猫エイズウイルス感染症(FIV)~症状・原因から検査・治療・予防法まで猫の免疫不全ウイルスについて知る
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猫エイズウイルス感染症の原因

 猫エイズウイルス感染症とはレトロウイルス科のレンチウイルスに属する猫免疫不全ウイルス(Feline Immunodeficiency Virus, FIV)によって引き起こされる疾患のことです。名称が長いことから単に猫エイズとも呼ばれます。同じレトロウイルス科に属するウイルスとしては白血病を引き起こす猫白血病ウイルス(FelV)があります。また同じレンチウイルスに属するウイルスとしては人間の免疫不全を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)が有名でしょう。両ウイルスが近縁であることから、FIVは現在も熱心な研究対象になっています。 猫免疫不全ウイルス(FIV)の顕微鏡写真  猫免疫不全ウイルス(FIV)は1986年、アメリカにあるカリフォルニア大学デイヴィス校で初めて発見されましたが、実際はそれよりずっと以前の更新世時代(126,000~12,000年前)から存在していたものと推測されています。イエネコ以外ではライオン、ヒョウ、トラ、ピューマ、ユキヒョウ、ジャガー、マヌルネコ、マレーヤマネコ、チーター、ボブキャットなどのネコ科動物において感染例が確認されています。しかし種特異性が高く、人間がFIVに感染することも、逆に猫がHIVに感染することもありません。 猫免疫不全ウイルス(FIV)のミクロ構造模式図  ウイルスは「gag」「pol」「env」という3つの遺伝子を保有しており、「gag」はウイルスを構成するキャプシドタンパク「p24」、「pol」はウイルスの病原性を決定する酵素、そして「env」はウイルスの表面糖タンパクと膜貫通タンパクの生成に関わっています。 猫免疫不全ウイルス(FIV)の主な感染ルートは交尾中のネックグリップとケンカ中の噛み傷  人間のエイズ(HIV)は性交渉が主な感染ルートですが、猫においてはそれほど多くないと考えられています。猫において多いのは性行動そのものではなく、オス猫同士がケンカしたときにできる噛み傷や、オス猫がメス猫の体を押さえつけるときに行う「ネックグリップ」と呼ばれる行動ではないかと推測されています。首筋に噛み付くと同時に皮膚に傷ができ、その傷口から感染猫の唾液が入り込んでウイルスに感染してしまうというルートです。
 その他、母猫から子猫への垂直感染も実験室レベルでは確認されていますが、なぜか自然界においては稀であり、主要な感染ルートとはみなされていません。 ケンカや交尾の有無にかかわらず、集団生活している猫では猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染リスクがある  相互グルーミングや食器の共有を主な感染ルートとするFeLVが「フレンドリーな猫の間で感染しやすい」と称されている一方、ひっかき傷や噛み傷を主な感染ルートとするFIVは「アンフレンドリーな猫の間で感染しやすい」と称されています。しかしこうした表現はFIVの伝染ルートをやや簡略化しすぎです。FIVに感染した9頭と感染していない17頭を対象とした長期的な観察を行ったところ、猫同士の間で激しくケンカをする様子が確認されなかったにもかかわらず、10年間で6頭に新たな感染が確認されたといいます(Addie, 2000 | O'Neil, 1995)。
 こうした事実から、ケンカにともなう噛み傷やひっかき傷だけでなく、グルーミングを始めとする「フレンドリー」なコンタクトによってもFIVが伝染する可能性がうかがえます。

FIVの感染率

 猫免疫不全ウイルス(FIV)は1986年に最初の報告がなされて以来、世界的に見ても感染率がさほど減っていません。2002年にはワクチンも開発されましたが、ウイルスのサブクラスが変わると効果がなくなってしまうという大きな欠点を抱えています。同じくレトロウイルスに属するFeLVのように、ワクチンの誕生とともに順調に感染率が下がってくれない理由はおそらくここにあるのでしょう。

FIV感染率・世界編

 以下は世界各国で報告されている猫のFIV感染率データです。
  • カナダ2007年8月から11月の期間、カナダ国内10の州にある343の動物病院と13の動物保護施設を受診した11,144頭の猫を対象とした大規模な疫学調査が行われました(Little, 2009)。その結果、FIVの抗体陽性率が4.3%であることが判明したといいます。
  • ドイツ1993年から2002年の期間、ドイツのミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン付属動物病院を受診した17,462頭の猫を対象とし、FeLVの抗原とFIVの抗体検査が行われました(Gleichi, 2009)。その結果、FIVの陽性率は3.2%(10年間ほぼ横ばい)、FeLVの陽性率は3.6%(10年間で6→1%に減少)だったといいます。
  • アメリカとカナダ2004年の8月から11月の期間、アメリカとカナダにある345の動物病院を受診した猫9,970頭と、145の動物保護施設に収容された猫8,068頭を対象とした大規模な疫学調査が行われました(Levy et al., 2006)。その結果、FIVの抗体陽性率は2.5%(446頭)だったといいます。
 その他のデータとしてはイラン19.2%(2008)、イタリアのトスカーナ地方11.3%(2006)、中国の甘粛省蘭州市9.12%(2016)、タイのバンコク20.1%(2009)といったものがあります。国や地域によって感染率は大きく変動するようです。

