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猫にオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を与えると何がどう変わる?

 キャットフードや猫用サプリメントに含まれているDHAやEPAといったオメガ3脂肪酸。一昔前のブームから「何となく体に良さそう」とか「頭が良くなりそう」といったイメージがありますが、果たして猫に通用するのでしょうか?具体的な実証データを元に検証してみましょう!

キャットフードと多価不飽和脂肪酸

 キャットフードや猫用サプリメントの中にはラベルに「DHA」(ドコサヘキサエン酸)や「EPA」(エイコサペンタエン酸)と記載していたり、パッケージに「オメガリッチ」と記載しているものがあります。こうした商品は多くの場合、脂質の一種である「オメガ3脂肪酸」を多く含んでいます。オメガ3脂肪酸は過去に行われた調査により、猫の健康に対してプラスに働く可能性が示されていますが、一体どの程度の量をどのくらいの期間給餌すれば、猫の体に変化が現れるのかに関してはそれほどクリアに分かってるわけではありません。

オメガ脂肪酸とは?

 3大栄養素の1つである脂質は分子的な違いにより「飽和脂肪酸」や「不飽和脂肪酸」などに大別されます。不飽和脂肪酸はさらに「オメガ3脂肪酸」と「オメガ6脂肪酸」などに細分され、各項目はさらに細分されます。具体的な名称と主な原料は以下です。
多価不飽和脂肪酸の種類
  • オメガ3脂肪酸●αリノレン酸←フラックスシードオイル(亜麻仁油) | カボチャの種 | 大豆油
    ●ドコサヘキサエン酸(DHA)←海水魚油
    ●エイコサペンタエン酸(EPA)←海水魚油
  • オメガ6脂肪酸●リノール酸←ひまわり油 | 菜種油 | 大豆油 | コーンオイル | 月見草油 | 綿実油 | 米ぬか油 | ごま油 | 小麦胚芽油
    ●アラキドン酸←動物の脂肪 | 乳製品 | 卵 | 貝類 | 淡水魚 | 海水魚
    ●γリノレン酸←月見草油 | ルリヂサ油 | カシスオイル

オメガ脂肪酸の効果

 過去に猫を対象として行われた研究により、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸といった多価不飽和脂肪酸(PUFA)には、ある種の健康増進効果がある可能性が示唆されています。具体的には以下です。
猫の疾患と多価不飽和脂肪酸
  • 骨関節炎・変形性関節症
  • 腎不全
  • 血液機能
  • 皮膚炎
  • 口内炎
  • 肥満・糖尿病
  • 神経機能・視力
 こうした調査の解釈は慎重を行わなければなりません。なぜなら、不飽和脂肪酸の摂取量、給餌期間、病気の進行度、フードに含まれる他の成分の有無、DHAとEPAの含有比率、オメガ3とオメガ6の含有比率などが調査ごとにバラバラだからです。
 調査結果を左右する要因があまりにも多いため、現時点ではある特定の体調不良に対する不飽和脂肪酸の推奨摂取量はよくわかっていません。その結果、NRC(全米研究評議会)もF.E.D.I.A.F(欧州ペットフード連合)でも猫のオメガ3脂肪酸(EPA+DHA)に関する摂取推奨値および摂取上限値が決められておらず、保留状態になっています。

猫の特異体質と必須脂肪酸

 猫の体内では「デルタ-6デサチュラーゼ」と呼ばれる酵素の活性が極めて低く抑えられています。その結果、十分な量のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を自力で合成することができません。以下はEPAとDHAが生合成される経路です。猫ではほぼ欠落している太字のデルタ-6デサチュラーゼにご注目ください。
脂肪酸代謝・生合成経路
  • オメガ3脂肪酸の代謝α-リノレン酸+デルタ-6デサチュラーゼ→エイコサテトラエン酸+デルタ5デサチュラーゼ→エイコサペンタエン酸(EPA)+エロンガーゼとデサチュラーゼ→ドコサヘキサエン酸(DHA)
  • EPAからDHAの生成経路1エイコサペンタエン酸(EPA)+エロンガーゼ→ドコサペンタエン酸+デルタ4-デサチュラーゼ→ドコサヘキサエン酸(DHA)
  • EPAからDHAの生成経路2エイコサペンタエン酸(EPA)が増炭される→テトラコサペンタエン酸+デルタ6デサチュラーゼ→テトラコサヘキサエン酸+β酸化→ドコサヘキサエン酸(DHA)
  • オメガ6脂肪酸の代謝リノール酸+デルタ-6デサチュラーゼ→γ-リノレン酸→ジホモ-γ-リノレン酸+デルタ5デサチュラーゼ→アラキドン酸
 ほとんどすべての経路に太字のデルタ-6デサチュラーゼが含まれていることがおわかりいただけるでしょう。猫ではこの酵素の活性が非常に低いため、たとえ食餌からα-リノレン酸を摂取しても、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸が生成されません。またリノール酸を摂取してもアラキドン酸は生成されません。
 上記したように脂肪酸には様々な種類がありますが、猫が絶対に食餌から摂取しなければならない必須脂肪酸はリノール酸とアラキドン酸だけです。現時点ではEPAやDHAが多すぎるときに発症する過剰症や、逆に少なすぎるときに発症する欠乏症が確認されていないため、この2種類の脂肪酸に関しては成長期や妊娠・授乳期にある猫を除き、最少栄養要求量が決められていません。平たく言うと「おそらく必須脂肪酸」という中途半端な扱いです。

