トップ猫の心を知る猫の習性高速で頭を回す

高速で頭を回す

 猫の習性の一つである高速で頭を回すという点について解説します。
 耳の中に水が入った時や体が濡れてしまった時、猫は目にもとまらぬ速さで頭を振りますが、なぜこのような行動を取るのでしょうか?

猫が頭を回す理由

 猫は時折、目にも止まらぬ速さで頭を振ることがあります。具体的には耳の中に水が入った時や体が濡れてしまった時などです。この行動には、耳の中の異物を取り除くと同時に、体温の喪失を防ぐという重要な意味があります。
 2011年に行われた研究により、犬は4秒あれば体にまとわりついている水分の約70%を、ブルブルによって振り落とすことができるという事実が判明しました。実験を行ったのは、アメリカ・アトランタにあるジョージア工科大学の研究チーム。ハイスピードカメラで犬が身震いする様子を撮影したところ、背骨の可動回旋域はせいぜい30度程度であるのに対し、遠心力によって揺さぶられた皮膚の可動域は90度にまで達するという事実を発見したといいます。これはちょうど、デンデン太鼓の柄を少し回しただけで、太鼓の横に取り付けられた紐と玉が大きく揺さぶられるのと同じ現象です。 犬の頭振りとデンデン太鼓の比較  研究者たちはまた、動物の体の大きさによって頭を振るスピードが変わることも発見しました。具体的には以下です。カッコ内はおよその体重で、頭を一方向に回旋させる動作を「1回」としてカウントしています。 Wet mammals shake at tuned frequencies to dry
1秒間の頭部回転数
  • マウス(30g)→29回
  • ラット(300g)→18回
  • リス(500g)→16回
  • ネコ(3.5kg)→9回
  • シベリアンハスキー(10kg)→5.8回
  • カンガルー(20kg)→5回
  • ラブラドールレトリバー(35kg)→4.5回
  • ミニブタ(50kg)→8.2回
  • ヤギ(50kg)→7.7回
  • ヒツジ(55kg)→6.5回
  • ライオン(120kg)→4.9回
  • パンダ(130kg)→4.4回
  • ヒグマ(250kg)→4回
 「ヒグマ」のような体の大きな動物は、頭を振るのに大きな力を要するものの、得られる遠心力も大きくなるため、それほど高速で振り回す必要はありません。一方、「マウス」のような体の小さな動物は、頭を振るのにそれほど大きな力は必要ありませんが、得られる遠心力も小さくなってしまいます。その結果、足りない遠心力をを補うため、かなり高速で頭を振る必要が生じます。動物間によって、頭の回旋スピードが大きく変動するのはこうした理由によるものです。
猫にとって体が濡れることは命取りになりかねない  研究チームが行った試算によると、体重27kgの犬が、450gの水を被毛にまとっていた場合、消費エネルギーの約20%は、気化熱を相殺するための体温維持に回されるとのこと。つまり体が濡れるということは、野生動物にとっては生きるか死ぬかの一大事と言っても過言ではないのです。寒暖の差が激しい砂漠のような環境で進化してきた猫が、水に濡れることを極端に嫌がるのもうなづけますね。
犬と猫のブルブル
 以下でご紹介するのは、ラブラドールレトリバーが頭を回して体についた水を振り飛ばすスロー動画です。体重が35kg程度の場合、1秒間に頭を振る回数は4.5回程度となります。 元動画は⇒こちら
 以下でご紹介するのは、猫が頭を高速で回すスロー動画です。体重が3.5kg程度の場合、1秒間に頭を振る回数は9回程度となります。なお、猫が頭を振る時によく聞く「パタパタ」という音は、耳が側頭部に当たることで発生しています。 元動画は⇒こちら

脳震とうを起こさない理由

 犬や猫を始めとする哺乳動物は、身震いをすることによって水気を飛ばし、体温の喪失を防いでいるという事はわかりました。しかし一方で、新たな疑問も生じてきます。それは、「あんなに激しく頭を振っているのになぜ脳震とうを起こさないのか?」という点です。「脳震とう」とは頭を激しく動かされることによって生じる一過性の意識障害のことで、ボクサーのノックダウンをイメージすればわかりやすいでしょう。

