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猫の耳道ポリープに対する外側アプローチ牽引剥離(TALA)の安全性

 耳の中にできたポリープを除去する際、耳の穴からではなく耳の横の切開口からアプローチした時の安全性が評価されました(2017.8.10/オランダ)。

詳細

 猫の耳道ポリープはエウスターキオ管(耳管)や中耳の内層に発生する良性の腫瘍。治療法に関しては、耳の穴から鉗子を突っ込んで引き抜く「牽引剥離」(TA)や、耳の横を切開して鼓室胞と呼ばれている部分を骨ごと切り取る「腹側鼓室胞骨切り術」(VBO)といった方法があります。しかし前者に関しては侵襲性が低い代わりに再発率が高いというデメリットがあり、後者に関しては再発率が低い代わりに侵襲性が高いというデメリットを併せ持っています。両者の中間にある方法としては、耳の横を切開して耳道を露出する「外側耳道切除術」と牽引剥離とを合わせた「外側アプローチ牽引剥離」(TALA)という方法があり、過去数十年にわたって臨床の現場で行われてきましたが、他の方法と比較した時の再発率や安全性に関する調査はほとんど行われていませんでした。 猫の耳道ポリープに対する牽引剥離術  今回の調査を行ったのは、オランダ・ユトレヒト大学のコンパニオンアニマル医療科学チーム。2004年12月から2014年6月の期間、TALAによってポリープ切除術を受けた猫62頭を対象とし、術後の後遺症や合併症、再発率に関する統計データを6ヶ月~10年に及ぶ追跡調査を通して収集しました。その結果、以下のような事実が明らかになったといいます。
患猫の基本情報
  • 短毛種=30頭(48%)
  • 平均年齢=3.9歳(中央値は2歳)
  • メス猫=27頭(避妊済み81%)
  • オス猫=35頭(去勢済み80%)
術後の回復
  • 回復組飼い主へのアンケートベースで完全に回復した猫は47頭(75.8%)/そのうち91%は1~3週間で回復し平均は2.6週間
  • 非回復組飼い主へのアンケートベースで完全に回復しなかった猫は15頭(24.2%)/具体的には耳漏、頭を振る、耳を引っかくといった症状が4週間たっても消えなかった
再発率
  • 回復組一度は回復した47頭のうち6頭(12.7%)は、12~101ヶ月の間(中央値は27.5ヶ月)を空けて再発の兆候を見せた/耳鏡やCTスキャンで再診察を行ったところ、外耳道のポリープが4頭、中耳炎が2頭で確認された
  • 非回復組術後に回復の兆しを見せなかった15頭中8頭(53%)では、耳鏡やCTスキャンによる再診察でポリープの再発が確認された/残りの7頭中2頭は調査から脱落、5頭は連絡が取れなくなった
その他
  • 再発した猫に関し、性別、不妊手術の状態によって統計的な格差は見られなかった
  • 切除したポリープ39個を組織学的に検査した所、すべてにおいて炎症性ポリープと確認された
  • 耳鼻咽喉科のベテラン獣医師が40頭を担当し、手術時間の平均は33分、再発率は14.3%
  • 熟練していないレジデントが22頭を担当し、手術時間の平均は48分、再発率は35%
  • 施術者による格差は統計的に有意とは判断されなかった
 こうした結果から調査チームは、「外側アプローチ牽引剥離」(TALA)は30分強という短時間で行えるのみならず、合併症や再発率を抑えることができる優秀な施術法であるとの結論に至りました。ただし鉗子では容易に抜き取ることができない小さなポリープが、アプローチしにくい中耳に多発しているような場合は、侵襲性が高くても「VBO」を採用した方が良いとしています。
Middle ear polyps: results of traction avulsion after a lateral approach to the ear canal in 62 cats (2004-2014)
Sara DS Janssens et al., Journal of Feline Medicine and Surgery 2017, Vol. 19(8) 803-808, DOI: 10.1177/1098612X16660356

解説

 過去に行われた調査では、ノルウェージャンフォレストキャット、スフィンクス、メインクーン、ペルシャ、ラグドール、アビシニアンといった品種に多発すると報告されています。当調査でも、メインクーンは23頭(37%)と非常に高い割合で含まれていましたが、もう少しサンプル数を増やさないと確実な事は言えないとしています。
 今回の調査における再発率は20%程度でした。この値は、VBOで報告されている0~8%という再発率よりは高いものの、耳鏡を用いて鼓膜経由でポリープを抜き取るPTTという方法における50%よりはかなり低く抑えられています。しかし調査の途中で脱落したり連絡が取れなくなった合計7頭の猫を、すべて「再発した」と仮定すると、再発率は34%という高い値になってしまいます。PTTよりは低いから十分であると前向きにとらえることもできますが、熟練した獣医師による再発率が14.3%と低かったことから考えると、なるべく慣れた人が施術した方が良いかもしれません。 猫の耳道ポリープ切除術の後で頻繁に見られるホルネル症候群  術後の合併症としては7頭(11.5%)でホルネル症候群が見られました。侵襲性が高いVBOによる発生率が25~80%とされていますので、かなり低い方と言えるでしょう。この症状は手術中に交感神経がダメージを受けることによって発症しますが、猫の生活の質が大幅に低下することはなく、通常は1ヶ月程度で自然回復します。
 猫の耳道ポリープは比較的頻繁に見られる疾患ですので、典型症状にはいち早く気づいてあげましょう。以下は今調査中の患猫が術前に見せていた症状の一覧です。「耳漏」とは耳の穴から膿が出た状態で、飼い主が臭いを嗅ぐことで確認することができます。
術前の症状
猫の耳道ポリープにおける代表的な症状
  • 耳漏=88.7%
  • 頭を振る=67.7%
  • 耳を引っかく=64.5%
  • 頭を傾ける=32.2%
  • 運動失調=25.8%
  • 聴覚障害=16.1%
  • 食欲不振=4.8%
  • ホルネル症候群=1.6%
猫の耳腫瘍