ネコガンマヘルペスウイルス（FcaGHV）の日本における感染率が判明

　調査を行ったのは、鹿児島大学共同獣医学部のチーム。日本全国47都道府県から集められた猫の血液サンプルを元に、まだ未知の部分が多い新興ウイルス「ネコガンマヘルペスウイルス」（FcaGHV1, Felis catus gammaherpesvirus）の感染率調査を行いました。その結果、完全室内飼いの猫を除いた1,738頭中23頭の血液からウイルスDNAが検出され、感染率は1.3%であることが判明したといいます。また、猫たちの基本属性からウイルス感染の危険因子を統計的に精査したところ、「5歳超」と「猫エイズ感染」の2つだけが残り、危険の度合いはオッズ比でそれぞれ3.84倍と4.11倍でした。 　年齢が感染の危険因子になっているという事実から調査チームは、このウイルスが猫エイズウイルス（FIV）と同様、後天的に感染し、猫同士の間で水平感染するのではないかと推測しています。気になる病原性に関しては今後さらなる調査が必要だとも。 Molecular epidemiological study of gammaherpesvirus in domestic cats in Japan
Morihiro TATENO et al., Journal of Veterinary Medical Science, Article ID: 17-0039, doi.org/10.1292/jvms.17-0039

　「ネコガンマヘルペスウイルス」（FcaGHV1, Felis catus gammaherpesvirus）は2014年、アメリカの調査班がネコ科動物の血液中に発見した新種のウイルス。感染率に関しては世界中で調査が行われており、以下のような結果になっています。

• オーストラリア（110頭）＝11.4%
• シンガポール（176頭）＝9.6%
• アメリカの複数個所（88頭）＝19.1%
• ドイツ（402頭）とオーストリア（60頭）＝16.2%
• イギリス（199頭）＝11.6%

　これまで日本国内における感染率は未知数でしたが、2008年に採取された血液サンプルを元にした今回の調査により1.3%程度であることが確認されました。世界的に見てかなり低い値ですが、なぜこのような低い感染率で止まっているのかに関してはよくわかっていません。また感染率の分布が以下のように西日本に集中している理由に関しても、今後のさらなる調査が必要だとしています。 　感染の危険因子として確認された「5歳超」と「猫エイズ感染」という項目は、過去に行われた調査結果と部分的に一致しています。例えば2015年にヨーロッパで行われた調査では、オス猫の感染リスクが13.32倍、FIV陽性が4.5倍、5.5歳以上が2.36倍と報告されていますので、やはりこのウイルスは猫エイズウイルスと同様、オス猫同士の喧嘩などを通して傷口から感染するタイプのものなのでしょう。今回の調査では「外に出る機会がある猫」だけが検査対象となりましたが、逆に「完全室内飼いの猫」だけを対象とした調査を行えば、感染率の格差がよりはっきりすると推測されます。 　ネコガンマヘルペスウイルスはかねてから悪性リンパ腫の原因になっているのではないかと懸念されていました。その根拠になっているのが、人間のエイズ患者とエプスタイン・バール・ウイルス（Epstein-Barr virus, EBV）の関係性です。EBVに感染しているエイズ患者では、免疫力の低下に伴って悪性腫瘍（ホジキンリンパ腫）の発生率が高くなるとされています。これと同様、FIV陽性の猫で確認されている悪性リンパ腫の高い発症率は、ネコガンマヘルペスウイルスが未知のメカニズムを通して引き起こしているのではないかという類推です。仮にこの仮説が正しいとすると、「これまで主犯と考えられてきた猫白血病ウイルスが、必ずしもリンパ腫の原因になっていないケースがある」（→出典）という謎も部分的に説明されます。
　ネコガンマヘルペスウイルスの病原性に関してはまだまだ未知の部分が多く残されています。だだ「猫エイズ感染」という危険因子はかなり信憑性が高いと考えられますので、無責任な放し飼いを止めるなど、適切な飼育を行っていれば感染の確率を下げることができるでしょう。 猫エイズウイルス感染症 猫の悪性リンパ腫