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バーミーズに多い病気~原因・遺伝性から検査・治療法まで

 バーミーズがかかりやすい病気を原因、遺伝性、検査法、治療法などに分けて一覧リストでご紹介します。なお出典データには海外のものも含まれているため日本に暮らしている猫には必ずしも当てはまらないことがあります。

糖尿病

 糖尿病とは血流中の糖分(グルコース)をうまく細胞内に取り込むことができず、血糖値が高い状態で維持されてしまう病気。診断は身体検査や血糖値の測定を通して下します。治療法はインスリンの投与と食事療法がメインです。 糖尿病の症状・原因・治療

有病率

 2009年9月~2014年8月の期間、王立獣医大学のチームがイギリス国内にある118の動物病院を受診した合計194,563頭の猫を対象として大規模な疫学調査を行った所、バーミーズの有病率は2.27%、発症リスクは標準の3倍になることが明らかになりました(→詳細)。

疾患遺伝子(?)

 2013年、オーストラリア・クイーンズランド大学の調査チームは、2型糖尿病を発症したバーミーズ19頭と発症していない16頭とを対象とした遺伝子調査を行いました(→出典)。その結果、バーミーズの糖尿病には常染色体優性遺伝で伝わる何らかの遺伝子が関わっている可能性が浮上してきたといいます。ただし浸透度が15~60%と低いことから、疾患遺伝子を保有していたとしても、必ずしも病気を発症するわけではないとのこと。調査チームは、バーミーズにおける糖尿病の高い有病率は、少ない個体数を元に繁殖を繰り返した結果、疾患遺伝子を保有する子孫が増えてしまったことが原因ではないかと推測しています。なお、具体的にどの染色体上にあるどの遺伝子が疾患に関わっているのかはまだ解明されていません。

猫伝染性腹膜炎(FIP)

 猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、猫腸コロナウイルスが突然変異を起こして強い病原性を獲得し、腹膜炎を特徴とする激しい症状を引き起こす致死性の高い病気。今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」(FECV)と致死性の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)を事前に見分ける有効な方法は存在していません。ひとたび発症してしまうと効果的な治療法がなく、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるためのネコインターフェロンの投与、炎症を抑えるための抗炎症薬の投与などで様子を見るというのが基本方針です。猫伝染性腹膜炎の症状・原因・治療

有病率と発症リスク

 1986年12月から2002年12月の16年間、ノースカロライナ州立大学付属の動物病院を受診した11,535頭(純血種2,024頭)の猫を対象とし、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症リスクが検証されました。その結果、全体の0.52%に相当する60頭の猫でFIPと診断され、雑種(0.35%)よりも純血種(1.3%)のほうが発症しやすい傾向が確認されたといいます。また品種と発症頻度を統計的に検証したところ、バーミーズの発症頻度が2.7%(1/62)で、雑種より8倍も発症しやすいことが明らかになりました。調査チームはFIPの発症メカニズムは多因子的であることを認めつつも、ある特定の品種でかかりやすい傾向がある事実は否定できないとしています(→出典)。

FOPS

 「FOPS」(Feline Orofacial Pain Syndrome, フォップス)とは、口腔内の痛みに端を発する様々な症状の総称で、直訳すると「猫口腔顔面痛症候群」となります。口を動かす動作によって口内の痛みが誘発され、ひとたび痛みが発生すると、数分から数時間に渡って持続します。顔の中を走る「三叉神経」(さんさしんけい)が関わる神経因性疼痛の一種だろうと推測されていますが、その発症メカニズムに関してはよくわかっていません。 FOPSの症状・原因・治療

発症リスク

 2010年に行われた調査によると、FOPS(フォップス)を発症した猫113頭のうちバーミーズが100頭(88.5%)を占めていたといいますので、この品種内で固定された疾患遺伝子が発症に関わっていることは間違いないと考えられます。

顔面奇形

 顔面奇形とは生まれつき頭部の骨が正常に形成されない病気。バーミーズの子猫で見られるのは顔面中央部の無形成や髄膜脳瘤といった顔面部の奇形で、「前頭鼻骨異形成」(Frontonasal dysplasia, FND)とも呼ばれます。

疾患遺伝子

1986年、ニューヨーク州立大学とコーネル大学のチームは、生まれたてのバーミーズの子猫で見られる前頭鼻骨異形成に関する遺伝的な考察を行いました(→出典)。その結果、この奇形はバーミーズが1940年代以降、マズルの短い短頭種になるよう強引に選択繁殖された結果であると結論づけています。遺伝形式は常染色体優性遺伝で、両親のどちらかから1本でも疾患遺伝子を受け継いだら発症する可能性があるとのこと。また両親から1本ずつ受け継いだ「ホモ型」の子猫においては、重度の奇形から母体内で死ぬか生後間もなく死ぬことを運命づけられているとも。短頭種個体の死亡率が25%という極めて高い値に達するため、短頭の度合いが強い「コンテンポラリーバーミーズ」同士の繁殖は倫理的に容認できないとしています。1940年代から1980年代にかけ、従来のバーミーズは短頭の度合いを強めコンテンポラリーバーミーズとなった  さらに2016年、アメリカの複数の大学からなる共同チームが顔面奇形を抱えたバーミーズを対象として遺伝子調査を行い、ネコB4染色体にある「ALX1」と呼ばれる遺伝子の欠失変異が奇形の原因であること突き止めています(→出典)。