フードラベル記載例

 日本国内で流通しているキャットフードや猫用サプリメントの中には「DHA」(ドコサヘキサエン酸)、「EPA」(エイコサペンタエン酸)、「オメガリッチ」などと記載されているものがあります。先述したように、こうした不飽和脂肪酸はEPAとDHAの含有比率やオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の含有比率が変わると体内における生理作用が変わってしまう可能性があります。重要なのはどの程度含まれているかという点です。
 しかし、実際に流通しているキャットフードやサプリのラベルを見ると、ただ単に「魚油(DHA源)」や「オメガ脂肪酸を豊富に含有」と記載されていたり、「EPA+DHA=400mg」「オメガ3脂肪酸=0.74%」といったものが散見されます。後者の場合、オメガ3脂肪酸が少なくとも400mgや0.74%含まれていることまではわかりますが、EPAとDHAがどの程度の比率で含まれているのかがわかりません。例えば「EPA350mg+DHA50mg」という比率で含まれている場合と、「DHA350mg+EPA50mg」という比率で含まれている場合とでは、まったく違った生理作用を示す可能性が高いでしょう。なぜなら、猫の体内では必要酵素が欠落しているため、EPAからDHAへの変換がわずかしか行われないからです。 猫向けに販売されているオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)配合のキャットフードとサプリメントの  一方、療法食(※)の中には「オメガ3脂肪酸→0.30%/オメガ6脂肪酸→3.10%」のように含有量と含有比率がわかるように記載されているラベルもあります。しかしこうした含有量や比率にいったいどのような根拠があるのかに関しては、自主的によく調べない限りわからないことが大半です。またペットフード安全法上、「療法食」は医薬品とみなされていませんので、「○○効果あり」とか「○○病に効く」といった医薬品と誤解されかねない表現は使用できないことになっています。つまり消費者から見ると「オメガ3脂肪酸がある一定の比率で含まれていることは分かった。けれども一体何のために含まれているのかがさっぱりわからないし、含有量にどのような根拠があるのかもわからない」という煮え切らない感覚になるかもしれません。
療法食
 ペットフード安全法に「療法食」の定義はありません。ペットフード公正取引協議会による定義は「栄養成分の量や比率が調節され、特定の疾病又は健康状態にあるペットの栄養学的サポートを目的に、獣医療において獣医師の指導のもとで食事管理に使用されることを意図したもの」です。また一般社団法人ペットフード協会による定義は「特定の疾患や疾病などに栄養的に対応するために栄養バランスが考慮され、専門的なアドバイスや処方に従って与えることを意図したペットフード」となっています。
 いずれにしても医薬品ではありませんので、健康増進効果を実証したデータを提出する必要がない代わりに、医薬品的な効能効果をラベルに記載することはできないことになっています。

飼い主の注意・心がけ

 キャットフードに含まれる多価不飽和脂肪酸(PUFA)は諸刃の剣です。適切な量を適切な比率で摂取した場合は望ましい生理的効果が得られるかもしれませんが、過剰に摂取してしまうと時として健康を損なうことがあります。飼い主として注意すべき点は以下のようになるでしょう。
買う前にここをチェック!
  • オメガ3脂肪酸(DHAやEPA)には健康増進効果を示すような調査報告があることは確か
  • ベストな摂取量や含有比率はよくわかっていない
  • 猫が複数の体調不良を抱えている場合摂取量の計算はより難しくなる
  • オメガ3脂肪酸やそれを含む療法食はそもそも医薬品ではない
  • 「○○に効果あり」「○○病を予防する」といった表記をしている商品は薬機法違反
  • 含有量や含有比率がはっきりわからないフードやサプリにはほとんど意味がない
  • 過剰に摂取すると健康を損なう危険性がある
 キャットフードやサプリメントのラベルに含有量と含有比率が記載されている場合に限り、猫に対してどのような作用があるのかを検証できるようになります。ではどのように検証すればよいのでしょうか?以下では過去に猫を対象として行われた膨大な数の調査報告のうち、代表的なものをご紹介します。漠然と「健康そうだから」とか「どこかで聞いたことある成分だから」という理由で猫に与える前に、少し考えてみましょう。

DHAとEPAの働き・作用

 オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸を含む多価不飽和脂肪酸に関しては、犬を対象とした非常に多くの研究がなされています。以下でご紹介するのは、特に熱心に研究されているオメガ3脂肪酸(DHAやEPA)を中心とした報告の一例です。決して効果や効能を保証するものではありませんのでご注意ください。「何のために含まれているのか?」「含有量の根拠は何なのか?」を検証する時の資料として使うことを勧めします。

