トップ2019年・猫ニュース一覧11月の猫ニュース11月11日

猫の永久歯の中で歯根吸収病変のリスクが高い歯は?

 歯の根本がピンク色に変色して少しずつ消滅していく猫の「歯根吸収病変」。30本ある永久歯のうち、いったいどの歯が崩れてなくなりやすいのでしょうか?スペインで疫学調査が行われました。

歯根吸収病変・スペイン編

 調査を行ったのはスペインにあるサラゴサ大学の獣医療チーム。猫で多いとされている歯根吸収病変が、スペイン国内で一体どの程度の有病率なのかを調べるため、大学付属の動物病院を受診した患猫たちを対象とした疫学的な検証を行いました。
歯根吸収病変
歯根吸収病変とは永久歯が解けて顎の骨に吸収されてしまう状態。病変は歯の中でセメント質とエナメル質が結合する「セメントエナメル境」(CEJ)と呼ばれる歯根部位から始まる猫の破歯細胞性吸収病巣~歯の根元がピンクに変色し、侵食されているのが見て取れる
 調査対象となったのは、腫瘍や骨折といった病因が否定された59頭の猫(メス27頭+オス32頭)。AVDC(American Veterinary Dental College)が定める推奨診断基準に則(のっと)った専門家による慎重な診察により病変部を把握していったところ、頭数ベースでは66.1%(39/59頭)、歯数ベースでは7.5%(132/1,770歯)という非常に高い割合で病変歯が見つかったといいます。また特に病変が多かった歯は以下です(※頭数ベース)。
歯根吸収好発部位
  • 左下顎第一前臼歯=35.6%(21/59)
  • 右下顎後臼歯28.8%(17/59)
  • 右下顎第一前臼歯27.1%(16/59)
  • 左下顎後臼歯27.1%(16/59)
猫の永久歯において歯根吸収病変を発症しやすいのは犬歯より後ろの下顎歯  大多数の病変歯が下顎の歯に左右対称に集中していました。また切歯(人間で言う前歯の部分)においては一本も確認されませんでした。こうした特徴から調査チームは、下顎の犬歯より後ろの歯をチェックすることが歯根吸収病変の早期発見につながるだろうとしています。
Tooth Resorption in Spanish Domestic Cats: Preliminary Data
Ana Whyte PhD ,Sara Lacasta DVM ,Jaime Whyte PhD ,Luis Vicente Monteagudo PhD ,Mar ??a Teresa Tejedor PhD, Topics in Companion Animal Medicine(2019),DOI:https://doi.org/10.1016/j.tcam.2019.100369

歯根吸収病変・飼い主にできること

 歯根吸収病変は猫において非常に高い確率で発症するとされています。過去に報告があるデータは以下です。
歯根吸収病変の割合データ
  • オランダおよびアメリカオランダ432頭中62%/アメリカ78頭中67%出典資料:Van Wessum, 1992
  • アメリカさまざまな理由で麻酔治療を行った1歳以上の145頭中48%出典資料:Lund EM, 1998
  • アメリカ265頭(合計567歯)中161頭(60.8%)出典資料:Lommer MJ, 2000

吸収病変の原因は不明

 上記したように、ほぼ2頭に1頭という高い割合で発症するようです。しかし非常にありふれた病変であるにもかかわらず、その発症要因に関しては未だによくわかっていません。
 想定されているものとしては「顎閉鎖時の機械的なストレスに起因するセメント質表面の微小破損およびそれに伴う炎症反応と破歯細胞の活性化」「局所的な歯肉炎とマスト細胞の増加」「血清ビタミンD濃度が高すぎる、もしくは逆に低すぎる」「歯垢内のバクテリアによる非炎症性の侵食」などがあります。

予見因子は「高齢」

 最も確実な予見因子としては「加齢・高齢」というものが指摘されています。今回の調査でも病変を抱えていなかった猫の年齢中央値が4.5歳だったのに対し、少なくとも一本の病変を抱えていた猫のそれが9歳で、強い関連性が見られました。また年齢層に区分けした場合、1~4歳が15.4%(6/39頭)、5~9歳が35.9%(14/39頭)、そして10~16歳が48.7%(19/39頭)という勾配を見せました。
 予見因子は必ずしも因果関係を示しているわけではありませんが、6歳を過ぎた猫においてはなるべく頻繁に口の中をチェックし特に下顎の歯に変化がないかどうかをチェックしてあげた方が良いでしょう。よく見られる症状は以下です。
歯根吸収病変・主症状
  • 食欲不振
  • 食事の拒絶
  • 食事中に口からフードが溢れる
  • 口内の痛み(くちゃくちゃ鳴らす、前足でしきりに口元をこするなど)
 なお統計的に有意とまでは判断されなかったものの、今調査では雑種の有病率が61.5%(24/39)だったのに対し純血種のそれが75.0%(15/20)でした。
過去の調査では短頭種において70%という高い有病率が報告されていますので出典資料:Girard et al.2008ペルシャエキゾチックショートヘアスコティッシュフォールドなどマズルが通常の猫よりも短い品種はより頻繁かつ丁寧なチェックが必要となるでしょう。