低カリウム血症

 低カリウム血症とは、血液中に含まれるカリウム(K)の濃度が低下し、筋肉が正常に収縮しなくなってしまう病気。診断は血液検査を通して下します。治療は血中カリウム濃度の正常化です。

疾患遺伝子

 2012年、カリフォルニア大学デイヴィス校のチームは、低カリウム血症を発症した35頭と健康な猫25頭を対象とした遺伝子比較を行いました(→出典)。バーミーズの低カリウム血症はWNK4遺伝子の変異によって引き起こされる その結果、ネコE1染色体にある「WNK4」と呼ばれる遺伝子のナンセンス変異が病気の原因となっている可能性が浮上してきたといいます。遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、両親から変異遺伝子を1本ずつ受け継いだときに発症するとのこと。詳細なメカニズムは分かっていませんが、おそらく腎臓から過剰な量のカリウムが喪失し、筋肉が正常に機能しなくなるものと推測されています。

緑内障

 緑内障とは、眼球の中を流れる「眼房水」と呼ばれる体液を正常に循環させることができず、目の中に貯留して眼圧が上昇してしまう病気。最悪の場合では視神経へのダメージから失明してしまいます。診断は眼底検査や眼圧測定、隅角検査や網膜電図などを通して下します。治療は上昇した眼圧を下げるための投薬や点眼がメインです。緑内障の症状・原因・治療

疾患遺伝子(?)

 2002年、オーストラリア・クイーンズランドにある動物病院の調査チームが、原発性の狭隅角緑内障を発症した6頭のバーミーズに関する症例報告を行いました(→出典)。バーミーズで見られた原発性狭隅角緑内障 他の疾患に伴って発症する「二次性」ではなく、明確な基礎疾患がない状態で発症する「原発性」だったことから、調査チームは他の哺乳動物で確認されているのと同様、何らかの遺伝的な素因が関与しているのではないかと推測しています。しかし症例自体がそれほど多くないため、現時点でバーミーズにおける緑内障の発症リスクを高めてしまうような遺伝子は特定されていません。

皮膚無力症

 皮膚無力症とは、皮膚に含まれる膠原線維(コラーゲン)の質や量に異常があり、皮膚が異常に伸びてしまう病気。人医学ではエーラスダンロス症候群やコラーゲン異形成症とも呼ばれます。診断は腰背部の皮膚を摘んだときの長さと体長との割合(皮膚伸張度指数)で下します。根本的な治療法はありませんので、猫も飼い主も障害と付き合いながら暮らしていくことになります。具体的には皮膚が破れないよう部屋の中から鋭利なものを徹底的に排除するなどです。

疾患遺伝子

 バーミーズにおいては2000年に入ってから症例報告が行われるようになり、皮膚の異常な伸長性のほか、壊死性の痂皮(かさぶた)、萎縮性の脱毛などが特徴とされています。症例報告はオーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパなどでなされていますが、特にオーストラリアの個体に多いようです。遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、両親から疾患遺伝子を1本ずつ受け継いだときに発症する常染色体劣性遺伝です(→出典)。

脂質代謝異常

 脂質代謝異常とは、炭水化物、タンパク質、脂質という三大栄養素のうち「脂質」の代謝がうまくいかない状態のこと。肥満糖尿病との関連性が指摘されています。

脂質給餌試験の結果

 2009年、オーストラリア・シドニー大学の調査チームは、シドニー中心部にある繁殖施設から25頭、動物病院から43頭をランダムで選出し、脂質を給餌した後における血中トリグリセリド濃度を比較しました(→出典)。猫たちの内訳はバーミーズ33頭、雑種17頭、バーミーズ以外の純血種18頭というものです。その結果、食後4および6時間における血清トリグリセライド(TG)の中央値に関し、バーミーズは他の猫に比べて有意に高いことが判明したといいます。また空腹時に高トリグリセリド血症は見られなかったものの、食後4時間のTGが6.0 mmol/Lを超えていたバーミーズでは、VLDL(超低密度リポタンパク質)濃度が高値を示す傾向にあったとも。こうした結果から調査チームは、オーストラリア国内にいるバーミーズの多くは体質的に脂質の代謝が遅いのではないかという可能性を示しました。

疾患遺伝子(?)

 2012年、日本の調査チームはやせ気味のバーミーズとやせ気味の雑種、および太り気味の雑種を対象とした比較調査を行いました(→出典)。それぞれの猫から末梢血白血球(PBLs)を採取し、エネルギーの代謝に関与した遺伝子の発現を調べた所、バーミーズと他の猫たちとの間にほとんど違いは見られなかったといいます。ただバーミーズでは脂質の合成を調整するACL(ATPクエン酸シンターゼ)とFAS(脂肪酸合成酵素)の発現度が強い傾向が見られたとも。さらにバーミーズでは、VLDC(超低密度リポタンパク質)の濃度が太り気味の雑種猫の2倍近かったそうです。こうした結果から調査チームは、バーミーズは遺伝的に脂質代謝に異常があるのではないかと推測しています。