骨関節炎・変形性関節症

 オメガ3脂肪酸が骨関節炎や変形性関節症にもたらす影響に関しては、犬を対象として山ほど調査が行われています。一方、猫を対象とした調査は数えるほどしかありません。また脂肪酸の他にグルコサミンやコンドロイチン硫酸が同時に投与されていたり、改善の目安が飼い主による主観的評価だったりと、突っ込みどころがたくさんありますので、効果に関してはよくわかっていないというのが現状です。
 最もエビデンス(医学的証拠)としての信頼度が高いと判断された調査を1つご紹介します。2012年、ベルギーにあるURVIの調査チームは、犬、猫、馬に用いられる「ニュートラスーティカル」(nutraceutical)に関する過去の研究報告を網羅的に調べなおし、エビデンスとしての信頼度を「CONSORT」および「Center of Evidence Based Medicine of Oxford」という2つの指標に照らして総合的に評価しました(→J.‐M. Vandeweerd, 2012)。ニュートラスーティカルとは通常医療の補助として摂取する何らかの成分のことです。
 レビューの結果、猫の骨関節炎を対象として行われた調査のうち1つだけが「信頼できる」との結論に至ったと言います。最初にご紹介するノースカロライナ州立大学の調査がそれです。 猫の変形性関節症
 ノースカロライナ州立大学の調査チームは痛みを感じ動きに支障がある変形性関節症の猫を対象とした給餌試験を行いました。
 40頭の猫たちをランダムで2つのグループに分け、一方には調整フード(モエギイガイ抽出物+DHA+EPA+グルコサミン+コンドロイチン硫酸)、もう一方には比較用フードを9週間給仕した後、飼い主への聞き取り調査、獣医師による整形外科的な検査、及び速度計による活動性の分析を行いました。
 その結果、比較用フードを摂取していたグループでは活動性が有意に低下したのに対し、調整フードグループでは逆に増加したと言います。
 こうしたデータから調査チームはEPAやDHAを主体としたサプリメントを猫に給餌することで、活動性の改善につながるかもしれないとしています。ちなみに調整フード1,000kcal中に含まれていた成分はオメガ3脂肪酸は2.9g、オメガ6脂肪酸は8.03g、EPA+DHAは1.88gです。 Evaluation of a Therapeutic Diet for Feline Degenerative Joint Disease
B.D.X. Lascelles, V. DePuy, Journal of Veterinary Internal Medicine Volume 24, Issue 3, doi.org/10.1111/j.1939-1676.2010.0495.x
 オランダにあるユトレヒト大学の調査チームは自然発生した骨関節炎を抱えた16頭の猫を対象とした給餌試験を行いました。
 魚油由来のオメガ3脂肪酸(EPA1.53g+DHA0.31g/1,000kcal)を豊富に含んだフードと、オメガ3脂肪酸を全く含まないコーン油主体のフードを用意し、それぞれのフードに10週間の給餌期間を設けました。
 オーナーに対する聞き取り調査で症状に関する主観的な評価をしてもらったところ、魚油の給餌期間中はコーン油の期間中に比べ、活動性が高く、階段の上下動がスムーズで、歩行中のたどたどしい歩き方が減少し、飼い主との交流機会と、ジャンプの頻度が増加したといいます。 The effect of dietary long‐chain omega‐3 fatty acid supplementation on owner’s perception of behaviour and locomotion in cats with naturally occurring osteoarthritis
R. J. Corbee, M. M. C. Barnier, Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition Volume 97, Issue 5, doi.org/10.1111/j.1439-0396.2012.01329.x