FIV感染率・日本編

 では日本における感染率は一体どのくらいなのでしょうか?いくつかのデータがありますが、日本に暮らしている猫たちは世界的に見てもかなり高い割合で感染しているようです。
 2002年に日本大学のチームが日本全国から集めた1,088の血液サンプルを調べたところ、陽性率が9.8%(107サンプル)だったと報告されています(Maruyama, 2002)。また都道府県別に見ると以下のような内訳になりました。
都道府県別FIV陽性率
日本国内における猫免疫不全ウイルス(FIV)感染率・都道府県別データ一覧
  • 京都=24.0%
  • 神奈川=21.8%
  • 大阪=12.5%
  • 埼玉=12.0%
  • 兵庫=12.0%
  • 栃木=10.3%
  • 石川=9.0%
  • 北海道=8.0%
  • 新潟=8.0%
  • 沖縄=8.0%
  • 静岡=6.6%
  • 島根=0.0%
  • 徳島=0.0%
  • 佐賀=0.0%
  • 鹿児島=0.0%
 上記データのほか、鳥取県内で行われた調査によると、2004年から2013年の10年間における県内のFIV抗体陽性率は平均で17.5%だったと報告されています(Mizutani, 2015)。さらに2008年、日本全国47の都道府県から集められた合計1,770の血液サンプルを調べたところ、抗体陽性率が23.2%というとんでもない数字になったとのこと(Nakamura, 2010)。ただしこのデータは「週に最低1回外に出ている猫」という限定付きです。
 地域によってばらつきはありますが、日本国内においてはおよそ10頭に1頭の割合でウイルスを保有していると考えるのが妥当でしょう。屋外にアクセスできる猫の場合は5頭に1頭と言っても過言ではありません。この数字は人間における風邪なんかよりもずっと高い確率です。要するに猫たちは、人間が風邪をひくよりも高い確率で免疫力を大きく左右するFIVに感染しているということです。冷静に考えると恐ろしい事態ですね。

FIVの感染リスク

 猫が猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染するリスクを高める危険因子がいくつか確認されています。さまざまな国で行われた調査で共通して報告されているのは以下に述べる3項目です。
FIV感染の世界共通リスク
猫免疫不全ウイルス(FIV)感染の世界共通リスクは外猫、オス猫、成猫
  • オス猫去勢していないオス猫の場合、放浪癖が強いため感染した他の猫と接触してしまう危険性が高まります。またメス猫を巡って他のオス猫とケンカするという状況も、傷口からウイルスが感染してしまう危険性を高めるでしょう。
  • 屋外アクセス野良猫や屋外に自由に出られる放し飼い猫の場合、不特定多数の外猫とコンタクトする機会がありますので、どうしても感染リスクは高まってしまいます。
  • 成猫長く生きていればいるほどウイルスと出くわすリスクが高まりますので、単純に子猫よりも年長の成猫のほうが感染リスクは高まります。
 1993年から2002年の期間、ドイツにおいて行われた疫学調査では、FIV感染のリスクファクターとして屋外アクセス(2倍)、オス猫(2.4倍)、老齢、攻撃行動(1.7倍)、FeLVとの複合感染(2.9倍)が確認されました(Gleichi, 2009)。
 また2004年の8月から11月の期間、アメリカとカナダで行われた過去最大級の疫学調査では、7ヶ月齢未満の子猫よりも7ヶ月以上の成猫のほうが2倍、未避妊のメス猫よりも未去勢のオス猫の方が4.66倍、無症状の室内飼い猫よりも症状が現れた放し飼い猫の方が11.3倍も感染リスクが高かったそうです(Levy et al., 2006)。
 その他にも膨大な数の疫学調査がありますが、そのほとんどが「オス猫」「屋外アクセス」「成猫(老齢)」という3項目を危険因子として挙げています。

FIVのサブタイプ

 FIV(猫免疫不全ウイルス)は「env」遺伝子の配列によってA、B、C、D、Eというサブタイプに分けられます。全体の80%はAもしくはBタイプです。最も古いのはBと考えられており、「A/B」「A/C」「B/D」という具合に複合感染している例もあります。現在、サブタイプが変わることによってウイルスの病原性にどのような変化が生まれるのかに関してはよくわかっていません。

FIVのサブタイプ・世界編

 FIVのサブタイプで特筆すべきは地域特異性があるという点です。例えば以下は世界各国において主に見られるサブタイプの分布図です。国によって多く見られるサブタイプが異なることがおわかりいただけるでしょう。 世界地図内における猫免疫不全ウイルス(FIV)のサブタイプ分布図

FIVのサブタイプ・日本編

 上で示した図で気になるのは、日本における猫エイズウイルスのサブタイプがA~Dまでばらけているという点です。日本における猫エイズウイルスのサブタイプ比率は、2010年に行われた調査でAが30.2%、Bが42.2%、Cが5.5%、Dが22.1%程度と推計されています。地域ごとの分布図は以下です。 日本におけるFIVサブタイプの分布図  サブタイプが地域によってバラバラなため、ワクチンの効果にも地域によってばらつきが生まれてしまいます。なぜなら、サブタイプAに対して予防効果があるワクチンを打っても、サブタイプBに対して同じような予防効果があるとは限らないからです。その結果、「ワクチンを打っていたのに病気にかかってしまった!」という状況が容易に起こりえます。日本におけるFIV感染率が世界トップレベルなのは、サブタイプが地域によって分散しているためワクチンによる防御率が世界平均以下になっしまうからなのかもしれません。
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猫エイズウイルス感染症の症状

