トップ猫の迎え方多頭飼いのすすめ人への攻撃行動

猫による人への攻撃~発生原因から減らすための対策まで

 単頭飼いであれ多頭飼いであれ、人間をターゲットとした猫の攻撃行動(本気で噛み付く・ひっかく・猫パンチする・猫キックする)は信頼関係を壊し、最悪のケースでは飼育放棄につながりかねない重大な問題です。正確に原因を突き止め、予防に努めなければなりません。

人間に対する猫の攻撃行動

 過去に行われた複数の調査により、人間をターゲットとした猫の攻撃行動が出やすい状況がいくつか判明しています。状況を知っておけば、効果的な対策も見つかるはずです。

ブラジル・サンパウロ大学の調査

 ブラジルにあるサンパウロ大学獣医学部のチームは2000年4月から8月の期間、猫の飼い主に対して36項目からなる自由回答方式のアンケート調査を行い、人間に対する飼い猫の攻撃行動が発生しやすい状況や発生頻度に影響を及ぼしている因子が何であるかを検証しました。参加したのは大学附属動物病院を受診した飼い主、および同大学獣医学部と心理学部の生徒やスタッフなど合計107名です。
 調査の結果、49.5%に相当する53名が、以下に述べる6つの状況のうち少なくとも1つにおいて、猫の攻撃行動に遭遇したり目撃したことが明らかになったといいます。頻度としては特に「猫をなでている時」や「猫と遊んでいる時」に出やすいことが明らかになりました。 人間に対する猫の攻撃行動が発生しやすい状況一覧
  • 膝の上に乗せたりなでている時
  • 遊んでいる時
  • 何かに驚いた時
  • 食事やテリトリーを守っている時
  • 見知らぬ動物を見た時
  • 見知らぬ人が近くにいる時
 さらに状況を細かく解析したところ、以下のような条件が組み合わさった時にとりわけ発生リスクが高まることが判明したといいます。例えば「騒がしい環境」に暮らしている猫を「なでる」と攻撃行動が出やすくなる(💥)と言う意味です。
発生因子なでる遊ぶ驚く見知らぬ動物見知らぬ人
騒がしい環境💥💥-💥💥
同居動物と仲が悪い💥💥💥--
なでられるのが嫌い💥💥💥-💥
Human directed aggression in Brazilian domestic cats owner reported prevalence, contexts and risk factors
J Feline Med Surg 2009, Daniela Ramos, Daniel Simon Mills, DOI:10.1016/j.jfms.2009.04.006

スペイン・バルセロナ自治大学の調査

 スペインにあるバルセロナ自治大学獣医学校のチームは1998年から2006年の期間、学校付属の動物行動診療所を受診した猫たちを対象とし、転嫁性攻撃行動の発生頻度や危険因子を疫学的に検証しました。ここで言う「転嫁性攻撃行動」の定義は「原因となる誘発刺激と代替ターゲットが明白な攻撃行動」で、平たく言えば「八つ当たり」のことです。
 調査の結果、受診した336頭のうち47%に当たる171頭で何らかの攻撃行動が見られたと言います。内訳は他の猫に対する攻撃行動が64%(110頭)、人間に対する攻撃行動が34%(59頭)、同居犬に対する攻撃行動が1%(2頭)というものでした。また上記した「転嫁性攻撃行動」の定義を満たす行動を少なくとも1回見せた猫たちの割合は11%(19頭)で、1回だけが16頭、2回が3頭の合計22回だったそうです具体的な内訳は以下。
猫の「八つ当たり」
  • 性別11頭はオス(去勢済み10頭)/8頭はメス(避妊済み5頭)
  • 年齢猫を迎えたときの平均年齢は2.5ヶ月齢/平均年齢は3.6歳(1~11歳)
  • 出身・来歴9頭は元野良猫/5頭は個人的な知り合いからの譲渡/3頭はペットショップからの購入
  • 飼育環境17頭は完全室内飼い/10頭は他の猫と同居
  • 代替ターゲット飼い主14ケース(58%)/同居猫7ケース(29%)/見知らぬ人2ケース(8%)/同居犬1ケース(4%)/ただし多頭飼育家庭に限定した場合、人間と猫に対する攻撃頻度は同じくらい
 攻撃行動を見せた猫たちに関連している因子を調べたところ、「騒音恐怖症」「室内飼育」「家庭内の人間の数が2人以下」という項目が浮上してきました。
Evaluation of inciting causes, alternative targets, and risk factors associated with redirected aggression in cats
J Am Vet Med Assoc 2008, Marta Amat, Xavier Manteca, DOI:10.2460/javma.233.4.586

