トップ猫の心を知る猫の習性ゴロゴロとのどを鳴らす

猫がゴロゴロとのどを鳴らす~発声の仕組みからシチュエーション別の意味まで

 猫の習性の一つであるゴロゴロとのどを鳴らすという点について解説します。いったいどのような仕組みで鳴るのでしょうか?またなぜなんのためにのどを鳴らすのでしょうか?科学的な論文とともに検証します。

ゴロゴロの種類と意味

 誰しも一度は聞いたり触れたりしたことがある猫のゴロゴロ(英語:purring)。いったいなぜ猫たちはのどを鳴らすのでしょうか?またどのくらいの種類があるのでしょうか?以下ではいくつの可能性を科学的な論文とともにご紹介します。

子猫と母猫のコミュニケーション

 ゴロゴロは母猫と子猫の間のコミュニケーションツールという側面を持っています。 子猫が発するゴロゴロ音は母猫に自分の居場所を伝えるため  人間においては音の周波数が25ヘルツのとき、最低でも65デシベルの音圧がないと聞き取れないとされています。一方、猫の口から30cm地点における音圧は64デシベルです出典資料:Sissom, 1991)。2000ヘルツ以下の低い音域における猫の聴覚は人間と同じと考えられていますので、猫のゴロゴロは半径30cm以内にいる相手に特化したコミュニケーションツールであると推測されます。典型例は母猫と子猫などです。ミルクを飲む際、近くにいる母猫に自分の居場所を伝えるものの、外敵は引き寄せないという絶妙な音量設定になっているのかもしれません。
 またゴロゴロには音と振動の両方が含まれますので、母猫の耳が聞こえなくても振動の方を感知して子猫の居場所を特定することができます。母猫に押しつぶされて死んでしまう子猫がいることを考えると、音と振動の両方で位置情報を伝えた方が、不慮の事故が減って生存率が高まるということなのでしょう。

人間に気持ちを伝える

 ゴロゴロは子猫だけでなく成猫や老猫も発します。十分に成長したはずの猫が発するゴロゴロの意味は「赤ちゃん返り」でしょう。
 猫がゴロゴロとのどを鳴らす理由として最も有名なのは、「赤ちゃん返り」説猫の気持ちが子猫時代に逆戻りして甘えん坊モードになると、まるでパンをこねるかのように両方の前足で毛布をこね回したり、しっぽをピンと垂直に立てて高い声を発しながら近づいたりします。こうした事例と同様、成猫が人間になでられて授乳期の子猫のようにゴロゴロとのどを鳴らす理由は、人のことを母猫とみなして身を委ねているからだと考えられます。人間に向けて発せられるときの基本的な意味は「幸せ」「うれしい」「私は敵ではない」などです。

人間を操る

 猫はうれしい気持ちを伝えるときだけでなく、積極的に人間を操ろうとするときにもゴロゴロを利用しているようです。
 猫ののど鳴らしには「要求のゴロゴロ」というバリエーションがある2009年、イギリス・サセックス大学の研究グループは、幸せのゴロゴロとは違う「要求のゴロゴロ」(soliciting purr)があることを発見しました出典資料:McComb)。この要求のゴロゴロは、猫が飼い主に対して何らかの要望を抱いているときによく発するもので、ゴロゴロ音の中に高周波の声を含んでいるのが特徴です。音声分析で高周波の声だけを取り出して被験者に聞かせると、猫を飼ったことがない人でも、なぜか「緊急性がある」という印象を持ったとのこと。逆に高周波の声を除去したゴロゴロを聞かせたところ、通常の「幸せのゴロゴロ」と判断されるようになったとも。
 このことから研究チームは、哺乳類の養育本能を刺激する謎の「高周波の声」を含んだ「要求のゴロゴロ」というものがある可能性を明らかにしました。人間が容易に「猫の奴隷」になってしまうのは、ゴロゴロの中に隠された平均380ヘルツ(220~520)の謎の周波数のせいかもしれません。なお「通常のゴロゴロ」はこちらから、そして「要求のゴロゴロ」はこちらから確認できます(YouTube)。

