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猫に寄生したダニが媒介する病気・山形編~紅斑熱と新興の回帰熱に要注意

 山形県内にある動物病院を受診した猫を対象とした調査により、寄生したダニによって人間に移る危険性の高い病気が判明しました。

猫に寄生したダニと保有病原体

 調査を行ったのは山形県衛生研究所を中心としたチーム。2018年3月から7月の期間、山形県内にある22の動物病院を受診した犬89頭と猫41頭からダニを採取し、保有している病原体をDNAレベルでデータベースと照合しました。
 その結果、幼虫1匹を除き合計164匹のダニが見つかったといいます。種類は2属7種と幅広く、1頭当たりの平均保有数は1.3匹でした。月別では3月4匹、4月39匹、5月78匹、6月42匹、7月1匹と、夏季に多くなる傾向があったとのこと。
 犬猫におけるダニ保有率、およびダニにおける病原体保有率は以下です。
犬猫のダニ保有数(匹)
ダニ種犬89頭猫41頭合計
ヤマトマダニ682795
タネガタマダニ152237
シュルツェマダニ729
タヌキマダニ314
キチマダニ10010
フタトゲチマダニ707
ヤマトチマダニ202
ダニの病原体保有率(%)
ダニ種SFGRLDBRFBTBEVSFTSV
ヤマトマダニ10.57.44.200
タネガタマダニ54.10000
シュルツェマダニ44.411.1000
タヌキマダニ00000
キチマダニ00000
フタトゲチマダニ00000
ヤマトチマダニ00000
  • SFGR紅斑熱群リケッチア種:紅斑熱群とは北米大陸のロッキー山紅斑熱、地中海沿岸の地中海紅斑熱、オーストラリアのクイーンズランドダニチフス、日本の日本紅斑熱など、紅斑と発熱を主症状とする疾患の総称。紅斑熱を引き起こすリケッチアは特に紅斑熱群リケッチアと呼ばれる。例えば日本紅斑熱の原因細菌であるRickettsia japonicaなど。日本紅斑熱
  • LDBライム病ボレリア:ライム病を引き起こすスピロヘータ系細菌の総称。ヨーロッパではボレリア・ブルグドルフェリ、ボレリア・ガリニ、ボレリア・アフゼリ、ボレリア・ババリエンシスが主流。日本ではボレリア・ババリエンシス、ボレリア・ガリニ、ボレリア・ミヤモトイが知られている。ライム病
  • RFB回帰熱ボレリア:回帰熱を引き起こすスピロヘータ系細菌の総称。海外から帰国後に発症した数例を除き、過去数十年間、日本国内で回帰熱患者の報告はなかったものの、2011年以降、北海道でボレリア・ミヤモトイによる発症例が2名確認されている。回帰熱
  • TBEVダニ媒介脳炎ウイルス:ダニ媒介脳炎を引き起こすフラビウイルスの一種。流行地域により極東亜型、シベリア亜型、ヨーロッパ亜型に分類される。日本においては1993年、北海道渡島地方で最初に確認されて以降、2018年6月までに道南から道北にかけて計5症例が報告されている。ダニ媒介性脳炎
  • SFTSV重症熱性血小板減少症候群ウイルス:重症熱性血小板減少症候群を引き起こすブニヤウイルス科フレボウイルス属のウイルスで、国際ウイルス分類委員会による2018年の最新分類法では「Huaiyangshan banyangvirus」(フアイヤンシャン・バンヤンウイルス)と呼ばれる。重症熱性血小板減少症候群
Detection of tick-borne pathogens in ticks from dogs and cats in Yamagata Prefecture, Japan, 2018
Junji Seto, Shizuka Tanaka, Hiroki et al., Japanese Journal of Infectious Diseases(2020), DOI:10.7883/yoken.JJID.2020.462

紅斑熱と新興の回帰熱に要注意

 当調査ではダニ媒介脳炎ウイルスや重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスは検出されなかったものの、紅斑熱、ライム病、回帰熱に関連した病原体は存在が確認されました。これらの多くは人間にも感染しうる危険なものです。

