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猫のレプトスピラ症・沖縄編~中間宿主として人獣共通感染症を媒介している可能性あり

 レプトスピラ症のエンデミックエリアとして知られる沖縄県において、屋外で捕獲された猫たちを対象とした疫学調査を行ったところ、感染率が16%を超えることが明らかになりました。

レプトスピラ症とは?

 レプトスピラ(Leptospira)はスピロヘータ目レプトスピラ科に属するグラム陰性細菌の総称。64の種と24の血清グループをもち、300以上の血清型に細分されます。 病原性レプトスピラ(Leptospira interrogans)の電子顕微鏡画像  病原性レプトスピラ(スピロ ヘータ)は宿主となる哺乳動物の近位尿細管に特異的に生息し、尿の中に紛れ込んで外界に広がります。中間宿主となるのはネズミ、イノシシ、ウシ、ブタ、イヌなどです。人間においては宿主動物の尿および尿によって汚染された土壌や水を介して経皮的もしくは経粘膜的に感染します。 レプトスピラ症~症状・原因から治療・予防法まで 世界におけるレプトスピラ症の好発地域一覧図  レプトスピラ症は熱帯~亜熱帯の国々で流行が確認されており、日本においては亜熱帯の沖縄がエンデミックエリア(感染症が時間的・空間的に一定地域に限定して流行すること)になっています。感染が確認されているのはラット、マウス、イタチ、マングース、野生のイノシシ、イヌなどの哺乳動物です。

沖縄県の外猫とレプトスピラ

 病原性レプトスピラが動物に感染した場合の症状は多飲多尿、血尿、腹水、下痢などですが、猫ではめったに重症化しないことから獣医療の分野においてはそれほど重要視されていません。しかし1990年、沖縄県動物管理センター(当時)に収容された200頭を超える猫を対象とした調査では血清陽性率が3.1%と報告されていることから、中間宿主として病原菌を伝播している可能性が今もなお懸念されています出典資料:Yonahara, 1990)レプトスピラに対する猫の抗体陽性率(1990年・沖縄)  今回の報告を行ったのは沖縄県衛生環境研究所の調査チーム。2012年6月から2018年11月の期間、沖縄県動物愛護管理センターに収容された猫から血清121サンプルと尿42サンプルを採取し、抗体価検査とPCR検査を通じてレプトスピラの感染歴を調べました。また2016年から2018年の期間、沖縄県北部においてTNRのため一時的に捕獲された猫たち120頭を対象として血清陽性率を調べました。
 その結果、病原性レプトスピラの一種 「Leptospira borgpetersenii」に対する血清抗体が16.6%(40/241)から検出され、そのうち92.5%(37/40)までもが「Javanica」という単一の血清グループに集中していたといいます。また尿サンプルを対象としたPCR検査の結果、flaB遺伝子が7.1%(3/42)から検出され、塩基配列がL. borgpeterseniiと一致していたとも。
 陽性率に性差(オス19.3% | メス13.9%)や地域差(北部15.0% | 中央部22.0% | 南部18.5%)は確認されませんでしたが、年齢層を体重ベースで区分した場合、「年を取るほど陽性率が高まる」という関係性が確認されました。
猫の年齢とレプトスピラ陽性率
  • 子猫=3%(1/33)オスもメスも体重1kg未満
  • 若齢猫=12.1%(7/58)オス1~2.4kg/メス1~1.9kg
  • 成猫=21.3%(32/150)オス2.5kg以上/メス2.0kg以上
Molecular and serological epidemiology of Leptospira infection in cats in Okinawa Island, Japan.
Kakita T., Kuba Y., Kyan H. et al. Sci Rep 11, 10365(2021), DOI:10.1038/s41598-021-89872-3

中間宿主としての猫

 今回の調査により、病原性レプトスピラ(L. borgpetersenii)に対する外猫たちの抗体陽性率が16.6%(40/241)に達することが明らかになりました。島根県では0%出典資料:Fukushima, 1985)、南九州では7.7%出典資料:Akuzawa, 2005)との報告がありますので、日本においては南に行けば行くほど感染率が高くなる傾向があるようです。別の調査ではレプトスピラに自然感染した猫の尿中から8ヶ月にわたって細菌が検出されたと報告されていることから、中間宿主として菌を媒介している可能性は否定できないでしょう。

レプトスピラの感染ルート

 猫の感染ルートは汚染された土壌(トイレ)との接触、汚染された水を飲むこと、保菌状態のネズミを食べることなどです。実際、農場に暮らしている猫とそこで飼育されている家畜ウシから同じ血清グループ(L.interrogans)に対する抗体が検出されたという報告もあります出典資料:Ojeda, 2018)屋外猫におけるレプトスピラの感染ルート  一方、人間に対する細菌の代表的な感染ルートは「保菌動物の尿→土壌や水(川や湖)の汚染→農耕活動やレクレーション」というもので、散発的に集団感染例が報告されています出典資料:国立感染症研究所)。外猫の数が増えれば増えるほど細菌に汚染された尿に接触するリスクが高まり、人獣共通感染症に感染するリスクも連動して高まると推測されます。

レプトスピラ症の予防法

 2007年から2016年の期間中、人間におけるレプトスピラ感染例で多かった血清グループは「Hebdomadis」(40.1%, 57/142)で、「Javanica」は少数派だったといいます(2.8%, 4/142)。しかし猫、マングース、クロネズミ、ヒトから単離された血清グループ「Javanica」はMLSTでもWGSでも系統発生的に同じクラスターに属していたことから、動物間の伝播が強く示唆されます。 猫からヒトへのレプトスピラ感染例~無責任な放し飼いが人獣共通感染症を広める  猫は感染しても症状を示さないことが多いため診断が難しく、キャリアであることを知らないまま過ごすことも少なくありません。室内飼育されているペット猫より自由に歩き回れる屋外猫の方が感染リスクが高いことは自明ですので、猫の健康を守るためにも人獣共通感染症のリスクを減らすためにも完全室内飼育が望まれます。
猫がトイレの後で自分の股間をなめる→その舌で飼い主の手をなめる→その手でポテトチップを食べるなどのルートを通じ、レプトスピラは容易に人間に感染します。 猫を放し飼いにしてはいけない理由