呼吸を楽にする

 猫のゴロゴロには呼吸を楽にするというセラピー効果があるかもしれません。
 1973年、ニュージーランドのT.F.Cook獣医師が行った逸話的な報告によると、上気道感染症でひどい呼吸困難に陥っていたシャム猫(6歳)の寝床を交換しようと抱きかかえたところゴロゴロとのどを鳴らし始め、苦しそうだった呼吸が瞬間的に改善したといいます。猫を新しいベッドに寝かせてゴロゴロが止まると同時に、再び呼吸困難が現れたそうです。Cook氏はこの現象を「Purring therapy」(ゴロゴロセラピー)と呼び、同じ経験をしたことがある人を調べたら面白いだろうと予言しました出典資料:T.F.Cook, 1973)全身振動刺激は肋骨の動きと呼吸機能を改善する  振動が呼吸を楽にするという可能性はリハビリの分野でも検討されています。日本の南東北第二病院の理学療法士が行った報告では、周波数30ヘルツという猫のゴロゴロにかなり近い全身振動刺激により、肋骨で囲まれた空間(胸郭)の可動性や肺の機能が有意に改善したとのこと出典資料:Soeda, 2016)
 猫の呼吸数に関し、ゴロゴロがあるときのスピードは1分間に46.2回(吸うとき0.69秒 | 吐くとき0.73秒)なのに対し、ゴロゴロがないときのスピードは23.9回(吸うとき1.03秒 | 吐くとき1.59秒)といった報告もありますので出典資料:Peters, 2002)、コミュニケーションが目的ではなく自分の呼吸を楽にするために猫がゴロゴロを発するという可能性は大いにあるでしょう。「猫は死期が近づくとのどを鳴らす」とか「死に際にのどを鳴らす」といった逸話にも信憑性が出てきますね。

骨密度の維持

 健常な骨に対して振動刺激を加えると、ちょうど日常的に運動しているときと同じように骨密度の維持につながってくれるようです。
 ニューヨーク州立大学の調査チームは、閉経から3~8年が経過して骨そしょう症(※骨密度が低くなる病気)のリスクが高い女性70名を対象とし、低振幅高周波(0.3g未満 | 20~90ヘルツ)の振動が骨密度にどのような影響を及ぼすかを1年間に渡って前向きに調査しました出典資料:Rubin, 2004)。方法は女性たちをランダムで2つのグループに分け、一方には1セット10分からなる振動刺激を1日2セット加え、もう一方には振動のないマシンをあてがうというものです。
 調査を最後まで完了した56名の骨密度をDXAと呼ばれる機器を使って3→6→12ヶ月後のタイミングで計測したところ、振動のないプラセボグループでは大腿骨頭の骨密度が2.13%減少したのに対し、振動グループでは逆に0.04%増加したといいます。また脊柱に関してはプラセボが1.6%減少だったのに対し、振動グループでは0.1%の減少にとどまりました。体重65kg未満で骨への刺激が少なく骨密度が減ってしまうリスクが高い女性に限定すると、プロトコルに忠実に従った人の方が0.62%ほど高い効果が得られたそうです。
 こうした結果から調査チームは、特に体重が軽い女性においては、運動の代わりとして振動刺激を加えることで骨密度の減少が遅れ、結果として骨折予防につながるだろうとしています。運動による骨への刺激と比較したときの機械的な変形は千分の1未満であることから、振動刺激は運動とはまったく別の複雑なメカニズムを通じて骨量の維持に関わっていると推測されています出典資料:Rubin, 2006)
 猫のゴロゴロ周波数は25ヘルツくらいですので、運動不足とそれに伴う骨密度の低下を防ぐためにのどを鳴らしているという可能性が見えてきます。

