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8歳以上の老猫における正常血糖値と高血糖の境界はどこ?

 8歳以上の老猫を対象とした血糖値検査により、糖尿病の疑いありと判断する際の参照値が明らかになりました(2017.6.12/オーストラリア)。

詳細

 猫における糖尿病の発症率は0.25~2%で、加齢とともに増すと言われています。しかし健常と糖尿病の境目となる血糖値の境界線に関しては万国共通の基準がなく「171~290 mg/dl」という広い参照値が適宜用いられているのが現状です。そこでオーストラリア・クイーンズランド大学の調査チームは、糖尿病の発症率が高いとされる老猫を対象とし、臨床上健康な猫における血糖値の参照値を明らかにするための調査を行いました。 家庭で血糖値を測れる簡易チェックキット「AlphaTRAK」  調査対象となったのは、ブリスベンにある動物病院を訪れた120頭の老猫たち。平均年齢は10.9歳で、体型や品種はバラバラです。「AlphaTRAK Blood Glucose Monitoring System」と呼ばれる血糖値の簡易チェックキットを用い、耳や肉球から微量の血液を採取して血糖値を測定したところ、以下のような事実が明らかになったといいます。
普通体型猫の血糖参照値
  • 入室時血糖値直近の食事との間隔は無視し、病室に入った時点で計測した血糖値。
    普通体型(9段階BCSの4と5)の猫49頭を元データにすると「67~189mg/dL」。
  • 空腹時血糖値絶食状態で病院内に18~24時間とどまった後に計測した血糖値。
    普通体型(9段階BCSの4と5)の猫28頭を元データにすると「116mg/dL」。
 品種、体重、体型(BCS)、血液採取時の様子、空腹時血糖値、炭水化物の摂取といった6つの変動因子は、総じて入室時血糖値に影響を及ぼすことはなかったといいます。
 調査チームは、入室時血糖値が「189mg/dL超」、入室から3~4時間経過したタイミングにおける血糖値が「116mg/dL超」の場合は、直近の食事時間を調べた上で18~24時間絶食入院させ、空腹時血糖値や耐糖能テストを行った方が無難だろうとしています。ただし、今回得られた参照値を用いる場合は、血糖値を計測するタイミング、猫の年齢、検査キットなどすべての条件を合わせた上で測定しなければならないと注意を促しています。
Cutpoints for screening blood glucose concentrations in healthy senior cats
Journal of Feline Medicine and Surgery(2017), Mia K Reeve-Johnson, Jacquie S Rand, et al. DOI: 10.1177/1098612X16685675

解説

 普通体型(BCS4と5)の猫から得られた入室時血糖値の上限値「189mg/dL」を肥満体(BCS8~9)の猫26頭と比較したところ、肥満猫の中でこの値を超えるものは1頭もいなかったと言います。肥満が糖尿病の危険因子であるという事実から考えると、これは意外な結果です。しかし、肥満体型の猫は空腹時血糖値は上昇しないけれども耐糖能不全を示すことが多いと言いますので、血糖値を測定するだけで糖尿病の有無を判断するのではなく、しっかりと耐糖能テストを行ったほうが無難だと考えられます。
耐糖能テスト
耐糖能テストとは、空腹時の猫に0.5g/kgのグルコースを静脈投与し、2時間後の血糖値を測定するというもの。過去に行われた調査では、「空腹時血糖値が135~151mg/dLの場合、9ヶ月以内に糖尿病を発症する確率が75%」、「中等度の耐糖能不全がある場合、9ヶ月以内に糖尿病発症する確率が38%」といった目安が示されている。
 人間の成人のうち、およそ30%では糖尿病が見過ごされているという報告もあることから、猫においても隠れた糖尿病予備軍や糖尿病患猫が数多くいるものと推測されます。クイーンズランド大学の調査チームは、糖尿病予備群をあぶり出すため「肥満・バーミーズ・オス猫・糖質コルチコイド治療を受けている」など、一般的な糖尿病のリスクファクターを抱えた猫では、家庭内において空腹時血糖値を測定したり、より高い精度で糖尿病を診断できる病院内での耐糖能テストを受けた方が良いだろうとアドバイスしています。家庭内で血糖値を測定する目的は、通院ストレスに起因する一時的な高血糖と病的な慢性高血糖を区別するためです。また空腹時血糖値や耐糖能が異常な老猫では、糖尿病に発展するリスクを回避するため、ダイエットや運動といった予防策を講じることが重要だとも。 猫の糖尿病