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健康な猫における収縮期血圧の正常値(参照値)が判明

 800頭近い健康な猫を対象とした大規模な血圧測定により、前足にカフを巻きつけて計測したときの収縮期血圧の参照値が示されました(2016.12.12/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリス王立獣医大学のチーム。イギリス南東部にある2つの動物保護施設に収容された猫のうち、身体検査で健康であることが確認された6ヶ月齢以上の780頭を対象とし、ドップラー血圧検査を行いました。
猫のドップラー血圧測定
 以下でご紹介するのは、前足にカフを巻きつけて血圧を測定するドップラー血圧測定の様子です。今回の調査では基本的に右前足が測定対象となりましたが、欠損していたり触られることを異常に嫌がるような場合は左前足で代替されました。 元動画は⇒こちら
 右前足に巻き付けたカフで1頭につき最低6回の計測を行い、初回を無条件で除外した残りの5回を平均化したところ、全体の収縮期血圧中央値が120.6(110.4~132.4)mmHgになることが判明したといいます。また血圧を上昇させる単独因子は「加齢」、「緊張」(ナーバス)、「オス」、「不妊手術」、「元野良猫」だったとも。ただしこうした要因で説明できるのは血圧上昇のうち29.2%にすぎず、残りの70%近い計測値の上ブレは、未知の要因によって引き起こされていることが分かったそうです。
性別・不妊手術と収縮期血圧中央値(mmHg)
オス猫と不妊手術済みが猫の収縮期血圧中央値(mmHg)を高める
  • オス猫(338頭)=122.2
  • メス猫(442頭)=119.6
  • 手術済み(623頭)=121.6
  • 未手術(157頭)=114.0
態度と収縮期血圧中央値(mmHg)
緊張しているほど猫の収縮期血圧中央値(mmHg)が高まる
  • 落ち着いていて穏やか(336頭)=112.8
  • 協力的だが不安げ(309頭)=123.2
  • ナーバス・興奮・攻撃的(135頭)=131.6
年齢と収縮期血圧中央値(mmHg)
年齢が上がるほど猫の収縮期血圧中央値(mmHg)が高まる
  • 6~12ヶ月未満 (116頭)=113
  • 1~3歳未満( 283頭)=118
  • 3~9歳未満( 279頭)=123
  • 9歳以上( 102頭)=134
 今回の調査は780頭という大規模なものであったという点と、計測者や計測方法による誤差が可能な限り排除されているという点から考え、過去に示された参照値よりも実際の値に近いのではないかと推測されています。
Blood Pressure Measurements in 780 Apparently Healthy Cats.
Payne, J.R., Brodbelt, D.C. and Luis Fuentes, V. (2016), J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14625

解説

 過去にドップラー血圧計を用いて行われた調査では、収縮期血圧の参照値として「118 ± 10.6mmHg」、「131.6(115~143.7)mmHg」、「131.9 ± 17.6mmHg」、「162 ± 38mmHg」といったバラバラな値が報告されており、一体どれを信頼していいのかがよくわかりません。比較的信頼度が高いと考えられているのは、「動脈埋め込み型テレメトリー送信機」と呼ばれる特殊な装置によって直接的に猫の血圧を測定した時の結果で、収縮期血圧が「125.1 ± 10.6mmHg~126.0 ± 4.4mmHg」とされています。
 今回の調査ではドップラー血圧測定法が用いられましたが、結果は「120.6(110.4~132.4)mmHg」と直接計測値にかなり近いものになりました。右足と左足で若干の計測誤差はあるものの、間接的に計測した値も十分に信頼の置けるものだと考えられます。ちなみに当調査では以下の手順が遵守されました。
ドップラー血圧測定プロトコル
  • 麻酔や鎮静剤は使用しない
  • カフは基本的に右前足
  • 診察室に慣らすため最低5分~20分の順化時間を設ける
  • 6回計測し、初回を除いた5回を平均化
  • カフは可能な限り右心房と同じ高さに設置
  • 毛は剃らず総掌側指動脈を計測
  • 計測姿勢は立位、胸を付けた座位、左右の側臥位のいずれか
 「6~12ヶ月齢未満+不妊手術をしていない+メス猫+元ペット猫」という条件を備えた猫を基準にしたときの収縮期血圧は「104.3(101.0~107.6)mmHg」と見積もられています。基準ラインに以下のような要因が加わると血圧が上昇することが判明しました。数値はすべて上昇値(mmHg)を示しています。
血圧を上げる要因
  • 性別●オス→3.9(2.0~5.8)
    人間や犬では男性(オス)のほうが女性(メス)よりも血圧が高いことが確認されています。今回の調査では、猫でも同じ傾向があることが初めて確認されました。
  • 不妊手術●手術済み→3.3(0.8~5.8)
    犬では不妊手術を受けていないオス犬の方が、手術を受けたオス犬や手術を受けていないメス犬よりも血圧が高かったと報告されています。猫では逆に不妊手術を受けた方が血圧が高くなる傾向が見いだされましたが、不妊手術と血圧とを結ぶ詳しいメカニズムについてはよくわかっていません。
  • 態度●協力的だが不安げ→9.4(7.4~11.5)
    ●ナーバス・興奮・攻撃的→16.2(13.5~18.8)
    緊張の度合いが強いと血圧が高まる現象は人間や犬でも確認されており、「白衣高血圧」と呼ばれます。
  • 年齢●1~3歳→3.1(0.2~6.0)
    ●3~9歳未満→8.6(5.7~11.6)
    ●9歳以上→17.5(13.8~21.2)
    年齢が高まるほど血圧も高まる傾向は人間でも確認されており、血管内皮機能の経年劣化が原因だと考えられています。
  • 来歴●元野良猫→2.5(0.3~4.6)
    野良猫として収容された猫は、飼い主によって飼育放棄された元ペット猫よりも血圧が高くなる傾向が確認されました。この原因は、野良猫として生きてきた猫の方が人間に触られることに対して緊張感を抱くからだと考えられます。これも一種の「白衣高血圧」といえるでしょう。
 人間や犬ではBCS(体型)が大きいほど高血圧になることが確認されています。猫でも似たような傾向が確認されましたが、統計的に有意とまでは言えませんでした。また品種による血圧への影響も見出されませんでした。しかし当調査では純血種の数自体が少なかったので、現時点では全く影響がないとは言いきれない状態です。
 血圧上昇要因のうち70%はよく分かっていないといいます。こうしたケースには、近年注目されている「ウロモジュリン」といった特殊なタンパク質などが関わっているのかもしれません。 高血圧症とウロモジュリン 猫の「正常」を知る