骨折の治癒

 猫のゴロゴロには骨密度の維持だけでなく、骨折を治癒するヒーリング能力まであるかもしれません。
 骨折に対する振動の効果を包括的に検証したレビューでは、基準を満たした19の学術論文うち15報で、振動が骨折部位の治癒にプラスに作用したと報告されています出典資料:J. Wang, 2017)。19のうち10報は骨が体表の外に飛び出す開放性骨折、9報は組織内にとどまる閉鎖性骨折で、どちらのタイプの骨折に対しても同等の治癒効果を発揮したとのこと。また12報では低振幅・高周波振動が用いられており、35ヘルツおよび50ヘルツの周波数でとりわけ高い効果が確認されたそうです。
 詳細なメカニズムは解明されていませんが、振動が血管の新生を促すほか、軟骨や骨の形成を促進する遺伝子(Col-2やCol-1)の発現量を増やしたり、逆に骨の破壊を促進する遺伝子(TRAP)の発現量を減らすことで、遺伝子レベルで骨の治癒に関与している可能性が示されています。なおすべての論文に共通した条件ではないものの、1日20分よりも60分間振動を加えた方が骨折部の治癒を促す仮骨サイズが大きく、またミネラル化したエリアが大きかったとのこと。
 「猫には9つの命がある」という伝説の背景には、こうした自然治癒能力があるのでしょうか。

痛みを癒やす

 かなり昔から振動には痛みを癒やすセラピー効果があるとされています。
 糖尿病を原因とする末梢神経系のニューロパチー(足の先端部分)を2年前から患う64歳の男性を対象とし、20ヘルツ3分の全身振動4セットを週に5回のペースで合計4週間に渡って加えたところ、鎮痛薬では効果がなかった痛みと歩行能力が改善したといいます出典資料:Hong, 2012)。また糖尿病性の末梢神経症を患う8名を対象とし、25ヘルツ振幅5mmの全身振動3分を4セットを週に3回のペースで加えたところ、急性の痛みに関しては主観評価で有意な改善を示したといいます。また慢性の痛みに関しては主観評価でも客観評価(神経痛スケール)でも改善を示したとのこと出典資料:Kessler, 2013)猫は機嫌がいいときだけでなく具合が悪いときにもゴロゴロとのどをならす  上記した報告における周波数(20~25ヘルツ)はちょうど猫のゴロゴロ周波数と同じくらいです。猫が痛みを緩和するためにのどを鳴らしているのだとすると、「具合が悪いときにのどを鳴らす」とか「避妊手術後にのどを鳴らす」といった奇妙な現象にも説明が付きます。ちなみに予防接種を受ける子どもたちのため、冷却機能と振動とが一緒になった「Buzzy®」という商品が開発されています。注射を受ける腕にあてがいながら接種すると、不安と痛みの両方が軽くなるとのこと。ただし猫のゴロゴロに比べると周波数はかなり高めです出典資料:PainCareLabs)
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ゴロゴロが出る仕組み

