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遺伝的に太りやすい猫の栄養代謝はスリムな猫と違うのか?

 遺伝的に太りやすい猫とスリムな猫を対象とし、食後の栄養代謝パターンに違いがあるのかどうかが検証されました(2017.7.3/スイス)。

詳細

 調査を行ったのは、スイス・チューリッヒ大学動物栄養研究所のチーム。遺伝的に太りやすいことが確認されている猫6頭と、肥満傾向がないスリムな猫7頭を対象とし、栄養成分が異なる3つのフード(高炭水化物 | 高タンパク質 | 高脂質)を用いた給餌テストを行いました。1つのフードにつき8日間の給餌期間を設け、期間明けのタイミングで血液検査を行い、「グルコース | インシュリン | トリグリセリド | 遊離脂肪酸 | レプチン」といったパラメーターを計測したところ、以下の特徴が見られたと言います。
両グループの違い
  • 1日の平均摂取エネルギー(kJ ME/BW0.67【太りやすい猫】
    高炭水化物=333.3 | 高脂質=352.7 | 高タンパク質=290.2
    【スリムな猫】
    高炭水化物=379.2 | 高脂質=363.9 | 高タンパク質=392.0
  • 血漿パラメーター【太りやすい猫】
    食後のレプチン濃度が高い
    【スリムな猫】
    食後のインシュリン濃度が高い
    【格差なし】
    グルコースとトリグリセリド濃度
 遺伝的な体質と関連していたのは「食後のインスリンレベルはスリムな猫の方が高い」という点、および「食後のレプチンレベルは太りやすい猫の方が高い」という点だけでした。こうした特徴と肥満との関係をすっきり説明することができなかったため、今後さらなる調査が必要だとしています。
Metabolic response to three different diets in lean cats and cats predisposed to overweight
Keller et al. BMC Veterinary Research (2017), 13:184 DOI 10.1186/s12917-017-1107-3

解説

 「遺伝的に太りやすい猫」とは、染色体D3のMC4R遺伝子とNPY1R遺伝子に変異を持っており、放っておくと通常の猫よりもたくさん食べる傾向がある猫のことです。遺伝子の変異より受容器に変化が起こり、満腹感の調整機能が変調をきたして大食いになるものと推測されています(→出典)。
 今回の調査では、遺伝的に太りやすい猫とスリムな猫が全く同じ栄養を摂取した時、体内において違った代謝メカニズムが働き、血液組成に変化が生まれるのではないかという仮説が検証されました。その結果見つかったのは、「食後のインスリンレベルはスリムな猫の方が高い」および「食後のレプチンレベルは太りやすい猫の方が高い」という違いだけでした。
 インスリンが多いと血中のグルコースが速やかに細胞に移送され、血糖値が低くなるはずです。しかし両グループ間の血漿グルコース濃度に明白な格差は見られませんでした。この現象には「肝臓におけるグルコース生成能力の違い」、「インスリン感受性の違い」、「膵臓β細胞におけるインスリンの生成量の違い」、「グルカゴン濃度の違い」などが作用していると考えられていますが、明確なメカニズムはよくわかっていません。
 一方レプチンは満腹感を生み出すホルモンとされていますので、食後の血中濃度が高かった太りやすい猫の方が早く満腹状態になるはずです。しかし実際は、人間が管理しなかった場合、太りやすい猫の方がたくさんフードを食べることが確認されています。またレプチンは食事内容よりも体脂肪によって影響を受けるとされていることから、DXAと呼ばれる機器で体脂肪量が計測されました。しかしどういうわけか、両グループ間で体脂肪に格差は見られなかったといいます。結局、太りやすい猫の方でなぜレプチンレベルが高かったのかに関する明確な答えは見つかりませんでした。
 遺伝的に太りやすい猫における栄養成分の代謝は、今後さらなる調査を重ねていくことが必要でしょう。
 当調査におけるもう一つの発見は、「食後のインスリンレベルは高炭水化物食の時に最も高くなり、高タンパク食の時に最も低くなる」という現象です。この現象は、タンパク質よりも炭水化物の方がグルコースになりやすく、膵臓に作用してインスリンの放出を促しやすいということを意味しています。インスリンの突発的な放出は細胞のインスリン抵抗性を悪化させ、糖尿病を引き起こすとされていますので、糖尿病を発症してしまった猫に対して「低炭水化物 | 高タンパク食」を与える事は理にかなっているとしています。 猫の糖尿病