 猫免疫不全ウイルス(FIV)による症状は大きく分けて3段階で進行します。一般的な分け方は「急性期」「無症状キャリア期」「エイズ発症期」ですが、それぞれの段階に関する明確な定義はなく、また境界線を引くための検査法もないというのが現状です。ですからあくまでも大まかな流れとして理解しておく必要があります。

急性期の症状

 急性期はウイルスに感染した直後、数週~数ヶ月だけ見られる一時的な症状のことです。体の中ではウイルスが宿主の樹状細胞、マクロファージ、ヘルパーT細胞といった免疫細胞に次々と感染し、2週間くらい経つとウイルスが血液中に現れるようになります。ピークを迎えるのは感染後8~12週目くらいで、主な症状は以下です。これらの症状はFIVに特有のものではなく、また程度も軽いため全く気づかれないことも少なくありません。
FIV・急性期の症状
  • 発熱
  • 食欲不振
  • 元気消失
  • 全身性リンパ節腫脹
  • 白血球減少症
  • 下痢
  • 結膜炎
  • 口内炎
  • ぶどう膜炎
  • 黄疸
 FIVは細胞表面に「CD134」と呼ばれる受容体を多くもつヘルパーT細胞に優先的に感染します。その結果、血中のヘルパーT細胞(CD4陽性細胞)とキラーT細胞(CD8陽性細胞)の比率(CD4/CD8比)がどんどんと低くなっていきます。この「CD4/CD8比」は人間のHIV感染患者においては病期を区分する際の項目として用いられますが、猫においては病期とも血中ウイルス量ともうまく連動しないため、それほど重視されていません。

無症状キャリア期の症状

 急性期において体内の白血球が減少した後は、ウイルスに対する免疫応答が始まり、ウイルスを排除しようとする抗体の形成やキラーT細胞数の復活が起こります。その結果、血中のウイルス量が減少して自然と症状が消えていきます。症状が消えると同時に始まるのが「無症状キャリア期」です。これを一行で表すと「体内にウイルスはあるけれども症状を示していない状態」となります。
 持続期間はウイルスのサブタイプ、宿主の免疫力、他の病原体との接触の有無、感染したときの年齢などによって左右されますが、一般的には数年間続きます。中には何の症状も示さないまま8年間元気に暮らしたという症例もあるくらいです。しかし体の中では時間の経過とともに免疫細胞(ヘルパーT細胞とキラーT細胞)が減り続け、少しずつ免疫力が低下していきます。そのようにして発現するのが次の「猫エイズ発症期」です。

猫エイズ発症期の症状

 猫エイズ発症期は、免疫細胞が減少したことによりウイルスの増殖を防げなくなり、さまざまな病原体に屈してしまいやすくなる時期のことです。人間の「AIDS」と区別するため、AIDSの前に「Feline」(猫の)をつけて便宜的に「FAIDS」(フェイズ)と呼ばれることもあります。
 猫エイズ発症期における主な症状は以下です。免疫力の低下に伴って生じるあらゆる疾患が含まれますので、FAIDSに特徴的なものはあまりありません。
FAIDS期の症状
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猫エイズウイルス感染症の検査・診断

 猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染しているかどうかを調べる際は、ウイルスの存在を示す何らかの目印を体内から検出します。具体的にはウイルスが保有する「抗原」や「DNA」、体内で作られる「抗体」などです。

FIV検査のタイミングは?

 病歴がわからない猫に関しては全頭に対してFIV検査をすることが推奨されています。具体的には以下のような猫です。
  • 迎え入れたばかりの野良猫
  • 拾ったばかりの子猫
  • 脱走後に帰ってきた飼い猫
  • 放し飼い猫
  • 見知らぬ野良猫と庭先で接触した飼い猫
 上記したような、FIVに感染した可能性を否定できない猫に対してはすべて検査を行うことが理想です。院内で行う検査精度が100%でないという事実を考慮し、テスト結果にかかわらず60日あけて再テストするのがよいでしょう。これは十分な量の抗体が血中に現れるのを待つためです。 シェルターにおいてはすべての猫に対してFIV検査を行うこと!  来歴がわからないたくさんの猫が集まる保護猫シェルターや動物保護施設においても、全頭に対して検査を行うのが理想です。少数の猫をサンプルとして検査し、その結果から全体を推し量るという方法は推奨されていません。なぜなら、FIVの感染率はそもそも10~20%程度と低いため、サンプルとして選んだ猫が陰性と判定される確率が圧倒的に高いからです。「この猫が陰性だからまぁ他の猫も大丈夫でしょう」と拡大解釈してしまうと、たった1頭の陽性猫から全体にウイルスが散らばってしまう危険性があります。

テストキットでのFIV検査

 病院内で用いられるテストキットではFIVに対抗するため体内で作られた抗体を検出します。一般的に感染から60日で検出できるようになります。しかし検査で抗体が検出されたからと言って必ずしもその猫がFIVに感染しているとは言い切れません。なぜなら、ウイルスを保有していなくてもワクチン接種で抗体が形成されるパターンや、ウイルスを保有していなくても母猫から抗体だけを受け継ぐというパターンがあるからです。