 猫は体のどこからどうやってゴロゴロ音を出しているのでしょうか?実は未だにはっきり解明されているわけではありません。発声メカニズムに関しては「横隔膜の振動と声門の反復的な閉鎖出典資料:Remmers, 1972)」とか「肋間筋と末梢反射が関与している出典資料:Kirkwood ,1987)」とか「動脈の急カーブ部分を血液が流れるときの振動(Beadle, 1977)」といったさまざまな仮説がありますが、呼吸による空気の流れをのどが断続的に遮って発生しているという原理が最も有力ではないかと考えられています。根拠は以下です出典資料:Simmons, 1991)
ゴロゴロ音の特徴
  • 吸気相と呼気相の両方で聞かれる
  • 呼気と吸気が切り替わる際、一瞬だけ途切れる
  • 音圧は喉頭部が最も大きい
  • 喉頭麻痺の猫ではゴロゴロが聞かれない
  • 腹部では音圧が小さい
  • 他の声と同時に発することができる
 息を吸うときと吐くときにほんの一瞬(30~50ミリ秒)だけ音が途切れることから、血流ではなく呼吸する際の空気の流れがエネルギー源になっていると考えられています。また音圧はのど元(喉頭部)が最大で、そこから遠ざかるほど小さくなることから、発生装置が横隔膜や肋間筋ではなくのどにあることは間違いないでしょう。「にゃ~お」など他の声と同時に発することができることから、発生装置が声帯でないことは確かです。かといって、人間の口蓋垂(のどびこ)に該当する組織は猫にありませんので、フランス語の「R」を発音するときのように、のどの奥に垂れ下がった軟部組織を振動させているという説も否定されます。
 こうしたデータから考え、猫のゴロゴロ音は呼吸による空気の流れを喉頭にある筋肉が断続的に収縮することによって発生していると推測されます。喉頭神経や胸部の感覚神経が働いていなくても音を出せることから、神経と筋肉の間の反射というより、中枢神経レベルに存在している発振器でコントロールされている可能性が大です。
 以下でご紹介するのはゴロゴロとのどを鳴らすチーターの動画です。のど元の皮膚が大きく揺れているのが見て取れます。猫も同じ場所で音を発生させているものと推測されます。もしイエネコがチーターと同じくらいの大きさだったら、おそらく触らなくても見ただけで振動していることを確認できるでしょう。 元動画は→こちら
 なおのどの神経が麻痺し、輪状披裂筋と呼ばれるとても小さな筋肉が動かせなくなった猫ではゴロゴロができなくなったといいます。このことから、のど元にある披裂軟骨が左右同時に外転することが、ゴロゴロ音の発生に深く関わっていると推測されています出典資料:White, 1994)
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ゴロゴロ音の周波数

 ゴロゴロ音の大きさは猫によって生涯変わらないようです。またゴロゴロの周波数変動は大きくても20%程度で、声帯が発する声ほどたくさんのバリエーションはありません。
 アメリカにあるテュレーン大学の調査チームは保護施設内で暮らす10頭の猫を対象とし、ゴロゴロ音の音響学的な解析を行いました出典資料:Sissom, 1991)。猫たちの年齢は10週齢~8歳以上、体重は0.7~6.6kgとバラバラです。猫の口周辺、のどの上の方(喉頭直上)、一番上の乳首レベル(横隔膜直上の胸部)、3番目の乳首レベル(腹部)にセンサーを取り付けてゴロゴロ音の大きさや音圧を測定したところ、周波数の平均は26.3ヘルツ(1秒間に23~31回)だったといいます。息を吸い込む吸気相より息を吐き出す呼気相の方が2.4ヘルツほど高くなるという特徴も確認されました。12週齢から3歳に至るまでの間、さまざまなポイントでゴロゴロの特性を計測した1頭に関しては、基本周波数に変化は見られなかったとも。その他、猫の胸囲、鼻先から臀部までの体長、体重、性別、年齢と周波数とは無関係でした。
 音圧は肺の外側や口と鼻付近が一番強く、口から3cm付近では84デシベルを記録しました。胸部の振動音圧に関しては胸囲と体重が大きいほど小さくなるという関係性が確認されましたが、その他の場所では劇的に小さくなるかまったくなくなったため、同様の関係性は検証はできなかったそうです。
NEXT:ゴロゴロを止めるには?

