トップ猫の心を知る猫の習性驚くと死んだふりをする

驚くと死んだふりをする

 猫の習性の一つである驚くと死んだふりをするという点について解説します。
 猫はびっくしりたとき、身動きを止めてあたかも死んだふりをしているかのようなリアクションをすることがごくまれにありますが、猫はなぜこのような行動を取るのでしょうか?

猫の行動・その理由は?

猫が大人しくなるのは警戒性徐脈の一種だと考えられる  猫は驚いたり恐怖を感じたりすると、通常は歯をむき出して威嚇したり一目散に逃げたりします。しかし恐怖や驚きが極限に達すると、まれに全身の力を抜いて動かなくなることがあります。この背景にあるメカニズムとしては「警戒性徐脈」が有力です。
 「警戒性徐脈」(けいかいせいじょみゃく, Alarm Bradycardia)とは、危機的な状況において起こる自律神経系の瞬間的なスイッチングのことで、交感神経によって急上昇した心拍数と血圧が、副交感神経によって急激に低下する生理反応のことです。反応の結果として脳への血流量が減少すると、動かなくなったり意識を失ったりします。人間と動物の病気を同一平面上で考える「汎動物学」(はんどうぶつがく, Zoobiquity)の提唱者であるB.N.ホロウィッツ女史はこの警戒性徐脈のことを、差し迫った危険から命を守るために発達した防御反応の一種であり、「戦う」、「逃げる」と似たようなものであると述べています。
 家では大暴れしていた猫が、動物病院の診察台に乗ったとたん、まるで観念したかのように急におとなしくなる現象も防御反応で説明がつくかもしれません。この時の猫は恐らく、警戒性徐脈によって動きを抑えることで自分の存在感を消し、不快な状況を乗り切ろうとしているのでしょう。人間でいうと、学校の先生が難しい問題の回答者を探しているときの、生徒の心理状態に近いと推測されます。
オポッサムの擬死
 以下でご紹介するのは、オポッサムが警戒性徐脈の一種である「擬死」を発動する様子を捕らえた動画です。オポッサムは、カンガルーやコアラなどと同様に腹に育児嚢(いくじのう)という袋をもつ有袋類であり、ネズミに似た外見をしていることから、フクロネズミとも呼ばれます。中でもシロミミオポッサムは、死んだふりをする動物として有名です。 元動画は⇒こちら

警戒性徐脈の種類

 B.N.ホロウィッツ女史は著書「人間と動物の病気を一緒にみる」(インターシフト)の中で、警戒性徐脈を起こす動物の例を多数挙げています。著書の中では言及されていませんが、既存の概念を交えて考えると、この生理反応はおおむね以下の3つに分類できそうです。
警戒性徐脈の種類
  • 不動化 「不動化」とは意識があり、倒れ込むこともないものの、動きを止めてじっとする状態のことです。例えば、「オオカミの遠吠えを聞いたオジロジカの心拍数と血圧が低下し、体がピタリと動かなくなる」や、「車のヘッドライトに照らされた猫がビックリしてその場に立ちすくむ」といった例が挙げられます。
  • 前失神状態(擬死) 「前失神状態」とは、脱力して倒れ込みながらも意識はある状態のことで、一般的に「死んだふり」(擬死)と呼ばれているものです。例えば、「犬と対峙したオポッサムがゴロンと横になって動かなくなる」や、「オスカーと言う種の魚がお腹を上にして完全に動きを止める」といった例が挙げられます。
  • 失神 「失神」とは、倒れこんで意識を完全に失った状態のことです。例えば、「兵士の死を知らされた家族がその場で倒れ込む」や、「新米の医者が手術の現場で血を見て気絶する」といった例が挙げられます。失神に関しては動物よりも人間で多く、「血管迷走神経反射性失神」(VVS)という仰々しい名前で呼ばれることもあります。
 上記した種類の内、意識を保ったままの「不動化」は動物に多く、意識を失ってしまう「失神」は人間に多いとされます(J. Gert van Dijk, 2003)。しかしどのタイプであっても、発動の目的は捕食者や外敵から自分の存在を消すという一点です。例えば、アカギツネに襲われたカモが死んだふりをすることによって危険を免れた例や、強制収容所に入れられていた女性がポーランドの森でナチスの銃撃を受けている最中に意識を失い、結果として助かったという事例が著書の中では紹介されています。こうした具体例を聞くと、確かに「死んだふり」や「失神」を含む警戒性徐脈は、進化の過程で動物たちが発達させてきた危険回避反応の一つである、という女史の位置づけにも説得力を感じます。
カタプレキシー
 カタプレキシー(cataplexy)とは、今まで元気だった犬や猫が突如として脱力し、床に突っ伏してしまう現象のことです。現象だけ見ると「擬死」に似ていますが、危険や外敵が迫っている訳では無いという点を大きな特徴としています。発動のきっかけとなるのは「食事」や「遊び」など何気ない行動で、通常は何の後遺症もなく回復します。原因は解明されていませんが、本来であれば危機的な状況で起こるはずの反応が、脳の中で混線を起こし、何でもない状況で発生してしまうものと考えられます。