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猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の猫汎白血球減少症(はんはっけっきゅうげんしょうしょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫汎白血球減少症の原因

 猫汎白血球減少症はパルボウイルスに属する猫汎白血球減少症ウイルス(Feline Panleukopenia Virus, FPV)によって引き起こされる感染症です。ウイルスは一本鎖DNAで直径は18~28ナノメートル、ウイルスの中では最小の部類に入ります。 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)の顕微鏡写真と分子構造模式図  その他の呼び方としては「猫ジステンパー」「猫感染性腸炎」「猫パルボ」などがあります。感染力が強く、集団生活している猫たちの命を次々に奪うことから「猫の疫病」(cat plague)と呼ばれることもしばしばです。最初に報告されたのは1928年ですが、実際はそれよりも遥かに昔から存在していたものと推測されます。

猫パルボウイルスの特徴

 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)は物理的および化学的な干渉に非常に強いという、エンベロープを持たないウイルスに共通の特性を有しています。その結果、宿主がいなくても環境中で数ヶ月間も感染能力を保ったまま生存することが可能です。また室温で有機媒体と接触しているような場合は、1年以上生存することもあります。 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)はグルーミングを通じて猫の尻→口→被毛へと広がる  感染初期におけるウイルスの排出は、猫の唾液、鼻粘液、尿、血液などあらゆる体液に含まれますが、通常は1~2日で収まります。しかしグルーミングを通じてウイルスが尻、口、被毛などにすでに広がっている可能性を否定できません。また食器、水飲みボール、トイレ、ベッド、床に付着している可能性もあります。
 その後は特に消化管とつながった糞便中に多く排出されるようになります。その数は天文学的で、糞便1g中に10億(TCID50)程度です。残念なことに、糞便中への排出は症状が消えてからも6週間程度持続することがありますので油断なりません。パルボウイルスの感染力を示す例としては、マリオン諸島における猫駆逐作戦が有名でしょう。南アフリカ南東に浮かぶマリオン島内ではかつて、増えすぎた猫の数を減らすため、人為的にこのウイルスが持ち込まれました。その結果、1977年の時点では3,405匹だった猫が、わずか18ヶ月間で半分近くにまで減少したといいます。

猫パルボウイルスの感染ルート

 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)の直接的な感染ルートは、ウイルスに汚染された体液を口や鼻粘膜に接触させてしまうというパターンです。間接的な感染ルートとしては、ウイルスに汚染されたトイレ、食器、水飲みボール、床、被毛をなめるというものがあります。 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)は糞便や唾液を通じて広がる  盲点になりやすいのはノミ皮膚炎です。感染猫の血液を吸ったネコノミが他の猫に引っ越し、その猫がグルーミングを通してネコノミを食べてしまうことで感染が成立するものと考えられます。また感染猫を触った人間の手、靴、衣服にウイルスが付着し、そのまま他の猫と接することで感染させてしまうというパターンもあります。

犬パルボウイルスとの関係

 パルボウイルスには主に猫に感染する猫パルボウイルス(FPV)のほか、犬に感染する犬パルボウイルス(Canine Parvovirus, CPV)、ブタに感染する豚パルボウイルス(PPV)、ミンクに感染するミンク腸炎ウイルス(MEV)などがあります。こうしたウイルスは種特異性が高く、FPVが犬に感染することも、逆にCPVが猫に感染することもないというのが一般的な考えです。しかし近年の調査では種を超えて感染する可能性が指摘されています。

犬のFPV感染

 猫に感染するパルボウイルスはイエネコ、ライオン、ボブキャット、リンクス、トラといったネコ科動物だけでなく、イヌ、アライグマ、ミンク、キツネなどにも感染することが確認されています。ただし犬に感染した場合はリンパ組織(胸腺など)での部分的な増殖は認められるものの、消化管での増殖は起こらず、排泄物を介したウイルスの排出も起こりません。