脳震とうのメカニズム

 頭を振っている時の頭蓋骨の中では、脳に回旋力が加わり、その場でグルグル回ろうとします(下図左側)。脳が回ろうとしているところで頭を逆向きに回転させると、動き続けようとする脳と、逆方向に向かおうとする頭蓋骨との間で衝突が起こり、脳を構成している神経細胞にミクロな傷ができてしまいます(下図右側)。 脳内におけるびまん性軸索損傷の発症メカニズム  破損した神経細胞からは、神経伝達物質と呼ばれる化学物質が大量に放出され、他の神経細胞まで傷つけてしまいます。このようにして脳が機能障害に陥り、一時的に意識を失ってしまう状態が「脳震とう」です。脳震とうに伴い、神経細胞同士をつなぐケーブルとでも言うべき「軸索」(じくさく)が広範囲にわたって引きちぎられた場合は、「びまん性軸索損傷」(DAI)とも呼ばれます。

脳震とうと脳の大きさ

 動物が脳震とう起こさずに頭を激しく動かすことができるメカニズムの裏には、脳の大きさが関係しているようです。動物間における脳の重量を比較してみると、私たち人間と他の動物との間には、大きな隔たりがあることに気づきます。具体的には以下です。 Brain Facts and Figures
動物の脳重量一覧
動物の脳重量一覧
  • ヒト→1,300~1,400g
  • クマ→500g
  • ヒトの乳児→350~400g
  • ライオン→240g
  • ブタ→180g
  • ヒツジ→140g
  • イヌ(ビーグル)→72g
  • ネコ→30g
  • ラット(400g)→2g
  • マウス→0.3g
猫の脳は30g程度しかないので、激しく動かしても大きなダメージは被らない  人間のように1kgを超す巨大な脳を持った動物が高速で頭を回すと、脳と頭蓋骨とがぶつかり合って激しい損傷を引き起こしてしまいます。一方、脳の重さが500円玉4~5枚程度しかない猫の場合、1秒間に9回という超高速で頭を回転したとしても、恐らくそれほどダメージはないのでしょう。高い場所から落下して頭を打った猫が、まるで何事もなかったかのようにケロッとしていることがありますが、これは脳みそが頭蓋骨の中でそれほど揺さぶられていないからだと考えられます。

人間はマネしちゃいけない

 動物たちは、体が濡れた時や耳の中に水が入ったとき、激しく頭を振ることで遠心力を発生させ、水分を振り飛ばします。しかし脳の大きさには動物間で大きな違いがあるため、人間が同じ動作をしてはいけません頭を激しく動かすと、「揺さぶられっ子症候群」(乳幼児)や「一過性脳虚血発作」(成人)を引き起こしかねない  まず、赤ん坊の頭を激しく揺さぶってしまうと「揺さぶられっ子症候群」という深刻な症状を引き起こすことがあります。これは頭蓋骨の中で脳が激しく動かされることにより、骨と脳の間で何度も衝突が起こり、神経線維や微小血管の破損を招いてしまうというものです。最悪のケースでは死んでしまうこともありますので絶対にやってはいけません。
 では大人なら大丈夫かというと、そういうわけでもありません。ロックミュージシャンの音楽に合わせて激しく頭を動かす「ヘッドバンギング」などを行うと、たとえ大人であっても脳と頭蓋骨とが激しく衝突し、脳震とうを起こしてしまうことがあります。大人の脳は赤ちゃんの脳の3倍近い重量があり、それだけ軸索損傷が起こりやすくなっていますので要注意です。また頭を回すことによって首の中を通っている椎骨動脈(ついこつどうみゃく)という血管が圧迫され、「一過性脳虚血発作」(いっかせいのうきょけつほっさ, TIA)のような神経症状につながることもあります。
 脳は髄膜と髄液という水風船で包まれ、「パスカルの原理」によってある程度の衝撃は分散するようにデザインされています。しかしその能力には限界がありますので、人間が動物のように激しく頭を動かす事は避けたほうがよいでしょう。