紅斑熱群リケッチア

 紅斑熱群リケッチアはヤマトマダニ(メス成虫)10匹の体内から検出されましたが、日本紅斑熱の原因菌であるリケッチア・ジャポニカではなく、リケッチア・モナセンシス、リケッチア・ヘルベチカ、リケッチア・アジアチカでした。とはいえモナセンシスはスペインで出典資料:Jado, 2007)、ヘルベチカはスウェーデンで出典資料:Nilsson, 2006)それぞれリケッチア症を引き起こしていますので、まったく無害というわけではありません。またアジアチカは1993年に日本で発見された系統ですが出典資料:Fujita, 2006)、病原性に関しては不明な部分が多く残されていますので予断は許しません。

ライム病ボレリア

 ライム病ボレリアはヤマトマダニ7匹およびシュルツェマダニ1匹から検出されましたが、どれも病原性がないかあっても弱いボレリア・ジャポニカでした。
 一方、2012年~14年の間、北海道札幌市内にある3つの動物病院を訪れた合計314頭の犬を対象に、病原性ボレリアの血清抗体率を調査したところ、全体の10.2%に当たる32頭が陽性反応(=感染歴がある)を示したといいます。ライム病は北海道と長野県に多いとされますが、山形県は中間に位置しますので、病原性を有した「B.ガリニ」や「B.アフゼリ」などが検出されていてもおかしくはありません。 ライム病を引き起こす病原性ボレリアが札幌に潜伏

回帰熱ボレリア

 回帰熱ボレリアはヤマトマダニ(メス成虫)4匹の体内から検出され、回帰熱を引き起こすことで知られるボレリア・ミヤモトイそのものではなかったものの、遺伝的にはその新系統と近似していました。なおダニは県北部に暮らす2頭の犬から採取されましたが、犬たちに臨床症状はなかったとのこと。
 病原性を有するB.ミヤモトイに関しては健常者であってもに感染しうること、また免疫力が低下した人にあっては髄膜炎を始めとする重篤な症状に進展する危険性が示唆されています。近縁種の病原性がはっきりしないため慎重なモニタリングが必要でしょう。 東北から北海道にかけて生息している「シュルツェ・マダニ」(I. persulcatus)  従来、B.ミヤモトイを保菌しているのが主としてシュルツェマダニであること、およびこのダニが主として北海道の平野部~本州中部以北に生息していることから、日本国内では上記した地域が危険地帯と考えられてきました出典資料:国立感染症研究所)。しかし2018年に発表された最新調査によると、疑わしいものも含めたライム病患者459人中、12人の血液からB.ミヤモトイに特異的な抗原が検出されたといいます。さらにこれらの患者は従来の危険地帯を超え、北海道、東北、関東、中部、近畿、九州、沖縄と日本中に広く分散していたそうです出典資料:Sato, 2018)
 ボレリア・ミヤモトイが地域限定ではなく日本全体に蔓延している可能性がありますので、この病原体が引き起こすライム病や新興の回帰熱には今後も十分な注意が必要でしょう。

猫の飼い主としての注意点

 今回の調査では紅斑熱群リケッチアが非常に高い割合で検出されました。またライム病や回帰熱に関連したボレリアの存在も確認されました。たとえ猫が症状を示していなくても、猫の体を介して屋内に侵入したダニによる刺咬症で、人間が紅斑熱を発症する危険性は常にあります。猫が完全室内飼いなのか放し飼いなのか、それとも保護された後病院に連れてこられた野良猫をなのかまでは分かりません。しかしダニは基本的に屋外に生息していますので、外で過ごす時間が長ければ長いほど感染リスクが高まる事は間違いないでしょう。 猫を放し飼いにしてはいけない理由  猫の飼い主として注意すべきは、ダニ予防をしっかりすること、猫を放し飼いにしないこと、まめに被毛の手入れをしてダニが付着していないことを確認することなどです。
殺ダニ薬は吸血したダニを殺す薬であり、刺咬自体を予防する薬ではありません。「薬を使っているから大丈夫!」というのは盲信ですのでご注意下さい。猫の寄生虫対策・完全ガイド