トップ2018年・猫ニュース一覧6月の猫ニュース6月14日

猫のキャリートレーニングは病院への移動と診察ストレスを軽減する

 動物病院に行く前に猫をキャリーでの移動に慣らせておくと、ストレスレベルが低くなると同時に診察時間が短くて済むことが明らかになりました(2018.6.14/オーストリア)。

詳細

 調査を行ったのはウィーン獣医療大学が中心となったチーム。22頭の猫(オス猫13+メス猫9 | すべて不妊手術 | 平均年齢2.7歳 | 平均体重4kg | 1頭を除いてすべて短毛種)を対象とし「統一された実験室内→10分間車に乗る→動物病院を模した場所で擬似的な健康診断を受ける→車に乗って実験室に帰る」というイベント中、ストレスレベルがどのように変化するかをモニタリングしました。
 猫たちを11頭ずつ2つのグループに分け、一方を何の訓練も行わない「対照グループ」、他方を6週間合計28セッションのキャリートレーニングを行う「訓練グループ」とに分けて比較観察を行ったところ、訪問1回目と2回目のストレスレベルに関し以下のような格差が見られたと言います。
CSS
 CSS(キャットストレススコア)とは猫の表情や姿勢などからストレスレベルを推し量るための指標。数値が高いほどストレスが高いと判断される。訓練グループの方が2回目の訪問時に大きな減少が見られた。
  • 訓練:-0.60 ± 0.37
  • 対照:-0.23 ± 0.25
おやつを求める行動
 車の後部座席にキャリーを安置し、猫がどの程度横にいる人間におやつを求めたか(リラックスしているほど求めるようになる)。訓練グループのほうが時間が伸びた。
  • 訓練:+33 ± 24秒
  • 対照:+6 ± 7秒
口元を舐めるしぐさ
 車の後部座席にキャリーを安置している間、猫がどの程度舌を出して口元をなめたか(今回の調査では舐める回数が多いほど食べ物への執着が強いとみなされた)。訓練グループのほうが回数が増えた。
  • 訓練:+18回
  • 対照:+0回
姿勢の変化
 車の後部座席にキャリーを安置している間、猫がどの程度自発的に姿勢を変えたか(今回の調査では動く回数が探索行動の強さとみなされた)。訓練グループのほうが回数が増えた。
  • 訓練:+13回
  • 対照:+1回
座る
 車の後部座席にキャリーを安置している間、猫がどの程度座っていたか。訓練グループのほうが時間が伸びた。
  • 訓練:+233 ± 146秒
  • 対照:-4 ± 35秒
診察に要した時間
 模擬動物病院で行われた診察にかかったトータルの時間。具体的な手順はまぶたを下げて結膜の色を見る、上唇をめくって口の粘膜を見る、歯茎を押してキャピラリタイムを測る、耳の中を見る、心臓の聴診、呼吸音の聴診、大腿動脈の触診、腹部の触診、直腸温の計測。訓練グループのほうが短くなった。
  • 訓練:-42 ± 31秒
  • 対照:-12 ± 24秒
鼓膜温度
 ネガティブな感情を反映しやすい右耳の温度上昇に関し、訓練グループの方が移動後の上昇幅が小さかった。
 こうした結果から調査チームは全米猫医療協会(AAFP)などが主観的な評価や経験則を元に推奨しているハンドリングガイドライン(P20)に、客観的なデータによる裏付けが加わったとしています。また飼い主は猫たちのストレスレベルを下げて動物病院における診察をスムーズにするため、事前に十分なキャリートレーニングを行っておくべきだと推奨しています。効果を持続させるためには、継続的に訓練しておく必要があるとも。
Carrier training cats reduces stress on transport to a veterinary practice
Pratsch, Lydia, Mohr, Natalia, Palme, Rupert, Rost, Jennifer, Troxler, Josef, Arhant, Christine, Applied Animal Behaviour science, doi.org/10.1016/j.applanim.2018.05.025

解説

 猫がストレスを抱えた状態で動物病院を受診すると、防御反応で体を固くしたり攻撃反応で病院スタッフにパンチを繰り出したりしてスムーズに診察が進みません。またストレス反応によって心拍数、血糖値、血圧といった生理学的な項目が変動し、検査の正確性が損なわれてしまいます。さらに動物病院における不愉快な経験により、以降キャリーを見ただけで逃げ出すようになる可能性もあります。猫を動物病院に連れて行く時はストレスを最小限に抑える必要があるというのは、万人の意見が一致するところでしょう。 猫を動物病院に連れて行く際はストレスを最小限に!  今回の調査では古典的条件づけやオペラント条件づけを用いた事前のトレーニングにより、「車に乗って移動する」というイベントによって猫の感じるストレスが軽減してくれる可能性が示されました。具体的に行われた訓練プロセスは以下です。猫を病院に連れて行く時、もっぱら車を用いている人は自宅でもできるでしょう。訓練に際してはごほうびを用います。与えるタイミングにコツがありますので「猫のしつけの基本」を合わせてご参照ください。 猫のしつけの基本
キャリーに慣らす
上下に分割できるペット用キャリー「Atlas
30」
  • キャリーを下半分だけにする。底の部分におやつを置き、猫が自発的に入るのを待つ
  • キャリーを上下揃えて完全な形にし、フロントドアを外しておく。中におやつを置いておき、猫が自発的に入るのを待つ
  • キャリーの中に猫が入ったらフロントドアを閉めてそこからおやつを投げ込む
  • フロントドアを閉めた状態で短時間持ち上げる
車に慣らす
  • キャリーに入った猫をエンジンをかけていない車に乗せる
  • キャリーに入った猫をエンジンをかけた状態の車に乗せる
  • キャリーに入った猫を車に乗せて実際に移動する
 猫のストレスの原因になるのは「見知らぬ環境」です。今回の実験では「車」が焦点となりましたが、動物病院までの道中に存在しているストレス源は無数にあります。例えばすれ違う見知らぬ人、嗅いだことのない排気ガスの匂い、突然のクラクション、散歩中の犬、移動時の上下動、病院の待合室に漂う消毒薬や他の動物の匂い、耳や目などを触られることなどです。猫をドライブに慣らせたのと同じ理屈で古典的条件づけやオペラント条件づけを正しく行えば、上記したような様々なストレス源に対する馴化(じゅんか)もスムーズに確立することができるでしょう。以下は役立ちそうなページです。 猫を生活用具に慣らす 猫の「正常」を知る 犬をいろいろな音に慣らす(姉妹サイトより)  なお近年は覗き窓付きのキャリーバッグなどが売られていますが、これは明らかに猫を飼ったことがない人間がデザインしたものです。中にいる猫が感じるストレスの事は全く考慮されていませんのでお気を付け下さい。