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広島県尾道は本当に「猫の街」?

 「猫の街」で売り出している広島県尾道の屋外猫を調査した所、3年間でおよそ8割もの猫が姿を消すことが明らかになりました(2017.10.9/日本)。

詳細

 調査を行ったのは広島大学大学院・生物圏科学研究科のチーム。2011年11月から2014年10月の期間、尾道市の中心部を「アップタウン」(住宅地区)と「ダウンタウン」(商業地区)とに分け、両方の地域に暮らしている屋外猫の動態を調査しました。ここで言う「アップタウン」とは、山陽本線と国道2号線を境目とし北にある地域、「ダウンタウン」とは南にある地域のことです。 山陽本線と国道2号線によって上下に隔てられる尾道市  2011年11月から週に1度、ランダムで選んだ日に調査員がアップタウン2.61km、ダウンタウン3.39kmを徒歩でカバーし、猫に出会ったらその都度特徴を記録して国勢調査をしていきました。その結果、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。なお「不健全」とは鼻水、目やに、皮膚の炎症を伴う粗雑な被毛、脱毛部分、傷跡、出血、荷重不全が1つでも見られる状態のこと、また「※」は統計的に有意(格差が認められる)を意味しています。
アップタウン
  • 大宝山千光寺があり丘が多い21.4 ha
  • 最初の1年間で124頭を確認
  • 子猫の比率=23.4%
  • 個体密度=5.8/ha(1万平方m)
  • 耳をカットされた桜猫=なし
  • 単一色=17.5%
  • サバ=62.1%
  • 白黒=29.8%
  • 首輪を装着=13.7%
  • 人慣れした猫=25.8%(※多い)
  • 不健全な猫=114頭中48%
  • 2年目の終わりまでに姿を消した=71頭
  • 3年目の終わりまでに姿を消した=28頭
  • 3年間で全体的に個体数が減少傾向にあった
  • 3年間のうちに姿を消した猫が不健全である割合が多い(※)
ダウンタウン
  • 商店街に沿って店舗が並ぶ23.2 ha
  • 最初の1年間で80頭を確認
  • 子猫の比率=16.3%
  • 個体密度=3.4/ha(1万平方m)
  • 耳をカットされた桜猫=なし
  • 単一色=4.8%
  • サバ=52.5%
  • 白黒=22.5%
  • 首輪を装着=22.5%
  • 人慣れした猫=7.5%(※少ない)
  • 不健全な猫=69頭中51%
  • 2年目の終わりまでに姿を消した=53頭
  • 3年目の終わりまでに姿を消した=13頭
  • 3年間で全体的に個体数が減少傾向にあった
Three-year route census study on welfare status of free-roaming cats in old-town Onomichi, Japan
Aira Seo, Hajime Tanida (2017), Journal of Applied Animal Welfare Science, DOI: 10.1080/10888705.2017.1379401