皮膚炎

 犬においてはアトピー性皮膚炎をターゲットとした調査がたくさん行われていますが、猫においてはありません。その代わり粟粒性(ぞくりゅうせい)皮膚炎をターゲットとした調査がいくつか行われています。粟粒性皮膚炎とは皮膚にツブツブの炎症部分がたくさん発生した状態のことで、アレルギーや感染症が原因と考えられています。ちょうどニキビを潰したような状態です。重症化するとツブツブがつながり、かさぶたのようになります。
 オメガ3脂肪酸でもオメガ6脂肪酸でも炎症症状が軽減したと報告されていますが、理論上抗炎症作用を持つのはオメガ3脂肪酸の方です。含有比率に関してはよくわかっていないものの、オメガ6:オメガ3を5:1に調整した時に効果が見られたとの報告があります。
 イギリス・コヴェントリーにある皮膚科専門医が粟粒性皮膚炎を抱えた猫をランダムで2つのグループに分け、一方には月見草オイル、もう一方にはヒマワリ油を含んだフードを12週間にわたって給餌しました(ともにオメガ6脂肪酸源)。
 3週間に1度のペースで臨床スコアを計測すると同時に血液検査を行ったところ、給餌試験中どちらのグループでも症状の改善が見られたと言います。また月見草オイルのグループでは赤血球膜リン脂質のリノール酸濃度が高まったとも。さらに餌試験終了後6週間の経過観察を行ったところ、月見草オイルグループでは症状の悪化度合いが軽度だったとのこと。 A comparison of evening primrose oil and sunflower oil for the management of papulocrustous dermatitis in cats
Harvey RG, The Veterinary Record
 ポーランドにあるワルシャワ大学の調査チームは、粟粒性皮膚炎を抱えた猫を対象とし、オメガ3脂肪酸が臨床症状をどのように変化させるのかを検証しました。
 調査対象となったのは22頭の猫たち(3~7歳)。試験に先立ち、牛肉ベースのフードを6ヶ月間給餌した後、「臨床上健康な猫×5頭」「臨床上健康な猫+1mlの調整油6週間×5頭」「皮膚炎はあるものの掻痒症状を示していない猫×7頭」「皮膚炎はあるものの掻痒症状を示していない猫+1mlの調整油6週間×5頭」という4つのグループに分割しました。
 2週間に1度のペースで健康診断と血清検査を行った結果、調整油を給餌されていた皮膚炎猫のうち3頭の症状が完全に消えたといいます。また調整油を給餌されていなかった皮膚炎猫の血液を調べた所、コレステロール・HDL:トリアシルグリセロールの比率が調整油を給餌されている皮膚炎の猫の逆になったとも。さらに調整油を給餌されているグループでは飽和脂肪酸のうちパルミチン酸の濃度が低下し、不飽和脂肪酸のうちリノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸の濃度が高まるというの特徴も確認されました。統計的に有意とは判断されなかったものの、オメガ6脂肪酸であるアラキドン酸は上昇傾向を示し、同じくオメガ6脂肪酸であるジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)は減少傾向を示しました。
 こうした結果から調査チームは、オメガ3脂肪酸による抗炎症作用は、血清学的検査でも臨床検査でも確認されたとしています。 The Effect of the Addition of Oil Preparation with Increased Content of n‐3 Fatty Acids on Serum Lipid Profile and Clinical Condition of Cats with Miliary Dermatitis
R. Lechowski, E. Sawosz, W. Klucinskl, Journal of Veterinary Medicine Series A Volume 45, Issue 1‐10, doi.org/10.1111/j.1439-0442.1998.tb00844.x
 ワシントン州立大学の調査チームは14頭のメスの成猫を対象とした12週間に及ぶ給餌試験を行いました。フードに含まれるオメガ6:オメガ3の含有率は以下です。
  • 対照→オメガ6:3=20:1
  • 魚油→オメガ6:3=5:1
  • フラックスシードオイル→オメガ6:3=5:1
 給餌前、6週間後、12週間後のタイミングで免疫反応を、そして6週間後、12週間後のタイミングで皮膚の過敏反応を調べた所、以下のような変化が見られたと言います。
  • 魚油はEPAとDHAの血漿濃度と皮膚濃度を高めた
  • 魚油ではロイコトリエンB5(エイコノサイドの一種)が増えたもののロイコトリエンB4は不変だった
  • フラックスシードオイルはα-リノレン酸濃度を高めた
  • 魚油とフラックスシードオイルはヒスタミンに対する皮膚の炎症反応を低下させた
  • 魚油とフラックスシードオイルはBリンパ球、総Tリンパ球、PWMによる白血球の増殖反応を低下させた
 こうした結果から調査チームは、魚油とフラックスシードオイルは皮膚の炎症反応を軽減する効果があるが、魚油の方はフラックスシードオイルに比べて免疫抑制能力が高いのではないかと指摘しています。 Dietary fish oil and flaxseed oil suppress inflammation and immunity in cats
Park HJ1, Park JS, et al., Vet Immunol Immunopathol. 2011 Jun 15;141(3-4):301-6. DOI: 10.1016/j.vetimm.2011.02.024