猫のCPV感染

 通常の犬パルボウイルス(CPV)が猫に感染することはありません。しかしCPVのサブタイプである「CPV-2」と呼ばれる系統の中には、猫に対する感染能力を持ったものがいくつか確認されています。
 「CPV-2」は1978年に犬から分離されたウイルスです。従来の犬パルボウイルスと区別するため「CPV-2」と命名されました。CPV-2はおそらく、FPVのキャプシドプロテイン遺伝子に変異が起こり、5~6個のアミノ酸の組み換えが生じたことで犬が保有する細胞レセプターに結合しやすくなったものと考えられています。犬から分離された当初のCPV-2は猫に対する感染性を持っていませんでしたが、1980年に入ってから30年かけて変異を繰り返し、現在では猫にも感染可能なサブタイプ「CPV-2a」「CPV-2b」「CPV-2c」が確認されています。 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)と犬パルボウイルス(CPV)は遺伝的に近い  猫のCPV-2系統ウイルス感染はアメリカにおいては稀なケースです。ドイツでは汎白血球減少症を発症した猫の10%、イギリスでは臨床上健康な猫の33%で検出されたとの報告があります。これらの猫は症状は示していなかったものの長期に渡って糞便中にウイルスを排出していたとのこと(Clegg, 2012)。
 一方、ベトナムや台湾といったアジアにおいては時として80%という非常に高い感染率が報告されており、臨床症状を引き起こすことが確認されています。さらにイタリアではFPVとCPV-2aの中間の特性を持ったウイルスが分離されていますので(Battilani et al., 2013)、今もなお変異を繰り返して着々と感染域を広げているやっかいなウイルスと言えるでしょう。

FPVとCPVの区別

 やっかいなのは、猫がCPV-2系統ウイルスに感染した場合、FPVと区別することがかなり難しいという点です。近年はウイルスのキャプシドタンパクに含まれる塩基の配列をPCRと呼ばれる技術によって区別する技術がありますが、臨床の現場ではもっぱら検査キットが用いられます。ですから検査キットで「FPV陽性」と判定されても、実際には「CPV-2系統」に感染しているということも大いにありうるわけです。 パルボウイルスのキャプシドタンパク(VP2)に含まれるアミノ酸配列比較表

猫パルボウイルスの感染率

 ウイルス感染を示す抗体陽性率に関し、アメリカで267頭のペット猫を対象とした調査では67%、ドイツで350頭の猫を対象とした調査では71%、コスタリカでは93%、フロリダでは40%、フランス北東部では25%という数字が報告されています。しかしこれらの中にはCPVに対する抗体も含まれているため、純粋な「FPV感染率」に関してはよくわかっていません。
 日本における感染率も不明ですが、動物保護施設など病歴のわからない猫がたくさん集まるような場所においてはリスクが高まります。たとえば2018年には、パルボウイルスが発覚したにもかかわらず強引に営業を続けていた東京都立川市の猫カフェが大問題となりました。
 屋外で生まれた猫の多くは生まれてからの1年間でFPVに遭遇すると考えられています。運良く生き残った猫の体内には抗体ができていますので、体内に抗体があることは今現在ウイルスを保有していることではなく、ウイルスを自力で駆除したことを意味しています。

猫汎白血球減少症の症状

 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)による症状は無症状~12時間以内の急死までさまざまです。こうした症状の重さは猫の免疫力、年齢、併存症の有無で左右されます。

初期症状

 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)が口や鼻から入ると、扁桃腺などにあるリンパ細胞に侵入します。その後18~24時間で分裂を開始し、2~7日で血中に現れるようになります。
 急性期の症状は40~41.7℃の高熱、元気喪失、食欲不振、流涎(よだれを垂らす)などです。水飲みボールの前でじっとしたまま動かないとか、腹痛のため背中を丸めた不自然な姿勢を取り続けるといった徴候を示すこともあります。急性期の痛みを抱えている猫に特有のしゃがみこみ姿勢と土下座姿勢  発熱から1~2日後には下痢、脱水、食事とは無関係なタイミングでの嘔吐などが引き起こされます。しかし免疫力が弱い生後5ヶ月齢未満の子猫では、発症から12時間以内に死亡してしまう甚急性型の転帰をとることが少なくありません。その場合、ほぼ100%の割合で循環血液量減少性ショックが先行します。一方、発症から最初の5日間をなんとか乗り越えたら数日~数週で回復する見込みが大です。

慢性期症状

 全身に行き渡った猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)を免疫応答によって駆逐できなかった場合、ウイルスが増殖して様々な症状を示すようになります。ウイルスが自己複製するためには有糸分裂が活発に行われている細胞が必要ですので、結果として以下のような組織が主にターゲットとなります。

リンパ組織

 血液やリンパ節に含まれるリンパ球に感染し、アポプトーシス(自己崩壊)を引き起こします。その結果がリンパ球減少症です。白血球数(WBC)は50~3,000/μLまで低下し、とりわけ好中球の減少が顕著というのが特徴です。一般的にWBCが2,000/μLを切ると回復は難しいとされます。

