トップ2022年・猫ニュース一覧7月の猫ニュース7月25日

猫の放し飼いは飼い主のライム病感染リスクを高める

 発見と治療が遅れると全身性の重篤な炎症を引き起こすライム病。ダニを媒介生物としている関係上、猫を放し飼いにするとダニと猫との接触機会が増え、結果的に飼い主の感染リスクが高まります。

ライム病感染の危険因子

 ライム病はスピロヘータの一種・病原性ボレリアによって引き起こされる感染症の一種。病原菌を保有したダニの刺咬によって感染が拡大します。 ライム病を引き起こす病原性ボレリアの一種「Borrelia-burgdorferi」の顕微鏡写真  ニューヨークにあるBassett Research Instituteとビンガムトン大学からなる共同チームは、ライム病に関連したSNSやサポートグループ、会合、ワークショップなどを通じて66項目からなる質問票を配布し、感染の危険因子が何であるかを検証しました。最終的に解析対象となったのは324名のデータ。ライム病の罹患歴あり185名+なし139名、女性65%+男性32%という内訳です。
 回答者の基本属性データを元にし、年齢や性別による影響を考慮に入れた多変量解析を行った結果、感染リスクおよび感染率の上昇と以下の項目が関連していたといいます。ORは「オッズ比」のことで、数値が「1」よりも大きければリスクが大きいことを意味しています(例:OR2=リスク2倍)。またカッコ内の割合はライム病と診断される確率の上昇幅です。
ライム病感染の危険因子
  • 郊外居住:OR4.9(33.6%↑)
  • ペット飼育:OR1.7(11.1%↑)
  • 猫の飼育:OR2.1(15.7%↑)
 近親者にライム病患者がいる80名と、非近親者の患者がいる190名のデータを元にした解析を行ったところ、近親の程度に関わらず知り合いに患者がいる場合、虫よけ使用の確率がOR6.1(17.0%↑)、ダニチェックの確率がOR7.3(39.2%↑)に高まることも合わせて確認されました。さらに患者が近親者の場合、虫除けをときどき使用する確率が2.2倍、頻繁に使用する確率が9.3倍に跳ね上がったそうです。
Cat Ownership and Rural Residence Are Associated with Lyme Disease Prevalence in the Northeastern United States
Amanda Roome, Katherine Wander, Ralph M. Garruto, Int J Environ Res Public Health. 2022 May; 19(9): 5618, DOI:10.3390/ijerph19095618

猫の完全室内飼育がライム病を防ぐ

 アメリカにおけるライム病は北東部と北中西部に多く、年間患者数は476,000と推定されています。また日本国内においてもまったく無関係というわけではありません。

ペット飼育とライム病のリスク

 過去に行われた複数のリスク解析では、ライム病感染の危険因子として以下のような項目が挙げられています。
ライム病感染の危険因子
  • 森林の細分化
  • 生物多様性の減少
  • 郊外居住
  • 雑草除去
  • 屋外活動
  • 屋外レジャー
  • ペット飼育
 今回の調査でも「郊外居住」と「ペット飼育」が危険因子として浮上しましたので、飼い主の外出機会が多いことや屋外で過ごす時間が長いことが直接的な感染リスクを高めることがうかがえます。またペット動物が屋外から家庭内に媒介生物(=ダニ)を持ち込むことが間接的な間接リスクを高めているものと推定されます。

猫の飼育とライム病

 当調査においては犬ではなく猫を飼っている場合の感染リスクが2倍になることが明らかになりました。原因としては、郊外居住者が猫を飼育している場合、高い確率で放し飼いに走ってしまうからだと考えられます。その他、猫が持つ以下のような特性がリスクの上昇に関わっている可能性があります。
感染リスクを高める猫の特性
  • 体が小さくダニの生息地に入り込みやすい
  • フェンスを超えた敷地外を放浪しやすい
  • ダニのついた小動物と接触しやすい
  • ダニよけ首輪の使用率が低い
  • 体を触らせてくれないダニチェックが疎かになる

日本におけるライム病の危険性

 2011年、札幌市において病原性ボレリアの一種「ボレリア・ガリニ」(B.garinii)によるライム病の症例が報告されたことを受け、 北海道・帯広畜産大学の調査チームは2012年~14年の間、札幌市内にある3つの動物病院を訪れた合計314頭の犬を対象に、血清抗体率を調査しました。その結果、全体の10.2%に当たる32頭が病原性ボレリアに対して陽性反応を示したといいます。 ライム病を引き起こす病原性ボレリアが札幌に潜伏  上記したデータから、居住地域によっては日本国内においても人獣共通感染症であるライム病への警戒が必要だと考えられます。以下はライム病に関する基本情報です出典資料:国立感染症研究所)
ライム病について
  • 病原体細菌(スピロヘータ)の一種「病原性ボレリア」。北米では「ボレリア・ブルグドルフェリ」(Borrelia burgdorferi)、ヨーロッパでは「ボレリア・ブルグドルフェリ」、「ボレリア・ガリニ」(B.garinii)、「ボレリア・アフゼリ」(B.afzelii)。日本では今のところ「ボレリア・ブルグドルフェリ」の報告がないため、「ボレリア・ガリニ」と「ボレリア・アフゼリ」が主流だと推測される。また1995年に北海道で発見された新種「ボレリア・ミヤモトイ」(B.miyamotoi)の可能性も否定出来ない。
  • 媒介生物保菌動物としてのネズミや野鳥、および媒介動物としてのマダニ(Ixodes属)。日本では、東北から北海道にかけて生息している「シュルツェ・マダニ」(I.persulcatus)が媒介の主犯と考えられる。東北から北海道にかけて生息している「シュルツェ・マダニ」(I. persulcatus)
  • 疫学日本国内における最初の報告例は1986年。流行地域は本州中部以北で、特に北海道や長野県に多い。ライム病は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。感染症法施行後、現在までに数百人の患者が報告されている。
  • 症状【StageI】
    マダニに刺された箇所を中心とする遊走性紅斑が数日から数週間持続し、リンパ節腫脹、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感といったインフルエンザに似た症状を伴う。
    【StageII】
    病原体が血液を介して全身に広がり、皮膚、神経、心臓、眼、関節、筋肉などに炎症を引き起こす。
    【StageIII】
    細菌を駆逐できない状態が数ヶ月~数年持続すると、体の各所に関節炎、皮膚炎、脳脊髄炎といった重度の慢性症状が現れる。
  • 治療遊走性紅斑にはドキシサイクリン、髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソンといった抗菌薬が有効とされる。ただしドキシサイクリンは歯の着色を引き起こす危険性があるため、成長期の犬に使用してはならない。また抗菌薬ですべての細菌を駆逐できるわけではなく、数週~数ヶ月間隔で症状がぶり返すこともある。
  • 予防マダニが活発に動く春~初夏、秋頃に、マダニの生息地に近づかないようにする。マダニの生息地は、本州中部以北では主として山間部、北海道では山間部のほか平地。マダニの衣服への付着が確認できる白っぽい服を着用し、ズボンの裾は靴下の中に入れるようにする。犬に対しては防ダニ薬を使用する。刺された場合、無理にマダニを引き剥がそうとすると刺口が皮膚の中に残ってしまう危険性があるので、必ず病院の皮膚科で処置してもらう。米国のFDAで認可されたワクチンはあるが、国内では流通していない。またワクチンの効果に関してもいまだに議論がなされている。
完全室内飼育を徹底すれば猫がダニを家に持ち帰る確率が減り、結果として飼い主がライム病にかかるリスクが低減します。猫を放し飼いにしてはいけない理由