肥満・糖尿病

 標準体型の猫と肥満体型の猫においては、体内におけるホルモンの分泌様式がオメガ3脂肪酸を介して微妙に変わるようです。例えば肥満体型の猫では、血中のEPA濃度がアディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるホルモンの1種で、細胞内への糖の取り込みを促進したり脂肪酸の動員を促進する)の減少やインシュリンおよびトリグリセライド濃度の増加を軽減する作用があるかもしれないと示唆されています。また肥満猫がオメガ3を豊富に含むフードを食べている場合、長期的なグルコース制御および血漿インシュリン濃度の低下が起こる可能性も指摘されています。
 オメガ3脂肪酸がアディポネクチンやインシュリンといったホルモンを介して肥満糖尿病といった生活習慣病の発症予防に関わっているのかもしれません。ちなみに日本国内で流通している特定保健用食品の中には、DHAおよびEPAを関与成分として「中性脂肪が気になる方に適する」という保健用途の表示が許可されているものがあります。 猫の肥満 猫の糖尿病
 ミシガン州立大学の調査チームは、血清オメガ3脂肪酸の濃度と血液中のその他の成分(ホルモン・血糖・コレステロールなど)との相関関係を検証しました。
 対象となったのは56頭の臨床上健康な猫。全頭から血液サンプルを採取し、中に含まれるアディポネクチン、レプチン、インシュリン、グルコース、トリグリセライド、コレステロールを分析しました。猫たちを体型から標準グループ(BCS4~6)34頭とグループ(BCS7と8)21頭とに分けて相関関係を調べた所、BCSとEPA濃度との間に相関関係が見られたといいます。
 標準体型の猫においては、EPA濃度とレプチンとの間に正の相関関係、アディポネクチンとの間に負の相関関係がありました。それに対し肥満体型の猫においては、EPA濃度とアディポネクチンとの間に正の相関関係、インシュリンおよびトリグリセライドとの間に負の相関関係が確認されました。どちらのグループにおいても、ドコサヘキサエン酸やαリノレン酸と関係している項目はなかったといいます。
 オス猫に比べてメス猫ではアディポネクチン濃度が高く、グルコース濃度が低い傾向を見せました。また年齢が高まるほどレプチンの血清濃度が小幅な上昇を見せました。
 こうしたデータから調査チームは、肥満体型の猫においてEPA濃度は、アディポネクチンの減少やインシュリンおよびトリグリセライド濃度の増加を軽減する作用があるかもしれないと推測しています。 Effect of omega-3 fatty acids on serum concentrations of adipokines in healthy cats
Michal Mazaki-Tovi, DVM; Sarah K. Abood, American Journal of Veterinary Research September 2011, Vol. 72, doi.org/10.2460/ajvr.72.9.1259
 2004年、アメリカにあるジョージア大学の調査チームは不妊手術済の成猫28頭を対象とし、脂肪酸を豊富に含んだフードがインスリン感受性や血漿インスリン濃度、血漿脂質濃度にどのような影響を与えるかを検証しました。
 14頭にはオメガ3脂肪酸を豊富に含んだフード、残りの14頭には飽和脂肪酸を豊富に含んだフードを自由摂食させて21週間に及ぶモニタリングを行った所、どちらのグループでも体重、体積、胴回り、脂肪率の増加が観察されたと言います。また細胞内外における脂質濃度の上昇も確認されました。逆にどちらのグループでも不変だったのは、ベースラインの血漿グルコースとインシュリン濃度、およびグルコースのAUCでした。
 グループ間で違いが見られたのはインシュリンのAUCで、オメガ3グループでは不変だったのに対し、飽和脂肪酸を自由摂食して肥満に陥ったグループでは高値を示したとのこと。また飽和脂肪酸を給餌されて肥満になった猫では、オメガ3を給餌されて肥満になった猫と比べ、グリコシル化したヘモグロビン濃度が高いという特徴も観察されました。
 こうした結果から調査チームは、肥満猫がオメガ3を豊富に含むフードを食べている場合、長期的なグルコース制御および血漿インシュリン濃度の低下が起こると推測しています。肥満によって細胞内外の脂質濃度が変化し、インシュリン感受性が変化したのではないかと考えられています。 Assessment of the influence of fatty acids on indices of insulin sensitivity and myocellular lipid content by use of magnetic resonance spectroscopy in cats
Wilkins C, Long RC Jr et al., Am J Vet Res. 2004 Aug;65(8)

神経機能・視力

 人間を含む霊長類、犬、猫においては、成長期におけるオメガ3脂肪酸が脳細胞や網膜の発達に重大な影響を及ぼすことが確認されています。また、猫が間違ってアルコールを摂取してしまうと脳と網膜におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量が低下してしまい、ちょうどアルコール中毒患者のように神経細胞が死滅してしまうことも確認されています。さらに老猫に魚油を給餌すると、認知能力の低下を予防できる可能性も示唆されていますので、「DHAを摂取すると頭が良くなる!」という風説も一概に馬鹿にはできません。 猫の認知症
 ネスレピュリナの調査チームは老境にさしかかった猫を対象とし、認知能力の低下を予防する可能性がある各種の物質を用いた給餌試験を行いました。
 対象となったのは5.5~8.7歳の猫。認知能力にばらつきが出ないよう2つのグループに分け、一方には通常のフード、もう一方には通常のフード+添加物ブレンド(抗酸化物質+アルギニン+ビタミンB群+魚油)を加えて給餌しました。
 給餌試験後、両方のグループで4種類の認知能力テストを行ったところ、添加物ブレンドを給餌されていた猫たちにおいては自己中心的学習能力、分別と逆向き学習能力、空間的な記憶能力の3種において、通常フードグループよりも良い成績を収めたといいます。
 こうしたデータから調査チームは、添加物ブレンドが何らかの形で脳細胞に働きかけ、認知能力の低下予防につながるかもしれないと指摘しています。 Cognitive enhancement in middle-aged and old cats with dietary supplementation with a nutrient blend containing fish oil, B vitamins, antioxidants and arginine
Yuanlong Pan, Joseph A. Araujo, British Journal of Nutrition Volume 110, Issue1, doi.org/10.1017/S0007114512004771
 アメリカの国立アルコール中毒・乱用研究所の調査チームは、妊娠中の母猫と産まれてきた子猫を対象とし、油の組成が違う6種類のフードが発達に及ぼす影響力を検証しました。
 チームはまず、メス猫に対し交尾の前1ヶ月間、妊娠期間中、授乳期に同じ食事を給餌しました。フードの内容は4種類がコーン油とココナツ油をさまざまな比率で含んだフード、2種類はアラキドン酸(20:4n-6)とドコサヘキサエン酸(22:6n-3)を含んだフードです。
 次に調査チームは、メス猫が生んだ子猫が8週齢になったタイミングで網膜電図と脳電図を調べました。その結果、コーンとココナツ油主体のメス猫から生まれた子猫においては脳のαとβ波のインプリシットタイムが比較群より増加したといいます。また網膜にある桿体細胞層の外側と脳ではドコサヘキサエン酸が少なく、オメガ6脂肪酸が多かったとも。一方、ドコサヘキサエン酸を含んだフードを給餌されたメス猫から産まれた子猫たちでは、こうした組織内における高いドコサヘキサエン酸濃度が確認されました。コーン油グループの脳内ではドコサペンタエン酸(22:5n-6, エイコサペンタエン酸からドコサヘキサエン酸への中間体)の濃度が低かったことから、子猫の体内ではこの物質をうまく生合成できないのではないかと考えられています。
 こうした結果から調査チームは、発達中の子猫においては神経系内におけるドコサヘキサエン酸の摂取量を維持することが、網膜機能の発達につながると推論しています。 Retinal and brain accretion of long-chain polyunsaturated fatty acids in developing felines: the effects of corn oil-based maternal diets
R J Pawlosky, Y Denkins, G Ward, N Salem Jr, The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 65, Issue 2 1 February 1997, doi.org/10.1093/ajcn/65.2.465