骨髄

 ウイルスが骨の中にある骨髄に達すると、造血幹細胞に感染して血液細胞の分化を妨げます。白血球の分化が妨げられた結果が汎白血球減少症、血小板の分化が妨げられた結果が血小板減少症、赤血球の分化が妨げられた結果が貧血です。

消化管

 小腸や大腸の表面にある腸陰窩など分裂が活発な細胞に感染し、上皮の再生を阻害します。その結果、上皮細胞の欠落が起こり出血性腸炎、腸絨毛の短縮化などが引き起こされます。このようにして現れるのが下痢、血便、脱水といった症状です。また重症例では腸管バリアが壊れることで腸内細菌が血中に入り込み、敗血症が引き起こされます。

胸腺

 胸の中心にある胸腺と呼ばれる腺組織に感染して萎縮を招きます。その結果引き起こされるのがリンパ球減少症です。

心筋?

 心筋症で死んだ猫の心筋細胞内からFPVのDNAが多く検出されることから標的細胞になっている可能性があります。しかし今のところ実証されていません。

新生子の症状

 妊娠初期の母猫が感染してしまった場合、胎盤を通じて胎子にウイルスが移行し、胎子吸収、死産、流産につながります。妊娠後期の母猫が感染してしまった場合もやはり胎盤を通じて胎子にウイルスが移行し、この時期に活発な分裂が行われている小脳のプルキンエ細胞が障害を受けます。結果として小脳が正常に発達しない小脳低形成が引き起こされ、仮に死産を免れたとしても小脳性運動失調を示すようになります。具体的には企図振戦、測定過大、歩幅が大きい、姿勢反射の減弱、歩行時のよたつき、まばたき反射の喪失などです。また眼球に感染が及んだ場合は網膜の異形成、変性、視神経低形成が引き起こされます。
猫の小脳低形成
 以下でご紹介するのは小脳低形成を抱えた猫の動画です。運動の調整と統合を司る小脳が未発達なため、手足をうまく動かせません。しかしそれ以外の機能は正常なため、飼い主の理解さえあれば普通の暮らしを送れます。 元動画は⇒こちら

猫汎白血球減少症の検査・診断

 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)に感染しているかどうかを調べる際は、ウイルスの存在を示す何らかの目印を体内から検出します。具体的にはウイルスが保有する「抗原」や「DNA」、体内で作られる「抗体」などです。

FPV抗原検査

 抗原検査とはウイルスの表面にある特定の分子構造(抗原)を検知することで体内にウイルスがいることを判定する検査です。FPV抗原を検知するための専用キットはありませんが、犬パルボウイルス(CPV-2)と構造が似ているため、犬用に開発された抗原テストキットが用いられます(英名:SNAP Parvo Antigen Test/和名:スナップ・パルボなど)。 スナップパルボの使用手順解説  しかしそもそも猫用として使うことは想定されていないため、メーカーの公式サイトでも「オフラベル使用ならどうぞ」との断り書きがあります。要するに「自己判断で使うのは構いませんが成績は保証しません」ということです。

抗原検査キットの精度

 テネシー大学が97頭の猫を対象として行った調査(Abd-Eldaim, 2014)では、PCR検査(後述)で54頭が陽性と判定されたのに対し、検査キットでは55頭が陽性と判定されたといいます。こうした結果からPCRに匹敵する精度で抗原を検知できるとしています。また健康な猫148頭と下痢症状の猫52頭を対象とした別の調査(Neuerer et al.,2008)では、電子顕微鏡検査でウイルス粒子を検出した場合と同等の感度と特異度でウイルスを検出できたとしています。この調査では「SNAP Parvo」の感度と特異度が共に100%と算定されました。
 「オフラベル使用」とはいえ、犬用パルボ抗原検査キットは臨床の現場である程度役に立ってくれるようです。

抗原検査キットの注意点

 検査キットの精度は100%ではありません。その結果、感染していないのに感染していると誤認する「偽陽性」や、逆に感染しているのに感染していないと誤認する「偽陰性」が生じます。
 偽陰性が出やすいのは検査で使用する糞便検体中にFPV抗体が含まれているときです。ウイルスエピトープと結合することによって分子形状が変わり、検査キットに含まれているモノクローナル抗体と結合できなくなって検出不能になることがあります。特に感染初期においては注意が必要です。
 偽陽性が出やすいのはワクチンを接種して2週間以内に検査を行ったときです。ワクチンに含まれている弱毒ウイルスを本当のウイルスと誤認する可能性があります。