ワクチン由来の抗体と区別

 ウイルスを保有していなくても、ワクチンを接種した猫では体内に抗体が形成されます。その結果、検査で検出された抗体がウイルスによって形成された自然抗体なのか、それともワクチンによって生成された人工抗体なのかがわからなくなってしまいます。ワクチンによってできた抗体を保有した猫を「猫エイズ陽性」と誤認してしまうと、全く必要のない治療を行ったり、全く必要のない隔離を行ってしまうかもしれません。最悪なのは、病気を悲観した飼い主が安楽死を選んでしまうことです。
 自然抗体と人工抗体を検査キットだけで識別することは長らく獣医学における急務とされてきました。そして近年の調査では、両者を区別できる可能性を秘めた製品がいくつか登場し始めています。具体的には「Witness FeLV/FIV」(感度100% | 特異度100%)や「Anigen Rapid FIV/FeLV」(感度98% | 特異度100%)などです(Westman, 2015)。 猫免疫不全ウイルス(FIV)の検査キットは標的とする抗体の種類によっては抗体の由来まで識別できる  こうした識別は、製品が標的としている抗体の種類が異なるために可能になっていると考えられます。たとえば「SNAP FIV/FeLV Combo」が標的としているのが「p15抗体」(FIVのマトリックスタンパクp15に対して形成された抗体)であるのに対し、「Witness FeLV/FIV」が標的としているのが「gp40抗体」(FIVの膜貫通糖タンパクgp40に対して形成された抗体)であるなどです。
 しかしメーカーの説明書に「ワクチンの由来を識別可能」とは記載されていませんので、まだ公式な機能としては認可されていないのでしょう。ちなみに日本国内でよく用いられる「SNAP FIV/FeLV Combo」では抗体の由来を識別できないとされていますので、このキットを用いた場合の解釈は慎重に行わなければなりません。

母猫由来の抗体と区別

 母猫がFIVワクチンを受けており体内に抗体を持っている場合、胎盤や初乳を通して子猫の体内にも抗体が移行します。その結果、子猫の体内から抗体が検出された場合、その抗体が母猫由来のものなのか、それともウイルス感染によって自分の体内で生成されたものなのかがわからなくなってしまいます。
 こうした紛らわしさを解消するため、子猫のFIV検査は生後6ヶ月になった時点で行うのが理想です。理由は、この時期になると母猫から受け継いだ移行抗体が体内から自然消滅しているからです。再検査で陰性と出たら「抗体は母猫由来のものだった」(=ウイルスに感染していなかった)、陽性と出たら「抗体は自前のものだった」(=ウイルスに感染していた)と判断されます。

FIV用検査キットの種類

 FIVを院内検査キットで調べる場合、末梢血液中の抗体を検出します。一部のキットを除き、涙や唾液は汚染されやすいので基本的に使いません。以下は日本国内で流通しているFIV向けの院内検査キット一覧です。ELISAや免疫クロマトグラフィーといった技術を応用しています。
FIV検査キット一覧
  • スナップ・FeLV/FIVコンボIDEXX | 1回の採血で血中におけるFeLV抗原、FIV抗体の検出を同時に行う | 10分間で判定 | 検体は血清、血奨または全血
  • ウイットネスFeLV-FIVZoetis | 1回の採血で血中におけるFeLV抗原、FIV抗体の検出を同時に行う | 10分間で判定
  • thinka ネコ 免疫不全ウイルス抗体/ネコ 白血病ウイルス抗原検査 コンボキット FIV/FeLVアークレイ | 1回の採血で血中におけるFeLV抗原、FIV抗体の検出を同時に行う | 10分間で判定 | 約10μL/項目の微量検体で測定
  • チェックマンFIV共立製薬 | 免疫クロマトグラフ法によりFIV抗体のみを検出 | 検体は全血、血漿、血清のいずれか
 2015年に公開された「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査」(→出典)によると料金は2,000~5,000円の範囲内で中央値が2,813円となっています。

FIV検査キットの精度

 FIVの抗体を検知する院内テストキットは、一体どの程度の精度を持っているのでしょうか?海外で行われた調査においては以下のような数字が報告されています。ドイツ・ミュンヘン大学の調査(Hartmann, 2007)ではFIV陽性猫55頭と陰性猫480頭の血液サンプル、オーストラリアの調査(Westman, 2015)では、FIVワクチン接種猫119頭と未接種猫239頭、アメリカの調査(Levy, 2017)ではFIV陽性猫94頭とFIV陰性猫97頭が調査対象になっています。なお「感度」とは陽性のものを正しく陽性と判定する確率、「特異度」とは陰性のものを正しく陰性と判定する確率のことです。
2007年・ドイツ
  • SNAP Combo Plus感度=100% | 特異度=99.6%
  • Witness感度=94.5% | 特異度=99.4%
2015年・オーストラリア
  • SNAP FeLV/FIV Combo感度=100% | 特異度=64%
  • Witness FeLV/FIV感度=100% | 特異度=98%
  • Anigen Rapid FeLV/FIV感度=100% | 特異度=100%
2017年・アメリカ
  • SNAP FeLV/FIV Combo感度=97.9% | 特異度=99.0%
  • Witness FeLV/FIV感度=94.7% | 特異度=100%
  • Anigen Rapid FeLV/FIV感度=96.8% | 特異度=99.0%
  • VetScan感度=91.5% | 特異度=99.0%
動物病院で使用される猫免疫不全ウイルス(FIV)用院内テストキット一覧  「SNAP FeLV/FIV Combo」(IDEXX)の感度は98~100%、特異度は64~99%。「Witness FeLV/FIV」(Zoetis)の感度は94.5~100%、特異度は98~99.4%。共に高い感度と特異度を誇っていますが、常に100%の精度ではないという点には注意が必要です。
 各国の調査チームによると、ウイルスを保有していない猫を「ウイルスあり」と誤判定してしまう「偽陽性」のパターンが特に多いといいます。その結果、健康なのに不必要な治療を受けていたり、最悪のケースでは安楽死という憂き目にあっている猫たちが潜在的にかなりいるのではないかとのこと。検査キットの誤判定を避けるためにも、最低60日の間隔をあけた別のキットによる再検査を行うことが推奨されています。