腎不全

 慢性腎不全(ステージ2と3・高血圧・高タンパク尿なし)を自然発症した猫を対象とした回顧的調査では、慢性腎不全向け療法食が尿毒症の発症頻度を軽減し生存期間を伸ばす可能性が示されています。通常フードを給餌されていた23頭のうち、尿毒症が6ケース(26.1%)、腎不全に関連した死が5ケース(21.7%)だったのに対し、腎不全用療法食を給餌されていた22頭では両方ともゼロだったとのこと。療法食に含まれていたどの成分が猫の臨床症状に影響したのかははっきりとは分かっていませんが、オメガ3脂肪酸に属するエイコサペンタエン酸(EPA)の抗炎症作用が腎不全の進行を遅らせたのではないかと考えられています。 猫の慢性腎不全
 オランダにあるユトレヒト大学の調査チームは、1999年から2003年の期間、国内31の動物病院を受診した猫88,037頭の電子医療記録を後ろ向きに調査し、慢性腎不全と診断された8歳以上の猫の生存期間と食事内容との関係性を検証しました。
 その結果、通常のキャットフードを食べていた175頭の生存期間中央値が7ヶ月、獣医師によって処方された腎臓向け療法食(7種類のうちどれか)を食べていた146頭の中央値が16ヶ月と、統計的に有意な格差となって確認されたと言います。7種類の療法食のうち、生存期間が最も短かったもので12ヶ月、最も長かったもので23ヶ月でした。一方、猫の品種、年齢、性別、ACE阻害剤の使用は生存期間に影響を及ぼしていませんでした。
 最も長い生存期間が確認されたフードでは、リンの含有量が0.6g/MJで理想値(ウェットフード0.1~0.2g/MJ | ドライフード0.13~0.27g/MJ)よりもかなり多く含まれていました。また乾燥重量のベースエクセスは46で、理想値(150~350mmol/kg DM)よりもかなり下回っていました。一方、EPAは0.47g/MJ含まれており、7種類のうち、このフードだけが理想値(0.2~1.0 g/MJ)を満たしていました。
 こうした結果から調査チームは、フードに含まれていたエイコサペンタエン酸が何らかのメカニズムを通して猫の生存期間を伸ばしたのではないかと推測しています。詳細なメカニズムは不明ですが、エイコサペンタエン酸がエイコサノイドの代謝を変化させ、血管拡張性メディエーターの産生を促すと同時に、炎症促進性エイコノサイドの生成を抑えたのではないかと考えられています。 Retrospective study of the survival of cats with acquired chronic renal insufficiency offered different commercial diets
Esther Plantinga, H.Everts, The Veterinary record September 2005, DOI: 10.1136/vr.157.7.185

