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外猫に蔓延するイヌ小胞子菌(皮膚糸状菌症)の実態~放し飼いや撫で回しが病原菌を急速に広める

 犬や猫の皮膚糸状菌症を引き起こすことで知られているイヌ小胞子菌。半世紀以上前から放し飼いによる病原菌の蔓延が指摘されていましたが、今もなお同じ状況があるようです。

屋外に蔓延するイヌ小胞子菌

 調査報告を行ったのは福井県にある山田動物病院。2012年9月~2017年4月の期間、日本国内にある5つの地方(関東・北陸・近畿・中国・四国)で開業する獣医師に協力を仰ぎ、皮膚糸状菌症の原因菌であるイヌ小胞子菌のサンプルを採取してもらいました。その結果、猫75頭(症状あり72頭+症状なし3頭)、犬8頭(全頭症状なし)、ペットの飼い主10名から合計93株のサンプルが集まったといいます。 イヌ小胞子菌の顕微鏡写真と感染した猫  次にMLMTという手法で菌株の遺伝子型を分類したところ、既知の型が11、国内で新たに発見された新規の型が11見つかりました。
MLMT
MLMT(Multilocus microsatellite typing)とは通常7つ以上の遺伝子領域から各400程度の塩基配列を読みとり、菌株を分類する手法。従来のPFGE法(パルスフィールドゲル電気泳動法)より精度が高いとされている。当調査では6つの領域がマーカーとして定められた。
 A~Sまでに分類される既存型の中でも特にAとPに関しては検出率が高く、全国で満遍なく見られました。具体的にはAが11.8%(11サンプル/うち9サンプルがペットショップ由来の猫)、Pが39.8%(37サンプル/うち17が屋外アクセスできる猫)というものです。
 一方、それまで国内では確認されていなかった新規型(K1~11)に関してはほぼすべてが猫から検出され、過半数は屋外アクセスできる生活環境でした(16/28=57%)。
 さらに家庭内感染が疑われる19ケースのうち18ケースまでが同じ遺伝子型による感染だったといいます。感染した飼い主10名のうち9名までもが「猫→人」というルートで病原菌をもらった可能性も併せて確認され、猫の内訳は「屋外アクセス猫7/ペットショップ由来猫2」というものでした。「猫→猫」という感染ルートが疑われる10ケースでは、感染源と思われる猫の内訳が「屋外アクセス猫6/ペットショップ由来猫4」となりました。
Molecular epidemiology of Microsporum canis isolated from Japanese cats, dogs and pet owners by multilocus microsatellite typing fragment analysis
Shigeo Yamada, Kazushi Anzawa, Takashi Mochizuki, Japanese Journal of Infectious Diseases(2020), DOI:10.7883/yoken.JJID.2020.809

生かされない過去の教訓

 イヌ小胞子菌は1950年代に海外から輸入された販売用の猫を通じて本州全土に広がったとされています。放し飼いすることにより他の放し飼い猫、もしくは明確な飼い主がいない野良猫にも広まり、種を超えて人間にも感染するケースが多発しました。
 今回の調査でも、猫から採取された75サンプルのうち屋外アクセスできる猫のものは40と過半数を占めていました。また猫→人という家庭内感染ルートの90%、猫→猫という家庭内感染ルートの60%では、屋外アクセス猫が感染源となっていました。 放し飼いが病原菌を外猫だけでなく人間にも広める  放し飼いはその猫だけでなく、全く無関係な猫や猫と接する人間にまで病原菌を広める極めて無責任な飼養法であることが改めて確認された形になります。半世紀以上が経過しているにも関わらず教訓を学ぼうとしない一因は、菌やウイルスが目に見えず軽視~無視される傾向にあるからなのでしょうか。
可愛いことと健康であることは別問題です。外猫を触った後で手を洗わず他の猫を触る人や「猫の島」でブラシの使い回しをする人は、意識がないまま病原菌を広め、猫たちを不健康にしています。皮膚糸状菌症 猫を放し飼いにしてはいけない理由