい猫を迎えるときに人間がしっかりとお膳立てしてあげなければ、猫同士の第一印象が悪くなり、敵対的な関係が長期化してしまいます。正しい顔合わせの方法に関しては「猫の多頭飼い・完全ガイド」で詳しく解説しました。