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猫のリフィーディング症候群が確認される

 極端な空腹状態にある人が、いきなり栄養豊富なご飯を食べることで発症する「リフィーディング症候群」が、猫においても発症することが確認されました(2016.3.21/アメリカ)。

詳細

 「リフィーディング症候群」(refeeding syndrome)の歴史は古く、日本国内においては早くも戦国時代の記録が残されています。
 天正9年(1581年)6月、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)は吉川経家の籠もる因幡鳥取城を包囲し、兵糧攻めを決行した。城内はあっという間に食糧不足に陥り、兵や住民たちは雑草や木の葉を食べて飢えをしのいだものの、4ヶ月後の10月には餓死者が4千人に達する阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。この様子を見るに見かねた城主・経家はとうとう降伏。有力者の切腹と引き替えに開城することを決意した。しかし開城後、配給された米に群がった兵士たちは胃痙攣を起こして次々と死亡。生き延びた者のうち、約半数が飢餓ではなく「食事」によって命を落とすという皮肉な結末となった。
 このように、慢性的な栄養不足状態が続いている患者が、急激に栄養を摂取することで経験する様々な障害が「リフィーディング症候群」です。発症のメカニズムを起こる順番で並べると、以下の様な時系列になると考えられています。
リフィーディング症候群の機序
  • 炭水化物やタンパク質の急激な摂取
  • 膵臓からインスリンの分泌
  • ブドウ糖の細胞内取り込みとタンパク質合成の促進
  • リン、カリウム、マグネシウムの細胞内移動に伴う低リン血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症
  • 糖質代謝によるビタミンB1とATP不足
  • ビタミンB1不足に伴う心不全やウェルニッケ脳症と、ATPの減少に伴う脳、心臓、筋肉の障害
 カリフォルニア州サンディエゴにある救急動物病院は、上記した「リフィーディング症候群」が、猫で発症したと思われる症例を報告しました。報告に上がったのは、2歳になるオスの短毛種。この猫は保護時、やせ細って明らかな飢餓状態にあったため、取り急ぎ食餌が与えられました。ところがその後、低リン血症、低カリウム血症、溶血性貧血、低血糖など、人医学領域の「リフィーディング症候群」によく似た症状を呈し始めたといいます。スタッフが急いで静脈注射を行い、各種の電解質不足を補ったところ症状は徐々に回復。7日後には無事に退院することができました。
 この症例から病院側は、極端な空腹状態にある猫にどのようなペースで栄養を与えるべきかに関しては全くデータがないものの、「リフィーディング症候群」が起こりうることを常に念頭に置き、特にリンやカリウムの値を注意深くモニタリングしておくことが重要であると警告しています。 Hypoglycemia associated with refeeding syndrome in a cat

解説

 リフィーディング症候群は、体内における電解質の異常により、以下に示すような様々な症状を呈します。
リフィーディング症候群の症状
  • 痙攣発作
  • 四肢の麻痺
  • 運動失調
  • 横紋筋融解
  • 尿細管壊死
  • 溶血性貧血
  • 高血糖・低血糖発作
  • 敗血症
  • 肝機能異常
  • 消化管機能異常
  • 意識障害
  • 心不全
  • 不整脈
  • 呼吸不全
 中でも最も厄介なのは「心不全」や「呼吸不全」で、これらの症状に発展したときは「鳥取の飢え殺し」のように死亡してしまうことも少なくありません。ですから飼っていた猫が迷子になり、数週間後ガリガリの状態で見つかったようなときは、いきなり大量の餌を与えるのではなく、一旦動物病院に連れて行き、静脈注射などによって緩やかに栄養補給した方が無難だと考えられます。それができない場合は、少なくとも猫が餌をドカ食いしないよう、小分けにして与えた方がよいでしょう。また人間の場合も、以下の様な条件を満たしている時の再摂食には十分な注意が必要となります。
リフィーディング症候群の危険因子
  • BMlが16kg/m2未満
  • 過去3~6ヵ月で15%以上の意図しない体重減少
  • 10日間以上の絶食
  • 再摂食前の低カリウム血症,低リン血症,低マグネシウム血症
迷子猫の探し方 NICE | The National Institute for Health and Care Excellence