ゴロゴロがうるさいとき

 猫のゴロゴロは基本的に満足感や幸福を感じているときに出るものですが、例外もあります。その一例が、動物病院における診察時です。見知らぬ場所や人間たちに囲まれてひどく緊張しているはずですが、かなり多くの猫が診察台の上でゴロゴロとのどを鳴らすことが確認されています。 診察中に猫がゴロゴロ喉を鳴らすと病気の重大な徴候を聞き漏らす可能性がある  イギリス・ケント州にあるバートン動物病院を中心としたチームは、動物病院で猫を聴診する際、いったいどのくらいの割合でゴロゴロとのどを鳴らすかを調べました出典資料:Little, 2013)。特定の期間に限定してカウントしていったところ、診察を行った341頭(オス180頭+メス161頭)中、18.2%に相当する62頭でゴロゴロが確認されたといいます。確実な年齢がわかっていた296頭の平均は8.2歳で、年齢、性別、品種、不妊手術の有無、病気の有無とゴロゴロの発生率に関係性はなかったとのこと。
猫のゴロゴロを一時的にやめさせる効果的な方法は蛇口から流れ出る水  さらにランダムで選んだ30頭を対象とし、ゴロゴロを効果的にやめさせる方法を検証したところ、「耳に息をかける」の成功率が14%(2/14)、「診察台にエアロゾルを噴霧する」が50%(9/18)、そして「蛇口を捻って水道から水を出す」が81%(17/21)だったそうです。一方、「鼻を触る」や「キーキー音のなるおもちゃを鳴らす」にはほとんど効果がありませんでした。
 日常生活において猫のゴロゴロを強引にやめさせる理由は全くありませんが、病院での聴診時に出てしまうと肺の発する異常呼吸音、心臓の奔馬調律、心雑音調律異常などを聞き落としてしまう危険性があります。なぜ効果的なのかはわからないものの、猫から50cm~2mの距離で、250mLのコップが2~10秒で満杯になるくらいの勢いで水道の水を出すと、かなり高い確率で一時的にゴロゴロをやめさせることができるとしています。一般の飼い主が使うシチュエーションはないでしょう。
NEXT:のど鳴らし型動物とは?

のどを鳴らすネコ科動物

 ネコ科動物は2つの亜科、8つの系統、14の属、41の種、80の亜種に分類されます。のどを鳴らすことができるのはイエネコが属する「ネコ亜科」(Felidae)の動物たちだけで、「ヒョウ亜科」(Pantherinae)に属する動物たちは猫のようにはっきりとしたゴロゴロ音を出すことができません。こうした特徴から前者を「のどを鳴らし型」(purrer)、後者を「咆哮型」(roarer)と呼び分けることもあります。咆哮とは「ガオ~!」という唸り声のことです。 ネコ科動物一覧
発声による分類
  • のど鳴らし型(ネコ亜科)チーター, アジアゴールデンキャット, クロアシネコ, ヨーロッパヤマネコ, ステップヤマネコ, ジャガランディ, オセロット, ジャガーネコ, マーゲイ, サーバル, オオヤマネコ, ボブキャット, ベンガルヤマネコ, マーブルキャット, クーガー, イエネコ
  • 咆哮型(ヒョウ亜科)ウンピョウ, ライオン, ジャガー, ヒョウ, トラ, ユキヒョウ(※できるとする報告もあり)
ネコ科動物は発声様式により「のどを鳴らし型」(purrer)と「咆哮型」(roarer)に分類される  1916年とかなり昔から、のどを鳴らすことができるかどうかは動物たちののどの中にある「舌骨装置」(ぜっこつそうち, hyoidean apparatus)と呼ばれる組織によって決まるという説がありました。後年になって行われた詳細分析では、舌骨装置に柔軟な弾性繊維が含まれている場合は「咆哮型」、完全に骨化している場合は「のどならし型」になる傾向が実際に確認されています出典資料:Weissengruber, 2002)
 しかし舌骨装置が直接的に発声に影響していると言うよりは、ヒョウ亜科の声帯ひだに共通して見られる柔軟性に富む巨大な隆起組織がのどならしを難しくしているのではないかと考えられています。理由は、のどを細かく振動させても、隆起部がクッションとなって音を吸収してしまうからです。
 一方、舌骨装置が影響しているのはのどの位置と声の周波数の方だと考えられます。例えば舌骨装置の一部(上舌骨)が柔軟だとのどが下の方にずり下がり、声を共鳴させる声道が長くなことでフォルマント周波数が低くなります。平たく言うと「低くてマッチョな声になる」ということです。それに対し、舌骨装置がカチカチに骨化してしまうと、のどの位置と共に声道が短いまま固定されてしまい、フォルマント周波数が高くなります。平たく言うと「猫なで声になる」ということです。 ライオンとイエネコの舌骨装置・比較図  ライオンとイエネコの舌骨装置を比較すると上の図のようになります。声の共鳴空間である声道(唇から声門までの距離)の長さに関し、ライオンが380mmなのに対しイエネコはわずか80mmです。共鳴空間が大きい分、ガオ~と迫力のあるバリトンの咆哮が可能になります。
NEXT:ゴロゴロQ&A集

猫のゴロゴロQ & A

 以下は猫ののど鳴らし(ゴロゴロ)についてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。

ゴロゴロセラピーとは何?