血液機能

 オメガ3脂肪酸が血液にもたらす影響のうち最も重要となるのは、血小板機能を介した血の止まりやすさです。2ヶ月間の給餌試験では変化はなかったと報告されている一方、4ヶ月間の給餌試験では血が止まりにくくなったと報告されています。オメガ3脂肪酸による悪影響は比較的少ないとされていますが、あまりにも大量に摂取すると、血が止まりにくくなる危険性がある点は覚えておいたほうがよいでしょう。
 ちなみに、猫においては高コレステロール血症やアテローム硬化症を発症しにくいとされていますので、人間界における善玉コレステロール(HDL)や悪玉コレステロール(LDL)といった概念はありません。
 テネシー大学獣医学部のチームは8頭の臨床上健康な猫を対象とし、オメガ3脂肪酸が血小板の機能にどのような影響を及ぼすかを検証しました。
 EPAとDHAを豊富に含んだフードを2ヶ月間にわたって給餌し、2週間に1度のペースで粘膜における流血時間を測定すると同時に、実験室内で血小板凝集能を測定しました。
 その結果、給餌試験前と後で血漿中のEPAとDHAの濃度が高まったものの、血小板の機能自体に変化は見られなかったと言います。他の動物においてはEPAとDHAがエイコサノイドの代謝に影響を及ぼし抗血栓作用を示すとされていますが、少なくとも2ヶ月という短期的な給餌では猫の体内で同様の変化が確認されませんでした。 The Effects of n‐3 Fatty Acid Supplementation on Bleeding Time, Plasma Fatty Acid Composition, and In Vitro Platelet Aggregation in Cats
Janice M. Bright, Patrick S. Sullivan, Journal of Veterinary Internal Medicine Volume 8, Issue 4, doi.org/10.1111/j.1939-1676.1994.tb03227.x
 アメリカにあるバージニア=メアリーランド・カレッジ・オブ・ベタリナリー・メディスンの調査チームは12頭の成猫(去勢オス6頭+避妊メス6頭)を対象とし、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の含有比率をさまざまに調節したときの血液への影響を検証しました。具体的には以下です。脂肪酸の主な原料としては、オメガ6脂肪酸にはコーンオイル、比較対照には精選白脂、オメガ3脂肪酸にはメンハーデン(魚の一種)が用いられました。
  • オメガ6脂肪酸豊富→オメガ6:3=25:1
  • 比較対照→オメガ6:3=12:1
  • オメガ3脂肪酸豊富→オメガ6:3=1.3:1
 給餌前、56日後(8週後)、112日後(16週後)のタイミングで猫たちから血液を採取し、血小板凝集能やフィブリノーゲン濃度を分析した所、16週が終わった時点における血液凝固時間に関して以下のような格差が見られたと言います。
  • オメガ6脂肪酸豊富→3.2分
  • 比較対照→3.2分
  • オメガ3脂肪酸豊富→6.1分
 APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)やOSPT(プロトロンビン時間)にグループ格差が見られなかったことから、血が止まりにくかったオメガ3脂肪酸群における凝集カスケード反応が障害されたわけではないことが示唆されました。想定されている原因は、オメガ6脂肪酸レベルが下がるに連れ血小板の細胞膜に取り込まれるアラキドン酸の量が減る→連動する形で凝集促進作用を持つトロンボキサンAの量が減る→結果として血小板の凝集能力が目減りして血液が止まりにくくなるというものです。 Manipulation of Dietary (n-6) and (n-3) Fatty Acids Alters Platelet Function in Cats
Korinn E. Saker, Alison L. Eddy, J. Nutr 128(1998), DOI: 10.1093/jn/128.12.2645S
 オランダにあるユトレヒト大学の調査チームは魚油とひまわり油を給餌した時、猫の血漿コレステロールエステルがどのような影響を受けるかを検証しました。
 対象となったのは6頭の臨床上健康な猫。粗脂肪を18.5%含むキャットフードを用意し、そのうち2/3に含まれる油の成分を調整して「魚油フード」「ひまわり油フード」を作りました。それぞれのフードに4週間の給餌期間を設けた後、血液サンプルを採取して血漿コレステロールエステルやリポ蛋白濃度を分析したところ、魚油を給餌された後においてはEPA、アラキドン酸、αリノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸濃度が有意に上昇したといいます。一方、ひまわり油を給餌された後においてはリノール酸の含有濃度が減少傾向を示しました。またどちらのグループでも総コレステロール、HDL、リン脂質、トリグリセライドに違いは見られなかったとも。 The influence of dietary fish oil vs. sunflower oil on the fatty acid composition of plasma cholesteryl‐esters in healthy, adult cats
E. A. Plantinga, A. C. Beynen, Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition Volume 87, Issue 11‐12, doi.org/10.1046/j.1439-0396.2003.00445.x

口内炎

 オメガ3脂肪酸がもつ抗炎症作用を期待して、猫で頻繁に見られる口内炎に対する影響が検証されました。血液学的には変化が見られたものの、臨床的には明確な改善が見られなかったため、含有比率や含有量を変えたさらなる調査が必要でしょう。 猫の口内炎
 オランダにあるユトレヒト大学の調査チームは、潰瘍性口内炎の治療として抜歯術を受けた猫を対象とし、多価不飽和脂肪酸が持つ抗炎症作用と創傷治癒作用を検証しました。
 猫たちをランダムで2つのグループに分け、7頭にはオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の含有比率が40:1のフード、もう一方には10:1のフードを4週間にわたって給餌し、試験の前後で血液成分を分析しました。
 その結果、オメガ3脂肪酸を高濃度で含んでいたグループ(10:1)においては、炎症性サイトカインであるプロスタグランジン2、プロスタグランジンE2、ロイコトリエンB4の濃度が有意に低かったと言います。しかし猫たちの口内で発生している炎症の度合いや創傷の治癒に違いは見られなかったとも。 Inflammation and wound healing in cats with chronic gingivitis/stomatitis after extraction of all premolars and molars were not affected by feeding of two diets with different omega‐6/omega‐3 polyunsaturated fatty acid ratios
R. J. Corbee, H. E. Booij‐Vrieling et al., Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition Volume 96, Issue 4, doi.org/10.1111/j.1439-0396.2011.01195.x

オメガ脂肪酸はなぜ重要?

