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北米における猫のフィラリア感染率調査(2017年版)

 アメリカ獣医師協会(AVMA)が発行している医学誌「Journal of the American Veterinary Medical Association」の第250号内(2017年4月15発行)で、猫のフィラリア感染率に関する調査結果が報告されました(2017.5.11/アメリカ)。

詳細

 調査対象となったのはアメリカとカナダにある1,353の動物病院から集められた合計26,707の血液サンプル、および125の動物保護施設から集められた合計8,268の血液サンプル。「ELISA」(エライサ)と呼ばれる検査方法でフィラリア猫白血病ウイルス(FeLV)、猫エイズウイルス(FIV)の抗体をチェックしたところ、アメリカの35州でフィラリアの陽性サンプルが確認され、全体の血清陽性率が0.4%だったのに対し、カナダでは0%だったと言います。
 感染例はFeLVやFIVなどのレトロウイルスに感染している猫や南部地域の猫で多く、外に出る機会がある猫では出る機会がない猫のおよそ3倍、不健康な猫では健康な猫の2.5倍陽性率が高かったとも。具体的には、健康な猫の陽性率が0.3%だったのに対し、口内疾患を抱えている猫では0.7%、膿瘍や咬傷を抱えている猫では0.9%、呼吸器系疾患にかかっている猫では1.0%だったそうです。
 一方、治療や予防に関しては、フィラリア予防薬が処方されていた割合が12.6%で、血清陽性率が高い地域ほど高い処方率が確認されました。調査チームは、診断の精度がそれほど高くなく、治療のゴールドスタンダードが確立していないことから考え、猫のフィラリア症に関してはとりわけ予防が重要であると強調しています。
Seroprevalence of heartworm infection, risk factors for seropositivity, and frequency of prescribing heartworm preventives for cats in the United States and Canada
Julie K. Levy DVM et al, April 15, 2017, Vol. 250, No. 8, Pages 873-880, doi: 10.2460/javma.250.8.873

解説

 フィラリア症は犬糸状虫(いぬしじょうちゅう, Dirofilaria immitis)という寄生虫によって引き起こされる疾患です。名前に「犬」と入っていることから、犬にしか感染しないと思われがちですが、実は猫にも感染します。ただし体内における振る舞いには違いがあり、「成虫の生存期間が犬では5~6年であるのに対し猫では2~4年」、「犬では体内での増殖が可能であるのに対し猫ではほぼ増殖できない」、「犬では成虫の数が多いのに対し猫ではせいぜい1~3匹」などが特徴として挙げられます。
 以下は生後約3ヶ月齢で保護されて後、完全室内飼いされていたオス猫(8ヶ月齢)の心臓に寄生したフィラリア成虫です。重度の呼吸困難等で死亡する6週間前のフィラリア抗原・抗体検査では、いずれも陰性と出ていることから、フィラリア症診断の難しさうかがえます。 若齢猫にみられた犬糸状虫感染症の1例(日獣会誌70,109~113, 2017年) 若齢猫にみられた犬糸状虫感染症の1例(日獣会誌70 )

陽性率の解釈法

 感染の有無を確認するときに用いられた「ELISA」と呼ばれる方法は、必ずしも万能とは言えません。抗体検査は、フィラリアを体内から駆逐するために形成された抗体と呼ばれる免疫グロブリン(タンパクの一種)を検出します。しかしこの検査は、「体の中にフィラリアがいた」ことの証明にはなりますが、「今現在幼虫や成虫が体内にいる」ことの証明にはなりません。ですから「陽性率が0.4%」だからといって、「1000頭中4頭の体内にフィラリアが生息している」とは単純に解釈できないことになります。

感染率の国際比較

 今回の調査では、アメリカにおける血清陽性率が0.4%、カナダにおける陽性率は0%となりましたが、日本における陽性率はどの程度なのでしょうか?断片的な資料しかありませんが、以下のような数値が参考になるでしょう。検査方法や調査地域によって数値はかなり変動するかもしれませんが、「フィラリアは猫に無関係」とはもはや言えないようです。
日本猫のフィラリア陽性率
  • 1998年九州と本州における野良猫のフィラリア感染率は0.5~9.5%、飼い猫のそれは3.0~5.2%(→出典)。
  • 2000年山口県内で飼育されている猫315頭のうち19頭(6.0%)が陽性だった (→出典)。

予防薬と副作用事例

 猫におけるフィラリア成虫駆除は、重度の合併症を引き起こすことが多いため推奨されていません。一方、幼虫に対する予防薬としては、セラメクチン、イベルメクチン、ミルベマイシンオキシムなどがあり、日本国内でもスポットタイプの製品が流通しています。しかし厚生労働省が公開している動物医薬品データベースによると、副作用による猫の死亡例がずらりと並んでいます(→出典)。この死亡例が薬剤による直接的なものなのか、それとも薬剤の投与によって駆逐されたフィラリア幼虫(もしくは成虫)による間接的なものなのかはわかりません。しかし必ずしも安全とは言えないようです。 猫のフィラリア症