PCRでのFIV検査

 PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査とはFIVが遺伝子の中に保有している核酸(プロウイルスDNAやウイルスRNA)を血中から検出する方法です。早ければ感染から2週間ほどで検出できるようになります。院内ではできませんのでラボに外注する形になります。
 時間と費用がかかるのだからそれだけ精度も高いのだろうと思われがちですが、実はそうでもありません。陽性を陽性と判断する「感度」に関しては41~93%、陰性を陰性と判断する「特異度」に関しては81~100%というデータが報告されており、同じサンプルを別々のラボに送ったら違う結果が帰ってくるという奇妙な現象も起こりえます。またFIVはA~Eまでのサブタイプ間で遺伝子配列が20%も異なるため、Aタイプの検出精度は高いけれども他のサブタイプの検出精度はイマイチということがよくあります。
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猫エイズウイルス感染症の治療

 現在、猫免疫不全ウイルス(FIV)を体内から駆逐してくれる夢のような特効薬は存在していません。よって免疫力の低下に伴って現れた様々な疾患を、その場しのぎで抑え込んでいくことがFIV治療の軸となります。

抗ウイルス治療

 人間のレトロウイルス患者(HIV患者)に対しては、複数の薬を併用する抗レトロウイルス治療(HAART)が行われ、生活の質が高まったり生存期間を伸ばせることが確認されています。しかし人間用に用いられる抗レトロウイルス薬は猫にとって副作用が大きく、ほとんど転用できません。唯一効果が確認されているのは「ジドブジン」(AZT)と呼ばれる薬だけです。この薬は実験室内でも生体内でもウイルスの複製を阻害することが確認されています。
 FIV感染猫を対象とした調査では、口内炎の重症度改善とCD4:CD8比率の改善が報告されています(Hartmann et al., 1992)。血中のウイルス量を減らせる可能性がありますので、神経症状や口内炎を抱えた猫に有効と考えられています。主な副作用は再生不良性貧血などです。しかし必ずしも胸腺の萎縮や免疫不全を予防できるわけではありません。また日本国内ではそもそも動物用医薬品として使用されていません。

免疫抑制剤治療

 糖質コルチコイドを始めとした免疫抑制剤の使用は、重度の口内炎など生活の質を著しく低下させるような炎症性病変を抱えているときにだけ考慮されます。しかし副作用があるため、潰瘍部分のレーザー切除や抜歯などが優先されることもしばしばです。

インターフェロン治療

 ウイルスの増殖や腫瘍細胞の増殖抑制効果がある猫用製剤「ネコインターフェロン-ω」が認可されている国がいくつかあります。インターフェロンとはウイルスや細菌といった病原体やがん細胞といった異物に反応し、体の中にある細胞が分泌するタンパク質の総称です。
 FeLVに感染した猫を対象とした調査では生存率が投与グループで有意に高かったとの報告があるものの(de Mari et al., 2004)、FIVに感染した猫を対象とした同様の調査ではなぜか同じ効果が認められませんでした。人工のヒトインターフェロン-αの投与調査も行われましたが、偽薬群と比較して明白な健康増進効果は確認されませんでした(McCaw et al., 2001)。一方、天然のヒトインターフェロン-αの投与実験においては生存期間がいくらか伸びる可能性が示されています(Pedretti et al., 2006)。
 現在日本で使用されているネコインターフェロンは、猫カリシウイルス感染症に対して用いられる「インターキャット」(東レ)だけです。このインターフェロンをFeLVやFIVに対して用いるのは、いわゆる「オフラベル」(ガイダンス外使用)になります。

免疫調整因子

 アメリカではアメリカ合衆国農務省(USDA)によってFIVとFeLVに対する「LTCI」(T細胞免疫調整因子, Lymphocyte T-cell immunomodulator)の使用が認められています。この製剤の効果は、CD4の分化と成熟を促すことでCD8の活性化を手助けし、病原体や悪性腫瘍細胞への抵抗性を高めるというものです。日本では使用されていません。
CD4/CD8
「CD4」はCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)、「CD8」はCD8陽性T細胞(キラーT細胞)のこと。「CD」とは免疫細胞の表面に発現している糖タンパクのことで、「CD4」を有している細胞が「CD8」を有している細胞にサイトカイン(IL-2など)やガンマインターフェロン(病原体や腫瘍細胞などに反応して細胞が分泌するタンパク質の一種)を通じてシグナルを送ることで体内の病原体や異物の駆除を促進するというメカニズムになっている。
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猫エイズウイルス感染症の予防

 猫免疫不全ウイルス(FIV)を予防するための基本は、感染猫と接触する機会をできるだけ少なくすることです。また万が一感染した場合を想定し、ワクチンを打っておくことも決して無意味ではありません。

