猫アレルゲンを減らすキャットフードはアレルギー患者の症状を軽減できる？

　調査を行ったのはアメリカにあるWashington University School of Medicineを中心とした共同チーム。猫の主要アレルゲンである「Fel d1」に特異的な抗体を含んだキャットフードが、環境中に放出されるアレルゲン濃度や環境中にとどまる人のアレルギー症状にどのような影響を及ぼすかを検証しました。猫アレルギーに関しては取り急ぎ以下のページをご参照ください。 猫アレルギー完全ガイド 　調査に参加したのはプリックテストにより猫アレルギーと診断された11人の被験者たち。年齢は26～59歳、すべてコーカシアンでうち10名は女性です。6つの可動式チェンバー（1.8m×1.8m×2m）を用意し、中に猫が使用した毛布を入れることで、猫と暮らす飼い主の室内を再現しました。 　アレルゲンの発生源として用いられた毛布は8頭（去勢オス5頭＋避妊メス3頭）の猫たちが使用したもので、4頭には通常のフードを8週間、残りの4頭にはFel d1特異的IgY抗体を8mg/kgの割合で含むテストフードを8週間に渡って給餌しました。

　猫のアレルゲンは非常に小さく、ほこりを始め5ミクロン以下の極めて小さい粒子と結合して空気中に容易に舞い上がり、ひとたび環境中に放出されるとなかなか除去されないことが知られています。例えば過去に行われた調査では、家の中から猫を取り除いたとしても、15世帯中8世帯ではアレルゲンが猫を飼育していない家のレベルに低下するまでに20～24週間かかったと言います（:Bastien, 2019）。また仮にアレルゲンが除去されたとしても、そもそも猫を手放したくないという根強い抵抗感がアレルギー患者のジレンマになっています。
　一方、猫を手放さずにアレルゲンを減らす方法としては以下のような方法がありますが、かなり面倒くさいため長期的に継続することはそう簡単ではありません。

• カーペットをなくす
• 緩衝材を失くす
• 床に掃除機をかける
• 壁や家具を拭き掃除する
• 隙間がないマットレスや枕カバーを使用する
• 猫をお風呂に入れる
• 猫を寝室から出す
• 窓を開けたまま眠る

　今回の調査によりアレルゲン特異的な抗体を含むキャットフードを給餌することにより、猫の体から環境中に放出されるアレルゲンの濃度が低下し、結果として猫アレルギー患者の症状が軽減してくれる可能性が示されました。生物学的な意味が解明されていないFel d1を猫の体内から完全に除去することなく、手間暇かけずにアレルゲンを減らすことができることから、今までにない画期的なアプローチ法ではないかと期待されています。猫アレルギーの主要アレルゲン「Fel d 1」を減らす効果を持ったキャットフードが登場 　上のリンクで詳説してある先行調査では、キャットフードの給餌によって猫が体から発するアレルゲン量が減少することが確認されています。解析対象を環境とアレルギー患者にまで広げた今回の調査結果をポジティブに解釈することもできますが、チェンバー内の具体的なアレルゲン濃度がなぜか数字で示されていない、ベースラインテストが盲検化されていない（後続試験におけるプラセボの可能性を排除できない）、対照フードよりテストフードによって逆に悪化した項目がある、調査班にネスレの社員が入っている（企業バイアス）などの欠点もありますので、今後のさらなる調査が待たれます。ちなみに現在、可動式のチェンバーではなく実際に猫を飼っている人の家を実験場所とした調査が進行中とのこと。