 以下はオメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸に関する基本事項です。これらの多価不飽和脂肪酸が動物の体内でどのような振る舞いをするかについて簡単に説明します。

動物はω3を生成できない

 多価不飽和脂肪酸は動物の体内で代謝されて重要な生物活性物質に変換されます。しかし問題なのは、動物はパルミチン酸までの脂肪酸を合成できるものの、他の系列に属する脂肪酸(ステアリン酸やオレイン酸など)からリノール酸やαリノレン酸を合成できないという点です。その結果、これらの多価不飽和脂肪酸は食事という形で摂取しなければならない脂肪酸、すなわち必須脂肪酸に位置づけられるようになりました。 多価不飽和脂肪酸を豊富に含むのは植物油と魚油  例えばオメガ6脂肪酸はひまわり油、菜種油、大豆油、コーンオイル、月見草油など植物由来の油に豊富に含まれています。これは植物がオレイン酸からリノール酸を合成できるからです。またオメガ3脂肪酸は魚油に豊富に含まれています。これは海の中に生息している海藻類がαリノレン酸からオメガ3脂肪酸を生成し、食物連鎖を通じて海産魚の体内にEPAとDHAが蓄積されるからです。

重要なのはエイコサノイド

 多価不飽和脂肪酸が特に重要とされる理由は「エイコサノイド」(eicosanoid)と呼ばれる生理活性物質に変換されるからです。エイコサノイドとはγリノレン酸、エイコサペンタエン酸、アラキドン酸が酸化されて生成される成分で、具体的にはプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどが含まれます。
 生成されたエイコサノイドは一様ではなく、原料となった脂肪酸の種類や細胞膜におけるシクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼといった酵素活性によって生理作用が大きく変わります。
 例えば以下は、細胞膜のリン脂質に最も多く含まれるアラキドン酸(AA)を原料として生成されるエイコサノイドの例です。
アラキドン酸由来エイコノサイド
  • AA+シクロオキシゲナーゼ●生成エイコノサイド=プロスタグランジンE2
    ✓サイトカイン産生↓
    ✓リンパ球増殖能↓
    ✓ナチュラルキラー細胞活性↓
    ✓抗体産生↓
  • AA+リポキシゲナーゼ●生成エイコノサイド=ロイコトリエンB4
    ✓リンパ球増殖↓もしくは↑
    ✓ナチュラルキラー細胞活性↑
    ●生成エイコノサイド=15HETE
    ✓リンパ球増殖↓
    ●生成エイコノサイド=リポキシン
    ✓ナチュラルキラー細胞活性↓

オメガ3脂肪酸の抗炎症作用

 アラキドン酸を基にして生成された4種類のロイコトリエン(B4、C4、D4、E4)と1種類のプロスタグランジン(E2)は、最も中心的な炎症促進剤です。これらのエイコサノイドは細胞膜にシクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼを豊富に含んでいる免疫細胞の一種マクロファージで最も活発に生成されます。 【参考画像】Bacteria vs. Macrophage/YouTube 顕微鏡下で見たマクロファージ  オメガ3脂肪酸を豊富に含む魚油やγリノレン酸を豊富に含む植物油には、上記した炎症反応を軽減する効果があるといいます。理由の1つは、オメガ3脂肪酸が細胞膜に含まれることによりアラキドン酸の含有比率が低下するからです。その結果、細胞膜に含まれる酵素とアラキドン酸が結合する割合が低下し、炎症性エイコサノイドの生成が抑えられます。またエイコサペンタエン酸とシクロオキシゲナーゼが反応して生成されたロイコトリエンB5や15HETEが、アラキドン酸由来のロイコトリエンB4の生成を阻害することも抗炎症作用の一因と考えられています。
 皮膚炎や関節炎など、炎症性疾患に対してオメガ3脂肪酸が効果的であると言われる理由はここにあります。

DHAに特有の作用

 オメガ3脂肪酸の代表格はエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)ですが、DHAにだけ見られる特徴があります。それは脳内と網膜に豊富であるという点です。
 DHAが占める割合は、脳内に存在している多価不飽和脂肪酸(PUFA)のうち40%、網膜に存在しているPUFAのうち60%と他の脂肪酸を圧倒しています。また、神経細胞の細胞膜のうち5%はDHAで構成されているとの推計もあります。
 主な働きは、塩素、グリシン、タウリンの輸送、カリウムチャンネルの調整、光受容器に存在するロドプシンの機能調整などです。こうした機能を持っていることから、DHAが不足すると認知能力が低下したり細胞死が促進されたりします。近年ではうつ病を発症した患者の脳内においてDHA含有量が低下するといった報告もあります。
 しかし理論上の作用とは裏腹に、人間を対象とした調査ではDHAの摂取によって言語能力、認識能力、精神症状に変化は見られなかったという報告が多数存在しています。理屈の上では脳の正常な機能に必要な成分のはずですが、医学的に実証されているというわけではありません。「DHAで頭が良くなる!」というのは誇大広告になりますので過剰摂取には注意が必要です。