ウイルスとの接触を断つ

 猫がそもそもウイルスと接触しなければ必然的に感染することもありあせん。FIV予防のゴールドスタンダードはウイルスとの完全断絶です。
  • 完全室内飼いウイルスを保有した猫との接触機会をなくすため、すべての猫を完全室内飼いに切り替えます。これはウイルスをもらわないためにも、ウイルスを外の猫に撒き散らさないためにもとても重要なことです。
  • メス猫の避妊手術FIVは胎盤や初乳を通して子猫に感染する可能性があるため、ウイルスに感染した母猫には避妊手術を施し、今後繁殖を行わないようにします。
  • オス猫の去勢手術オス猫には去勢手術を施して放浪癖を弱めると同時に、他のオスと争う機会を減らします。また性衝動に起因するストレスを軽減することは、免疫力が低下したときの二次感染性を防ぐ上でも極めて重要です。
  • 新しい猫を迎えるときの注意子猫であれ成猫であれ、新しい猫を迎え入れる時は必ず事前にFIVの検査を終わらせておきます。
  • 医原性感染に注意FIVは消毒薬で簡単に取り払うことができますが、それでも医原性感染の可能性を完全には否定できません。具体的には動物病院内における手術、注射器、診察台、聴診器、チューブ、デンタル機器などを通して院内感染してしまうなどです。過去に行われた調査では、聴診器をしっかり消毒していない獣医師の数がゾッとするほど多いと報告されています。「健康になるために行ったはずの病院で不健康になった」というおかしな現象が生じてしまう可能性だって大いにあります。
     病院から帰ったら、まず飼い主が石鹸でよく手を洗います。そしてペット用のウエットシートなどを用いて猫の被毛表面を軽く拭いてあげましょう。レトロウイルスは生体外での生存力が弱く、消毒液や石鹸などで簡単に死滅します。
  • 感染猫を隔離するFIVに感染した猫と感染していない猫を同居させるのは危険です。FIVはケンカによる噛み傷や交尾行動に伴うネックグリップを通して感染するというのが最も多いルートです。しかしFIV陽性猫9頭と陰性猫17頭を対象とした長期的な観察を行ったところ、猫同士の間で激しくケンカをする様子が確認されなかったにもかかわらず、10年間で6頭に新たな感染が確認されたといいます(Addie, 2000 | O'Neil, 1995)。24時間ずっと猫たちを監視し続けることなどできませんので、確実に感染を防ぎたい場合は、陽性猫を陰性猫から隔離する必要があります。

FIVワクチンを接種する

 猫免疫不全ウイルス(FIV)に対するワクチンが最初に登場したのは2002年のことです。農務省(USDA)の認可を受けると同時にアメリカで流通が始まり、その後カナダ(2003年)、オーストラリアとニュージーランド(2004年)でも認可が下りて使用が解禁されました。日本でも2008年8月からフェロバックスFIVという商品名で猫エイズワクチンが流通しています。しかしワクチンの効果に対する獣医師の意見は「大絶賛!」とは言いがたく、人間がインフルエンザ用のワクチンを接種するのと同じ感覚で、気軽にエイズワクチン接種するというわけにはいかないようです。以下ではその理由について解説します。

ワクチンの限定的な効果

 猫エイズウイルスは遺伝子構造によりA~Eまでのサブタイプが存在します。猫エイズワクチンの効果が確認されているのは、これらサブタイプのうちA、B、及びD1だけであり、中部~近畿地方で散見されるサブタイプCや、富山や石川県で散見されるサブタイプD2に対する効果は未確認です。つまりワクチンを打ったにもかかわらず、全く効果がなかったということもありうるわけです。ちなみに日本における猫エイズウイルスのサブタイプ比率は、2010年に行われた調査でAが30.2%、Bが42.2%、Cが5.5%、Dが22.1%程度と推計されています。日本におけるFIVサブタイプの分布図

低いウイルス防御率

 猫エイズワクチンには限定的な効果しかないことが明らかになりました。では実際の防御率はどの程度なのでしょうか?どうやら理想と現実の間にはかなりのギャップがあるようです。
 製造メーカーが主張しているウイルス防御率は、実験室内のデータを元にした場合でおよそ80%です。しかしFIVは「env」遺伝子の配列によってA~Eまでのサブクラスに分けられ、さらにサブクラスは核酸配列によってもっと細かく分けられます。わかりやすく示すと以下のような感じです。枝葉(えだは)の一つ一つが系統分岐を示しています。 猫免疫不全ウイルス(FIV)の系統分岐図  あらゆるタイプのウイルスに効果がある万能ワクチンを開発しようとすると、上の図で示したような数十に及ぶ細かなタイプをすべて網羅する必要があります。しかしFIVは自然界における変異種が多いため、そのような万能ワクチンを開発することは現実的ではありません。その結果、ワクチンを打った場合の自然界における防御率は、実験室内で確認したそれよりもかなり落ち込んでしまいます。また、ワクチンを打ったにもかかわらずそもそも抗体が形成されない「ノンレスポンダー」がいるため、防御率はさらに下がります。例えば以下はさまざまなサブタイプに対するFIVワクチンの防御率を示したデータです(Sahay, 2018)。 FIVのサブタイプとワクチンに対する抗体形成率およびウイルス防御率一覧  抗体形成率が決して100%ではない点、および防御率に大きな格差がある点がおわかりいただけるでしょう。アメリカ・カリフォルニア州で分離されたサブタイプA(Pet)と、スコットランド・グラスゴーで分離されたサブタイプA(UK8)に至っては、同じサブタイプAであるにもかかわらず、0%と100%という極端な防御率の格差が生まれています。
 こうした調査結果からも、猫エイズワクチンとして使用されている「フェロバックスFIV」(Fel-O-Vax FIV®)の予防効果は、実験室で理論的に調べた場合と、実際に生体に接種した場合とでは、大きな開きがある可能性がうかがえます。