解説

 3年間の調査期間中に姿を消した猫の数は、アップタウンが99/124頭(79.8%)、ダウンタウンが66/80頭(82.5%)でした。全体の8割近いこれらの猫たちは一体どこへ行ってしまったのでしょうか?可能性としては以下のようなものが考えられます。
消えた猫たちはどこへ?
  • 拾われた 首輪をしていなかった猫たちが誰かに拾われてペット猫になったという可能性が考えられます。その場合、アップタウンの成猫率は75%、ダウンタウンのそれは84%ですので、多くの人が成猫を迎え入れたと想定しなければなりません。しかし屋外猫を迎える場合、生まれて間もない子猫を拾うというパターンが大半だと考えられます。姿を消した猫たちが善意の人に拾われてペットになったという可能性は、理想的ではあるものの、いささか希望的観測というものでしょう。
  • 移動した 縄張りを変えて別の地域に移り住んだという可能性が考えられます。猫の縄張りを決める因子は一般的に、繁殖期においてはメス猫の存在、非繁殖期においては食料の豊富さだと考えられています。調査が行われた3年間のうちに両エリアにおいて極端な食糧不足が起こったという事実はありませんので、食糧が入手しにくくなって猫が河岸を変えたというシナリオはあまり考えられません。また両エリアにおいて二重カウントされた猫がいなかったという事実からも、猫が移動して居住エリアを変えたという可能性は薄いと考えられます。
  • 捕獲された 誰かが猫を捕獲して別の場所に移したという可能性があります。しかし調査期間中、猫嫌いの住人が猫を大量に捕獲して行政機関に持ち込んだとか、地域猫活動の一環として不妊手術を行うため、地元の動物保護団体などが大量に猫を捕獲したという事実は確認されませんでした。また動物虐待を趣味とするクズ人間がいないとは言い切れませんが、両地域併せて160頭近くの猫を捕獲するという状況はいくらなんでも現実的ではないでしょう。
  • 交通事故に遭った 猫が交通事故に遭い、人知れずごみ業者に回収されたという可能性があります。アップタウンとダウンタウンを分け隔てているのは山陽本線と国道2号線です。調査チームは夜間でも比較的交通量が多いため、交通事故の可能性は薄いのではないかと想定していますが、全国各地で散発的に報告されている猫の路上死数から考えると、猫が事故に遭って死亡した可能性を排除するわけにはいきません。3年間のうち、調査員が出くわした猫の死体はたった1体だったと言います。車に轢かれて道端に置き去りにされ、ごみ業者に回収されたと想定すれば、「猫は死ぬ前に姿を消す」という奇妙な現象にも説明がつきます。当調査には含まれていませんが、路上死した動物の取り扱いに関して行政に確認をとれば、もう少しはっきりしたことがわかるでしょう。
  • 病気や怪我 病気やケガが原因で死亡した可能性があります。猫は体が弱ると捕食者に気付かれないよう人目につかない場所に隠れる習性があります。隠れたまま体力が回復せずそのまま死んでしまったのだとすると、調査員に死体を見せることなく姿を消したという現象にも説明がつきます。建築業者から聞いた逸話の中には、「廃屋の中から猫の白骨死体が見つかった」といったものもあるため、調査チームは病気やケガを抱えた猫が廃屋などに忍び込み、そのまま息絶えた可能性が高いと推定しています。またこの仮説は、「アップタウンにおいて姿を消した猫のうち、不健全と判断された割合の高さは統計的に有意だった」という事実によっても補強されます。
 尾道市は「猫の街」として知られ、行政も猫を観光のアトラクションとして考えてるフシがあります。しかしその猫たちの暮らしぶりをよくよく調べてみると、かなり過酷なものであることが分かってきました。観光客や地域住民の前に姿を見せ、猫なで声で餌をねだるのは比較的元気な猫たちだけです。一方、元気で無い猫たちは、病気や怪我を抱えつつ人の目が届かないところで死んでいるのかもしれません。またたとえ元気に動き回れたとしても、交通事故にあって人知れずごみ業者に回収されているのかもしれません。たった3年間のうちに姿を消すおよそ8割の猫たちを全て「死亡」で説明することはできませんが、「場所を変えてのんびり暮らしている」と想定するのはあまりにも楽天的というものです。
広島CAT STREET VIEW 尾道篇
 以下でご紹介するのは、広島県の観光課が公開している町のPR動画です。「海と山に囲まれたネコの町、広島県尾道市をご案内します」という宣伝文句からも、猫の存在をアトラクションとして観光客を呼ぼうとしている狙いが見て取れます。 元動画は⇒こちら
 猫に不妊手術を施して元の生活場所に戻してあげる「TNR」は、人道的な屋外猫の管理方法だと言われています。しかし猫の本当の敵は空腹よりも病気や怪我です。不妊手術を施して食事や糞便の処理だけしてればよいというのではなく、今後はTNRを発展させた「TTVARM」(TNR+健康管理とモニタリング)という管理方法にも目を向けていく必要があると考えられます。今回の調査では、不妊手術の印である耳カットを持つ「さくらねこ」がただの1頭も見られませんでした。猫を観光に利用しているにも関わらず、頭数管理や健康管理を積極的に行おうとしない尾道のスタンスは、TNRにすらなっていない搾取的なものといえます。 放し飼いが招く猫の死 大阪市内では年間1万5千頭もの屋外猫が姿を消す NPO法人・犬猫みなしご救援隊・代表ブログ