猫のゴロゴロで人を健康にするという民間療法のことです。

 言葉自体は、2009年にフランスで出版された「La ronron therapie」(ロンロンテラピィ)という本で一躍有名になりました。「ronron」とはのど鳴らしを意味する「ronronnement」(ロンロヌマン)のことです。25ヘルツから50ヘルツの低周波数を聞くと、海馬-扁桃体回路が活性化し、トラウマなどによる恐怖と競合してストレスの軽減につながるとか出典資料:PSYCOLOGIES)、20ヘルツの全身振動で「幸福ホルモン」であるセロトニンの脳内レベルが上昇する出典資料:Ariizumi, 1983)などいろいろな主張がなされていますが、科学的にはっきりと証明されたわけではありません。
 猫を抱っこして体に伝わってくる振動を感じていると、心身ともに気持ちよくなることは確かですので、多くの人にとって科学的な検証はそれほど必要ないでしょう。

ゴロゴロのギネス最大記録は?

2020年7月の時点ではイギリスの猫「マーリン」が保有しています。

 普通の猫が発するゴロゴロを、猫から30cm離れた地点で計測したときの音圧は64デシベルとされています。一方、猫の「マーリン」が記録した67.8デシベルは、1m離れた地点で計測した値です。ですから通常の2.5~3倍くらい大きいと考えてよいでしょう。
 以下でご紹介するのは、世界一大きな「ゴロゴロ」を鳴らすことでギネス記録に公認された猫「マーリン」の動画です。1メートルの距離で測ったときの大きさは「67.8デシベル」で、これは通常の猫(25デシベル)の2.5倍に相当します。 元動画は⇒こちら

帰宅したときのゴロゴロの意味は?

寂しかったのかもしれません。

 2017年にスウェーデン農業科学大学が行った調査では、飼い主と離れ離れになっている時間が30分のときよりも4時間のときの方が、再会したときのゴロゴロが増えたと報告されています。猫は孤独を好むと思われがちですが、あまりにも長い時間一人ぼっちにされると、寂しさから気分が「子猫モード」に戻り、親猫とみなしている飼い主と再会したときに思わずゴロゴロが出てしまうのかもしれません。 猫は飼い主の外出時間が長くなるほど強く寂しさを感じる?

母猫が発する「クルル」という音は何?

「Greeting Chirp」と呼ばれる特殊なゴロゴロ音です。

 メキシコ・トラスカラ自治大学を中心としたチームは、母猫と子猫の間における音声的なコミュニケーション能力を調査するため、「Meow」(ニャオ)と「Greeting Chirp」(※)と呼ばれる2種類の声を、子猫の母猫、および子猫とは血縁関係のない全く別のメス猫から録音し、子猫に聴かせてリアクションを観察しました。
 「Greeting Chirp」(グリーティングチャープ)とは、母猫が子猫に対して用いる声の一種。まるでうがいをするように、「クルルルル」とのどの奥で音を細かくを刻みながら出す。 元動画は→こちら
 その結果、自分の母猫の「Greeting Chirp」に対する反応が最も大きかったと言います。こうした事実から研究チームは、母猫が発する「Greeting Chirp」には音声学的な特徴が含まれており、子猫は声の特徴を聴き分けて自分の母親を認識することができるとの結論に至りました。子猫はゴロゴロで自分の居場所を授乳中の母猫に伝え、母猫はそれに「Greeting Chirp」で応えているのかもしれませんね。 母猫と子猫は特殊な声で会話している

ゴロゴロから突然噛み付いてきます

愛撫誘発性攻撃行動でしょう。

 愛撫誘発性攻撃行動とは、なでられて気持ちよさそうにしている猫の目が突然カッと見開き、一目散に逃げ出したり突然噛み付いてくるジキルとハイド的な行動のことです。理由はよくわかりませんが、一瞬寝ぼけて、自分が外敵に組み伏せられていると勘違いするのかもしれません。噛み付いた後は毛づくろいなどして、まるで何事もなかったかのようにごまかすのがお約束です。悪気はありませんので許してあげましょう。