自然界でのウイルス変異

 レトロウイルスに属するFIVは人間のHIVと同様、自然発生的な遺伝子組み換えが頻繁に起こります。
 イギリス・グラスゴー大学のウイルス研究センターの調査チームは、テネシー州メンフィス(27頭)とイリノイ州シカゴ(16頭)からFIV陽性猫の血液を採取し、ウイルスの最外層に当たる「エンベロープ」の形成に関わる「エンベロープ遺伝子」(env gene)を、7つのスパン(区画)に分割した上で精査しました(Beczkowski, 2014)。その結果、第3スパン(565~1272)に含まれる708塩基にだけ着目した従来型の分類法では、「A~E」という5種類のいずれかに分類されるものの、その前後に含まれる全てのスパンにまで視野を広げてみると、「B-A」、「A-B-A」、「B-A-D-B」など、従来の分類法では到底カバーしきれないほどたくさんの亜種が存在していることが判明したと言います。この事実から研究チームは「このまま自然発生的な遺伝子組み換えが進行していくと、既存のものとは全く違うエンベロープを持ったウイルスが生まれるかもしれない」との結論に行き着きました。
 2010年に効果があったFIVワクチンが、2020年にも有効とは限りません。自然界で発生するFIVの遺伝子組換えに合わせ、ワクチンの方もアップデートしていかないとほとんど使い物にならなくなってしまうでしょう。FIVワクチンが市場から突然消えたりまた現れたりする事情の裏には、ひょっとすると上記したようなウイルスのイレギュラー性があるのかもしれません。

ワクチンの副作用

 ワクチンの使用上の注意には、以下のような注意事項が記載されています。ワクチンとはいえ体内に異物を注入するわけですから、いいことばかりではないようです。
猫エイズワクチン・使用上の注意
  • 使用上の注意1猫において不活化ワクチンの注射により、注射後3ヶ月~2年の間にまれに(1/1,000~1/10,000程度)線維肉腫等の肉腫が発生するとの報告がある。
  • 使用上の注意2注射後、注射部位に腫脹、硬結等が認められる場合がある。
  • 使用上の注意3注射後、一過性の副反応(発熱、疼痛、元気・食欲の不振、下痢又は嘔吐等)が認められる場合がある。
  • 使用上の注意4過敏体質の猫では、まれにアレルギー反応(顔面腫脹、掻痒、じんま疹等)やアナフィラキシー反応(ショック、虚脱、貧血、血圧低下、呼吸速迫、呼吸困難、体温低下、流涎、ふるえ、けいれん、尿失禁等)が起こることがある。アナフィラキシー反応(ショック)は、本剤注射後30分までに発現する場合が多くみられる。
 日本国内で流通しているFIVワクチンには「アジュバント」が含まれています。アジュバント(adjuvant)とは、不活化ワクチンの効果を高めるために混ぜられる添加物のことです。この成分は「免疫獲得を促進する」という良い面ばかりではなく、まれに注射部位肉腫を引き起こす可能性が示唆されていますので気をつけなければなりません。 猫の注射部位関連肉腫(FISS)  また免疫力が低下した陽性猫にワクチンを接種すると、ウイルスを中に含んだリンパ球が活性化し、逆にウイルスの増殖を促進するのではないかとの指摘があります。ワクチンを打ったからと言って必ずしもいいことばかりではありませんので、善悪両面からの慎重な検討が必要です。

結局、ワクチンを打つべき?

 猫エイズワクチンに関する基本的な知識を述べてきましたが、最終的にワクチンを接種するかどうかは、やはり飼い主の判断にかかっています。以下の項目を判断材料にして、最終的にご決断下さい。 猫のワクチン接種
猫エイズワクチン・判断基準
  • 他の猫と接する機会がある猫にとっては、感染の確率が下がる
  • ただし、感染予防のデータは、サブタイプA、B及びD1型に基づいており、CやD2型に対するする防御能は未知
  • サブタイプがA~Dまでバラけている日本においては、海外における防御率よりさらに下がると推測される
  • 完全室内飼いを実行しており、他の猫と接する機会が無い猫の場合は、必要性は低い
  • しかし完全室内飼いでも、他の猫と同居していたり、お友達の猫が遊びに来たときは、猫同士の接触がありうる
  • ワクチン接種による副作用(肉腫の発生など)が、ゼロではない
 ちなみに2008年から日本国内で発売されている「フェロバックスFIV」は、突然の販売中止や再開がありますので、かかりつけの動物病院が在庫を保有しているかどうかを事前にご確認ください。
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FIV陽性猫との暮らし

 世界各国で行われた長期的な調査によると、どうやら猫がFIVに感染したからと言って必ずしも寿命が短くなるわけではないようです。健康な猫と同じくらい長生きするという事例が山ほどありますので、FIV陽性猫との暮らしにおけるポイントは「どのタイミングで安楽死させるか?」ではなく、「いかに二次感染を防いで健康を保つか?」という点になります。

FIVは猫の寿命を縮める?

