トップ猫の心を知る猫の習性群れで生活する

群れで生活する

 猫の習性の一つである群れで生活するという点について解説します。
 「単独生活」というイメージの強い猫ですが、野良猫の暮らしを観察してみると、複数の猫が共同生活していることがあります。猫はなぜこのような行動を取るのでしょうか?

メス猫と群れ

猫の群れは血縁関係にあるメス猫とその子猫によって形成される  野良猫の中で群れを作るのは、主としてメス猫とその子猫たちです。
 メスの成猫が共同生活によって小さな群れを形成する場合、そこにはたいてい親子、姉妹など血統的なつながりがあります。大きな群れは、こうした幾つかの家系が集まったものです。
 しかし群れの中で同居しているとは言っても、ほとんどの時間は単独で過ごしているそうです。1999年、Barryらが行った観察では、「メス猫は通常、他の猫の視野に入らない場所で過ごし、そのうち35%は、他の猫から3メートル以内の距離で費やす」と報告されています。猫が「孤独を好む」と思われがちなのは、こうした性質を拡大解釈したことが一因としてあるのでしょう。
猫の群れは、食料への距離により「中央域タイプ」と「周辺域タイプ」の2つに分かれる  群れの生活圏を決定するのは、食料の豊富さと散らばり具合です。すなわち、エサが狭い範囲内に豊富に存在していれば生活圏が小さくなり、逆にわずかしかなければ、ぐんと大きくなります。
 食料資源が集中している地域におけるメス猫は、「中央域タイプ」と「周辺域タイプ」という2つのタイプに分かれます。ちなみに都市部における食料資源とは、エサやり人、家畜のエサのおこぼれ、ゴミ集積所などです。
 中央域のメス猫の方が概して健康状態がよくて繁殖率も高く、大きな家系を形成します。それに対し周辺域のメス猫は、健康状態が悪くて繁殖率も低く、近縁に当たる猫も少ないそうです。こうした現象は、食料へのアクセス権が大きく影響しているものと思われます。
 全てのメス猫が群れの中で生活するわけではなく、単独で生活するものもいます。例えば、ネズミなど野生の獲物を食料とするメス猫は、獲物を求めて広範囲を移動する必要があるため、典型的な単独生活を送ります。もし、こうしたメス猫が安住の地を求め、特定の群れの中に入り込もうとすると、たいていは撃退されてしまうそうです。理由は、食料や住居のほか、集団の中における繁殖の優先順位に脅威を与えるためだと考えられます。
メスライオンはプライドと呼ばれる群れを作り、群居生活を行う/メストラは主として単独で狩猟生活を送る  メス猫の群居生活と非常に似通った生活スタイルを持っているのがメスライオンです。メスライオンは猫と同じように、血縁関係にあるメス同士が「プライド」と呼ばれる群れを作り、長期間に渡って共同生活を送ります。
 一方、メス猫の単独生活と似通った生活スタイルを持っているのが、ヨーロッパヤマネコ、トラ、クーガ、ヒョウ、といった大型ネコ科動物のメスです。これらのメスたちは、1年程度の期間は共同生活するものの、それ以降は離散してしまいます。
 イエネコは、「群居生活」と「単独生活」という、ネコ科動物のもつ二面性を兼ね備えた動物と言えるでしょう。

オス猫と群れ

 群れの中で生活するメス猫に比べ、オス猫は放浪しながら暮らしていく傾向にあります。
オス猫は性的に成熟するとメスの集団から離脱し、放浪の旅に出る  まず、メス集団の中で生まれ育ったオスの大多数は、1~2歳の間に、自発的に集団から離れ、それ以降は、自分の家族のいる集団と接触することはないそうです(Dards, 1983)。これは近親交配を避けるための本能的な行動だと考えられます。
 春先になってメス猫たちが繁殖期を迎えると、オス猫の生活圏は急激に増加します。理由はもちろん、メス猫たちが発散するフェロモンに引き付けられるからです。行動範囲は平均するとメス猫の3倍近くにふくらみ、エネルギー消費量から見ると4倍以上になります。こうした骨身を惜しまぬ長距離放浪を可能にしているのは、メス猫の尻を追いかけるという「愛の力」なのでしょう。
 ちなみに、同じオス猫でも体が小さくてケンカの弱い劣位のオス猫のほうが、行動範囲は狭くなります。理由は、メス猫を求めて広範囲に動き回っても、優位のオス猫に先回りされ、ほとんど得るものが無いためだと考えられます。
猫の体の大きさと優位性 性的二形性とは、オスの体がメスよりも相対的に大きくなること  1匹のオスが複数のメスと交尾する繁殖形態をとる動物種では、オスの方がメスよりも大きくなるという「性的二形性」をとることが多くなります。もちろん猫も例外ではなく、生後8週齢以降、オス猫の方が徐々に大きくなっていきます。これは、体が大きい個体の方が、メスをめぐる争いにおいて勝ちを収める確率が高いため、自然による選択圧がかかったものと考えられています。
 具体例としては、Dards(1983)が「体が大きいオス猫の方が闘争能力が高く、結果として交尾順位や交配成功率も高くなる」ことを示しました。また交尾順位と交配成功率は、年齢とも相関があったとのこと。
 オス猫は、自分の遺伝子を後世に伝える可能性を高めるため、複数の地域や集団を渡り歩き、なるべく多くのメス猫と交尾するのが普通です。 オス猫はなるべく多くのメス猫と出会うため、繁殖期間中は放浪のたびを続ける このように、1匹のオスが複数のメスと交尾する形態を、「一夫多妻制」(いっぷたさいせい)、あるいは「乱婚制」(らんこんせい)と呼びます。前者は1匹のオスが複数のメスを独占することで、後者は複数のオスが複数のメスと入り乱れて交尾することです。メス猫の生息密度によりどちらの形態になるかが決まりますが、田園地帯では一夫多妻制が多く、都市部では乱婚制が多くなると言われます。都市部には、魅力的なメス猫がたくさんいるのでしょう。
 一夫多妻制、あるいは乱婚制という交尾形態に合わせるかのように、メス猫の群れはオス猫の気まぐれ訪問に対して寛大です。つまりメス猫に対するように追っ払ったりしないのです。
 交尾を無事に終えたオス猫は、再び違うメス猫を求めて放浪の旅を再開し、その後、子猫の育児に参加することはありません。人間的な視点で考えると、「無責任な男だなぁ」という印象を受けますが、猫の世界ではごく普通のことです。ちなみに、1匹のオスが1匹のメスとだけ番(つが)える「一夫一婦制」は、哺乳動物の内、わずか3%程度だと言われています。ですから、私たち人間の婚姻制度は、動物界においては極めて少数派と言えます。
オス猫のクーリッジ効果  新しいメスの存在がオスの性衝動を活気付けることを「クーリッジ効果」と呼びます。例えばアカゲザルの場合、同じメスと4年間夫婦関係にあったオスでは、性活動の低下が観察されたものの、新しいメスの登場によってその機能低下が完全に回復したとか。
 オス猫の「クーリッジ効果」は当たり前のことですが、人間の「クーリッジ効果」は多くの場合女性の顰蹙(ひんしゅく)を買います。浮気がばれたときの言い訳として持ち出さないほうが無難ですね。