音がすいぶん低いようです

平均周波数は26.3ヘルツですので正常です。

 猫が発するゴロゴロの周波数は26.3ヘルツですので、88鍵ピアノの一番低い音(27.5ヘルツ)よりも少し低いくらいに相当します。通常の声とは違い、そもそもかなりの低周波ですので、低いからと言って異常というわけではありません。なお以下は「のど鳴らし型」に属するネコ科動物におけるゴロゴロの周波数です。猫よりもさらに低いことがわかりますね出典資料:Peters, 2002)
成長段階周波数体重
チーター成獣17.5Hz50kg
ジャガーネコ子獣19.5Hz0.6kg
ボブキャット10ヶ月齢19.7Hz6kg
クーガー6ヶ月齢16.6Hz14kg
クーガー成獣16.8Hz50kg
 以下でご紹介するのはチーターのゴロゴロ音を記録した動画です。チーター(Acinonyx jubatus)はイエネコとともにのど鳴らし型(purrer)の代表格であり、南アフリカにある「Dell Cheetah Centre」などで音響学的な研究なども行われています出典資料:Eklund, 2011)元動画は→こちら

ブヒブヒと変な音がします

鼻が詰まっているのではないでしょうか。

 アメリカ・テュレーン大学が行った調査では、猫のゴロゴロは口と鼻付近で一番強く聞こえたとされています。おそらくのど元で発生した音が鼻腔や口腔で共鳴して増幅された結果だと考えられます。もしブヒブヒとブタのような音が出ていたり、ガーガーとガチョウのような閉塞音が聞かれるような場合は、空気の流れが鼻の中でブロックされている可能性が大です。
 急に音が変になった場合は感染症にともなう鼻閉、鼻腔内の異物混入、腫瘍などの可能性がありますので動物病院を受診しましょう。もし品種がペルシャエキゾチックショートヘアで、生まれつきブヒブヒと閉塞しているような場合は短頭種気道症候群(鼻ぺちゃ)という遺伝病ですので、場合によっては外科手術が必要になるかもしれません。根本的な解決法は繁殖自体を虐待として禁じることです。 猫が鼻ぺちゃであるほど呼吸に難があることが判明 ペルシャ猫に特有な鼻ぺちゃ顔貌

ゴロゴロが聞こえません

喉頭麻痺という病気の可能性があります。

 喉頭麻痺とは、のどに分布している運動神経に障害が生じ、喉頭にある筋肉群がスムーズに動かなくなった状態のことです。イギリス王立獣医大学が行った症例報告では、喉頭麻痺を発症した猫4頭のうち全頭で発声異常(声がおかしい)が見られたほか、2頭ではゴロゴロができなくなったといいます出典資料:White, 1994)。またカナダ・サスカチュワン大学が行った症例報告では、喉頭麻痺を発症した3頭のうち全頭で発声異常およびのど鳴らし不全が確認されたとも出典資料:Campbell, 1984)
 アメリカ・カリフォルニア大学デイヴィス校が行った症例報告では、以下のような症状が多かったとされています出典資料:Schachter, 2000)
喉頭麻痺の症状(猫)
  • 発声異常(声・ごろごろ)
  • 呼吸が速い
  • 呼吸困難(口を開けて息をする)
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 元気喪失
 犬に比べると発症頻度は低いですが、原因としては首元への外傷(衝突・犬に噛まれるなど)、腫瘍による神経の圧迫、胸部腫瘤、神経筋の疾患などが考えられます。左右両側の神経が麻痺して呼吸困難が引き起こされている場合は外科手術が必要となりますので、早急に動物病院を受診してください。 猫の喉頭麻痺
猫と日常的に触れ合い、幸せのゴロゴロをしっかり耳と体で覚えておきましょう。声やのどに変化があると、すぐに気づくことができるようになります。