猫が人を攻撃する原因

 サンパウロ大学の調査により、人間をターゲットとした何らかの攻撃行動が出やすい状況がある程度明らかになりました。またバルセロナ自治大学の調査により、「騒音恐怖症」「室内飼育」「家庭内の人間の数が2人以下」という項目が危険因子として浮上してきました。両方の調査結果に共通している部分は、事前に猫が何らかのストレスやフラストレーションを抱えており、そこに飼い主が登場することで攻撃されてしまうという以下のような図式です。
予備ストレス→不適切な接触→猫の怒り爆発!
 目を通して認識する視覚的なストレス源としては、ブラジルの調査チームが報告している「見知らぬ動物」や「見知らぬ人」などが考えられます。耳を通して認識する聴覚的なストレス源としては、スペインの調査チームが報告している騒音(落下物・TVの音・携帯電話・電気ドリル)が考えられます。
 こうしたストレス源で猫がイライラしている時、飼い主がなでようとしたり遊ぼうとすると「堪忍袋の緒が切れた」状態になり、ブチ切れて攻撃行動につながってしまうのではないでしょうか。

人間への攻撃行動・対策

 猫による人間への攻撃行動の原因が見えてきたことにより、効果的な対策も見えてきました。

予備ストレスを防ぐ

 まず攻撃行動の前提となる「予備ストレス」を持たせないため、環境内からさまざまなストレス源を取り除くことが必要です。
 庭先にやってくる野良猫が視覚的なストレス源になっている場合は、ご対面しなくて済むよう窓ガラスに部分的なスクリーン(遮蔽板)を貼ると良いでしょう。また頻繁な来客が視覚的なストレス源になっている場合は、猫がいる家に人を呼ぶのではなく、猫がいない家に自分が赴くという方針に切り替えます。ただし衣服や体に他人の匂いがついてしまった場合、その匂い自体が嗅覚的なストレス源になりえますので、猫がクンクンする前に洗濯したりシャワーを浴びるようにして下さい。 人間が気づきにくい猫のストレス源  その他、猫にストレスを与えうる項目は以下のページで詳しく解説してあります。思い当たる節がないかどうかチェックしてみて下さい。なお猫の放し飼いは、たとえ放浪欲求を満たすことができたとしても健康と寿命に対する悪影響があまりにも大きいため、当サイト内では一貫して消極的(非暴力的)な動物虐待として扱っています。リスクを詳しく解説してありますので合わせてご確認下さい。 猫のストレスチェック 猫を放し飼いにしてはいけない理由

不適切な接触を避ける

 予備ストレスを抱えた猫は多くの場合、顔つき、姿勢、仕草を通じて不機嫌を表明しています。飼い主はこうした状態の猫に不用意に近づかないよう注意しなければなりません。
 スペインの調査チームが猫の示した姿勢18ケースを調べたところ、14ケースでは防御姿勢が攻撃行動に先行していたといいます。具体的には背中を丸めて体の側面を見せる、耳を平らにする、しっぽを逆Uの字にする、毛を逆立てる、シャーシャーと威嚇する、高い声でわめくなどです。さらに残りの4ケースでは目をそらさずじっと睨み付ける、瞳孔が収縮する、尻尾を素早く左右に振るなどの仕草が認められました。 猫が見せる典型的な防御姿勢  上記した姿勢や仕草は猫からの「近づかないで」というサインです。人間で言うと「しかめっ面」に相当するこうしたサインを無視してなでようとしたり遊ぼうとすると、猫のストレスが増大し、予備ストレスと相まって最終的には爆発してしまいます。
猫からのストレスサインを見極める方法は以下のページで詳しく解説してあります。表情、姿勢、鳴き声などさまざまな情報がヒントになりますので、ぜひマスターして下さい。 猫の心を読む訓練