 人間の場合、HIVに感染したことが発覚するとまるで死刑宣告でも受けたかのような大きなショックを受けてしまいます。しかしFIVに感染した猫を対象とした疫学調査では、ウイルスに感染したからといって必ずしも寿命が縮むわけではないとの報告が続々と増えつつあります。以下は一例です。
猫エイズと猫の寿命
  • ドイツの疫学調査1993年から2002年の期間、ドイツのミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン付属動物病院を受診した17,462頭の猫を対象とし、FIV感染猫の生存期間調査が行われました(Gleichi, 2009)。その結果、FIV感染猫と未感染猫との間に有意差は見られなかったといいます。
  • カナダの疫学調査カナダ西部で1,205頭の猫を対象として行われた調査では、66頭(5.5%)がFIV陽性と診断されました(Ravi, 2010)。FeLVと複合感染していなかった58頭を対象として追跡調査を行ったところ、FIV未感染猫と比較して生存率に違いは見られなかったといいます。
  • オーストラリアの疫学調査オーストラリア国内で520頭のペット猫を対象とした生存率調査が行われました(B.P. Liem, 2013)。調査期間中に死亡したFIV陽性猫38頭と、同期間中に死亡したFIV陰性猫134頭の死亡時年齢および生存期間を調べたところ、両者の間に格差は見られなかったといいます。
 上記したように、FIVに感染したからと言って猫がすぐに死んでしまうわけでもなければ、極端に寿命が短くなるわけでもないようです。HIVのイメージに引っ張られて「FIV感染=もうダメだ!」と思い込んでしまうのは早計と言えるでしょう。FIVに感染した猫の寿命を縮めているのは、病気そのものではなく飼い主自身かもしれません。以下はそのことを示す少し怖い事例です。

FIV陽性猫の安楽死

 FIVに感染した猫たちの平均寿命を縮めているのは飼い主による安楽死かもしれません。
 北米で行われた10,000頭近くの猫を対象とした最大級の調査では、FIV陽性猫1,100頭を対象とした生存率が調べられました。その結果、6年後の生存率に関し陰性猫が90%だったのに対し陽性猫がわずか65%だったといいます(Levy, 2006)。25%も多くの猫が死んでいることから「FIVに感染すると寿命が縮む」と考えたくなりますがそれは早計であることが判明しました。FIVと診断されてから100日間に死んだ猫たちを除外すると、なんと3年後生存率が94%、6年後生存率が80%にジャンプアップしたそうです。
 上記調査内で猫たちの死亡率を高めていたのは、FIVを悲観した飼い主ではないかと推測されています。つまり「どうせ長生きできないのだから楽にしてあげよう…」という考えを持った飼い主が安楽死を選び、診断から3ヶ月間における猫たちの死亡率を激増させ、結果として全体の死亡率を高めてしまったという構図です。
 先述したように、FIVに感染したからと言って猫の寿命が縮むわけではなく、健康な猫と同じくらい長生きできることもあります。「FIV=死刑宣告」という思い込みを捨て、安易な安楽死に踏み切らないことを強く推奨します。

猫の健康寿命を伸ばす

 世界各国で行われた大規模な疫学調査により、FIVに感染したからと言って必ずしも猫の寿命が縮むわけではないことがわかりました。しかし「寿命」と「健康寿命」とは違います。ただ単に猫を長生きさせるだけでなく、「健康な状態で」長生きしてもらうためには、最低限以下のような注意点を守る必要があります。
FIV猫との生活・注意点
  • 完全室内飼いで病原体との接触を防ぐ
  • 生肉は避ける
  • 内部寄生虫(回虫や条虫)の駆除をする
  • 外部寄生虫(ノミやダニ)の駆除をする
  • 原虫(コクシジウム)の駆除をする
  • 半年ごとに健康診断を受ける
  • 定期的に体重計測をする
  • 口内病変をこまめにチェックする
  • 皮膚の病変をこまめにチェックする
猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染した猫では口内病変が高確率で見られる  上記した項目のほか、免疫力を落とさないためにストレス管理をするということも非常に重要です。具体的には以下のページをご参照ください。 猫の幸福とストレス
まとめ
 日本におけるFIVの感染率は世界トップクラスです。全体的に見ると10頭に1頭、屋外に出る猫に限ると4~5頭に1頭というとても高い確率でウイルスを保有しています。
 猫白血病ウイルス(FeLV)の感染率がワクチンの登場とともに減っているのに対し、FIVでは同様の傾向が見られません。この理由は、FIVが高い変異性をもっており、ワクチンの開発がそれに追いついていないからです。
 HIVのイメージが強いため「FIV=死刑宣告」と思ってしまう飼い主が多いようですがそれは早計です。世界各国で行われた膨大な数の疫学調査により、健常猫とほとんど同じくらい長生きできることが示されています。ですからFIV感染を理由とした安易な安楽死はNGです。
 FIVの主な感染ルートは交尾とケンカ。この2つを防ぐため、猫には不妊手術を施し、完全室内飼いすることが推奨されます。ただ単に猫の寿命を伸ばすのだけでなく、「健康寿命」を伸ばすのは飼い主の責任です。万が一ウイルスに感染してしまった場合は、免疫力を落とさないようしっかりとしたストレス管理を行い、二次感染を防ぐため病原体との接触機会をなるべく減らしましょう。
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