トップ2019年・猫ニュース一覧5月の猫ニュース5月29日

猫回虫の虫卵は土壌だけでなく猫の被毛からも移る

 治ったはずなのに急にぶり返して飼い主を驚かせる猫回虫症。どこから虫卵をもらったのか分からない時は、猫の被毛を疑ってみましょう。

野良猫の被毛と虫卵保有率

 調査を行ったのはフェルドウスィー大学獣医学部のチーム。イラン第二の都市マシュハドに暮らしている野良猫を対象とし、寄生虫症の代表格「猫回虫症」の感染率を調査しました。
猫回虫症
トキソカラ属の回虫によって引き起こされる寄生虫症の一種。「猫回虫」(Toxocara cati)が猫に感染して発症した場合は「猫回虫症」、人間に感染して発症してしまった場合は「トキソカラ症」と呼ばれる。猫の回虫症
 合計167頭(オス猫65+メス猫102)の猫を捕獲して調べたところ、糞便中からは11.9%、毛(肛門周辺~しっぽの下面)からは10.8%の確率で虫卵が見つかったと言います。また猫の年齢を「子猫」(生後6ヶ月齢未満)、「若齢猫」(生後6ヶ月から1年未満)、「成猫」(1歳以上)の3つに区分して感染率を比較したところ、特に「子猫」 において被毛に虫卵を抱えているリスクが高まるという関係性が確認されました。 猫の年齢別にみた回虫症の感染率
  • 成猫=39.0%
  • 若齢猫=6.0%
  • 子猫=55.0%
 こうした結果から調査チームは、猫回虫症は土壌だけでなく猫の被毛を通じても人間に感染しうるので気をつけなければならないと忠告しています。なお被毛1g中の虫卵数は71.2個、そのうち35.5%は分裂に備えている状態、22.2%は分裂して2~3つに分割された状態、2.3%は分裂を終えて幼虫を内包した状態と推測されています。
A survey onToxocara catieggs on the hair of stray cats: A potential risk factor for human toxocariasis in Northeastern Iran
Bakhshani A, Maleki M, Haghparast A, Parande Shirvan S,Borji H, ,Comparative Immunology, Microbiologyand Infectious Diseases(2019), https://doi.org/10.1016/j.cimid.2019.02.002

猫回虫は人間にも感染する

 猫回虫症は人間にも感染しうる人獣共通感染症の一つです。人間に感染した場合は腹部や眼球などに移動し幼虫移行症を引き起こします。アメリカ疾病対策センター(CDC)は「アメリカ国内で見過ごされている寄生虫TOP5」の1つに数えていますので、「何となく調子が悪い…」という感覚を抱きつつも感染していることに気づいていない人がたくさんいると推測されています。米国内における犬猫の回虫保有率  野良猫における回虫の感染率は地域によって変動しますが高い地域では50%に達します。今回の調査では、回虫に感染した野良猫のおよそ90%の被毛に虫卵が付着している危険性が示されました。病歴のわからない野良猫を触った後でよく手を洗わないと、自分自身が感染したり他の猫に虫卵を移してしまう危険性があります。
 特に6ヶ月齢未満の子猫を拾って育てるときは、完全に駆虫治療が終わるまで、先住猫に接触させないよう隔離しておく必要があるでしょう。 子猫の育て方・実践編

回虫卵は土壌からも感染する

 猫回虫症の虫卵は、お腹に虫を抱えた猫の糞便を通じて土壌に拡散されます。排泄物で汚染された土壌の上を歩いたり座ったりすると、足の裏や体の表面に虫卵が付着し、グルーミングなどを通じて消化管の中に簡単に侵入してしまいます。  猫を外に出していると簡単に感染してしまいますので責任ある完全室内飼いが望まれます。近年行われた調査では、完全室内飼いの猫と比較し放し飼いにされている猫においては寄生虫症を含む病原体に感染してしまうリスクが2.77倍に高まるとのこと。回虫症に関しては3.63~8.51倍と推計されています。
 知識が蓄積し、屋外のリスクが明白になりつつあるこれからの時代は、猫の放し飼いをすることは健康をないがしろにするネグレクトという消極的動物虐待の一種とみなされますので要注意です。SNSで「いいね」がほしいときは、室内でのんびりしている写真をぜひ。 外に出る猫の病原体感染リスクは完全室内飼いの3倍 猫を放し飼いにしてはいけない理由