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ペルシアの鼻ペチャ遺伝子と神経障害との関係

 ペルシアの「鼻ペチャ」を生み出している遺伝子を特定しようとDNAを解析したところ、神経系の障害を生み出す遺伝子が関わっているかもしれないという可能性が偶然発見されました(2016.6.29/アメリカなど)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカやオーストラリアの大学からなる共同研究チーム。マズルが短い短頭種の代表格であるペルシャと、ペルシャを基礎猫とし生み出された派生種(ブリティッシュショートヘア・スコティッシュフォールド・セルカークレックス)、およびマズルの長さが通常の非ペルシャ種(アビシニアン・コーニッシュレックス・ベンガル・ラパーマ・ノルウェジアンフォレストキャット・メインクーン・マンクス・オリエンタル・シャム)を800頭以上集め、それぞれのDNAを解析することでペルシャの鼻ペチャを生み出している原因遺伝子を特定しようと試みました。
 まずペルシャの間で共通して見られた区画を割り出したところ、4区画が見つかったと言います。次に非ペルシャのDNAに含まれる同じ領域と照合したところ、4区画のうち3区画はペルシャに固有であることが判明しました。 ペルシャ猫に特有な鼻ぺちゃ顔貌  こうした事実から研究チームは、ペルシアの特徴的な鼻ペチャを作り出しているのは、ペルシャ固有の3区画に含まれる何らかの遺伝子だろうと推測するに至りました。またこの区画の中には、人間において神経系の障害を生み出すことで知られている「CHL1」と「CNTN6」という2つの遺伝子が含まれていたことから、ペルシャの顔の形を固定化する過程で、偶発的に何らかの神経形成遺伝子も固定化され、ペルシア固有の行動につながっている可能性を否定できないとしています。 ペルシャ Evidence of selection signatures that shape the Persian cat breed

解説

 「CHL1遺伝子」は「CHL1」というタンパク質を形成する働きを持っており、形成された「CHL1タンパク」は人間において神経系の発達やシナプス可塑性、小脳や海馬の神経細胞から出る軸索突起の成長、細胞死の抑制、錐体神経細胞同士の位置関係調整、細胞の移動や皮質の発達などに関与していると考えられています。関連疾患は大細胞がんや中胚葉腎腫です(→出典)。
 「CNTN6遺伝子」は「CNTN6」というタンパク質を形成する働きを持っており、形成された「CNTN6タンパク」は人間において軸索同士の連結や神経系の発達などに関与していると考えられています。関連疾患は注意欠陥過活動性、発作、自閉症、知的障害、統合失調症、うつ病、不安神経症、学習障害、双極性障害などです(→出典)。
 上記した2つの遺伝子と神経系疾患との関連は、人医学の領域で確認されているものであり、現時点では必ずしも猫に当てはまるとは言い切れません。ペルシャに固有の行動としては、「愛情深い、飼い主のそばにいたがる、よく鳴く、きれい好き、好き嫌いが激しい、見知らぬ人に寛容」(Turner, 2000)とか「ウール吸い」の頻度が高い(→詳細)といったものがありますが、こうした行動が「CHL1遺伝子」や「CNTN6遺伝子」によって生み出されているかどうかに関しては微妙なところです。
 顔の形と行動特性に関連性があるのかどうかはまだ不確かですが、確実に言えるのは、ペルシャがその短いマズルによってすでに数々の先天的疾患に苦しんでいるという事実です。「鼻ペチャの方が可愛い」といった単純な理由で猫を選ぶ人が減ってくれれば、少しずつ遺伝子プールも拡大され、極端な鼻潰れが駆逐されると同時に、偶発的な遺伝子の固定化による疾患も避けられるでしょう。 CNTN6 copy number variations in 14 patients: a possible candidate gene for neurodevelopmental and neuropsychiatric disorders