トップ2022年・猫ニュース一覧5月の猫ニュース5月27日

猫エイズ(FIV)に感染した猫は高齢になると認知機能が低下しやすい

 人がHIV(エイズ)に感染した場合、複雑なメカニズムを通して認知機能が低下してしまうケースがあります。ではHIVの猫バージョンであるFIVに感染した猫では、同様の変化が見られるのでしょうか。検証実験が行われました。

FIVと猫の認知能力

 調査を行ったのはカナダにあるブリティッシュコロンビア大学のチーム。人間のHIV感染者で確認されている認知能力の低下(HIV関連神経認知障害, HAND)が、 HIVの猫バージョンであるFIVに感染した猫たちでも見られるかどうかを確かめるため、特殊な実験方法を考案した上で検証しました。 猫エイズウイルス感染症  実験に参加したのはFIVに感染していること以外は臨床上健康な猫37頭(10ヶ月齢~10.2歳)。参加条件はおやつによる動機づけができることと、記憶力や問題解決能力に予期せぬ影響を及ぼすような要素(肥満・視覚障害・疼痛・FeLV感染)を有していないことです。また比較対象としてFIVに感染していない臨床上健康な猫39頭(8ヶ月齢~12.8歳)が選別されました。

実験方法

 実験場所としては、被験猫がペット猫の場合は普段生活している室内、保護猫の場合はシェルター内で慣れ親しんだ室内が採用されました。
 気が散らないよう静かな環境を作り、形と色が異なる4つの容器を猫からの距離が1.5mに統一されるよう等間隔で半円状に並べ、以下の手順で実験を行いました。 猫の視覚空間的作業記憶(VSWM)と問題解決能力(PS)をいちどに把握する実験 ✅飼い主は猫が動かないよう後ろから軽く拘束し、実験者が容器におやつを入れる様子を観察させる
✅観察後に猫を退室させ、4分後に再び入室する
✅スタート地点で猫を解き放ち10分間の自発的な行動を観察
✅猫が容器の匂いを嗅いだり前足で触った時点で「選択した」と判断
 隠した場所を観察させた後、一定のインターバルを置いて正解(おやつの入った容器を選択)にたどり着けた場合、視覚を通じて得た情報を脳内に記憶として保持する視覚空間的作業記憶(VSWM)があることを意味しています。また容器の中に隠されたおやつをゲットするため、鼻や前足をつかって容器をひっくり返せた場合、問題解決能力(PS)があることを意味しています。つまり一連の実験によりVSWMとPSの両方を同時に評価できるという寸法です。
 1つの容器に2回ずつおやつを入れ、猫1頭につき合計8回のテストを行いました(テスト間に3分の休憩あり)。また猫に対する無意識的な指示を避けるためアイコンタクトは禁止とされ、記憶ではなく臭いを手がかりに正解を選ばないよう、すべての容器に同じ匂いがつけられました。
 なお問題解決能力のスコアリング基準は以下です。点数が高いほどPSが高いと判断されます。
PSの採点基準
  • 0点:空の容器を選んだ
  • 1点:容器を嗅いだが前足でタッチしなかった
  • 2点:おやつをゲットしたが2分を超えた
  • 3点:2分以内におやつをゲットした

視覚空間的作業記憶の結果

 視覚空間的作業記憶(VSWM)に関しては年齢およびFIVによって負の影響を受け、FIV陽性猫では加齢と共に悪化することが判明しました。文中の「若齢」は7歳以下、「高齢」は7歳超を意味しています。
VSWM平均正解回数
  • 若齢+FIV陽性猫:4.27>高齢+FIV陽性猫:2.68
  • 若齢+FIV陰性猫:4.15>高齢+FIV陰性猫:3.36
  • 高齢+FIV陽性:2.68<高齢+FIV陰性:3.36
  • 若齢+FIV陽性:4.27≒若齢+FIV陰性:4.15
半分以上正解した割合
  • 若齢+FIV陽性猫:66%>高齢+FIV陽性猫:26%
  • 若齢+FIV陰性猫:65%>高齢+FIV陰性猫:31%
 平均正解数に関し若齢猫ではFIVの有無によって格差は見られませんでした。またテストの後半になるにつれ正解を選ぶ猫の数が増えることはなかったことから、学習の影響はないものと判断されました。

問題解決能力の結果

 問題解決能力(PS)に関してはFIVの有無が影響しておらず、加齢のみが影響を及ぼすことが明らかになりました。
PS平均スコア
  • 若齢+FIV陽性:2.35>高齢+FIV陽性:2.03
  • 若齢+FIV陰性:2.44>高齢+FIV陰性:2.05
  • 若齢+FIV陰性:2.44≒若齢+FIV陽性:2.35
  • 高齢+FIV陰性:2.05≒高齢+FIV陽性:2.03
Age-related cognitive impairments in domestic cats naturally infected with feline immunodeficiency virus
Veterinary Record, Amin Azadian, Danielle A. Gunn-Moore, DOI:10.1002/vetr.1683

加齢とFIVによる相乗効果?

 実験により、猫エイズウイルス(FIV)の有無に関わらず視覚空間的作業記憶と問題解決能力の両方が加齢と共に低下する傾向が認められました。またFIV+加齢という条件が重なったときのみ、視覚空間的作業記憶が大きく低下する傾向も同時に認められました。平たく言い直すとFIV陽性猫は加齢と共に見たものの場所を忘れやすくなるとなります。
 FIVに感染していない猫でも加齢に応じた視覚空間的作業記憶の低下が見られますので、感染猫では物忘れの程度がやや大きいといったイメージです。実生活の中で問題となりそうなのは「トイレの場所を変えたら粗相した」といった状況でしょうか。これは飼い主の注意によって十分予防できる範疇ですので、極端に猫の生活の質(QOL)が下がることはないと考えられます。
 人間のHIVでも猫のFIVでも、感染と認知機能の低下は多因子的だと考えられています。例えば加齢の他、ウイルスによる直接的な影響、慢性的な免疫応答と炎症、免疫機能の低下と二次感染などです。高齢のFIV猫で見られたVSWMの大幅な低下がどのようなメカニズムを通して引き起こされたのかはよくわかっていませんが、FIV陽性猫ではCt値(血漿中のプロウイルスDNA)がVSWMに影響を及ぼすという関係性が認められましたので、ウイルスが何らかの悪さをしていることは推察されます。
 その他、FIVの系統による違い、トキソプラズマ感染の有無、日内リズムによるパフォーマンスの変動など、認知能力に影響を及ぼす予期せぬ要素がたくさんありますので、さらなる調査を重ねていくことが必要です。 猫エイズウイルス感染症