PCR検査

 PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査とは、糞便もしくは全血に含まれるウイルスのDNAを検出することで感染を確認する方法です。一般的に検査キットよりも高い精度で検出できるとされていますが、CPVとFPVの遺伝子構造が似ているため、両者を区別することはできません。
 近年はウイルスのキャプシドタンパクに含まれる塩基の配列を調べることによって区別する技術がありますが、ラボによってはこの技術に対応していないことがあります。検体は糞便や全血、検査の所要期間は4~5日です。

FPV抗体検査

 抗体検査とはウイルスを排除するために体の中で作られたIgG抗体を検出する方法です。日本では流通していませんが、FPV専用の「ImmunoComb Feline VacciCheck」という検査キットが海外では用いられています。検体は血液(最低5μL)、検出時間は21分です。
 メーカーが344頭の猫を対象として行った公式調査では、感度89%、特異度98%で抗体を検出できたとしています。しかし感度49%という報告もあるため過大な信頼は禁物でしょう。
 それより重要なのは、抗体の有無を検知できても、抗体の由来までは判別できないという点です。抗体がワクチンに反応して形成されたものなのか、CPVに反応して形成されたものなのか、それともFPVに反応して形成されたものなのかまではわかりませんので、「抗体が体内にある」ことの証明にはなりますが、「ウイルスが体内にいる」ことの証明にはなりません。

猫汎白血球減少症の治療

 猫が猫汎白血球減少症と診断されたら、まずは患猫を他の猫から隔離して感染の広がりを予防します。FPVを体内から駆逐する特効薬はありませんので、最低2週間は他の猫と接触しないようにし、集中的に治療する必要があります。具体的な治療法は以下です。

支持療法

 支持療法とは病気によって引き起こされる症状や薬によって引き起こされる副作用を緩和するために行う治療のことです。
FPVに対する支持療法
  • 脱水症状の治療腸管バリアが壊れて水分の吸収ができない状態ですので、輸液や電解質を補うことで体液量を調整します。
  • 敗血症の治療腸内細菌が血中に入り込んで敗血症につながるのを防ぐため、グラム陰性菌と嫌気性細菌に対して効果がある広域抗生物質を投与します。ただし腎毒性がある薬は避けるようにします。
  • 各種欠乏症の治療チアミン欠乏症を防ぐためビタミンBを補給し、低タンパク血症に対しては輸血によってコロイド浸透圧を調整します。
  • DICの治療血液凝固反応が体のいたるところでランダムに発生するDIC(播種性血管内凝固症候群)の場合は血漿輸血が行われることもあります。
  • 栄養失調の治療猫が食べ物を受け付ける場合は消化が良いものを与えます。下痢や嘔吐が激しく栄養を受け付けない場合は食欲増進剤を投与したり、頚静脈にカテーテルを挿入して栄養補給を行います。
 猫パルボにおける死亡症例の多くは敗血症、脱水、DICによって引き起こされます。こうした状態に陥るのをできるだけ回避することが延命のポイントです。

インターフェロン治療

 インターフェロンオメガと呼ばれる製剤を犬に投与したところ、腸炎が抑制されたとの報告があります。インターフェロンとはウイルスや細菌といった病原体やがん細胞といった異物に反応し、体の中にある細胞が分泌するタンパク質の総称です。また実験室レベルではインターフェロンがFPVの増殖を抑制したとも。
 汎白血球減少症を発症した猫に投与した場合の効果を実証した報告はないものの、ABCD(欧州猫疾患アドバイザリー委員会)のガイドラインは「やってみる価値はある」と位置づけています。現在日本で使用されているネコインターフェロンは、猫カリシウイルス感染症に対して用いられる「インターキャット」(東レ)だけです。このインターフェロンをパルボウイルスに対して用いるのは、いわゆる「オフラベル」(ガイダンス外使用)になります。

顆粒球コロニー刺激因子?

 近年、人間用に開発されたフィルグラスチム(ニューポジェン or 商品名グラン)と呼ばれる製剤を猫に応用する治療法が注目を集めています。顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)とも呼ばれるこの製剤は好中球の前駆細胞や成熟好中球に特異的に結合し、分化と増殖を促進したり機能を亢進させる効果があるという代物です。2017年の報告では、フィルグラスチムを使用した猫の生存率が91%(10/11頭)だったのに対し、使用しなかった猫の生存率が33%(5/15頭)だったとのこと(Rice, 2017)。
 動物用医薬品として認可されていませんが、試験段階ではマウス、ラット、イヌ、サルにおいて好中球の増加が認められたとしています。猫におけるデータはないものの、上記した逸話的な報告から類推すると、人間やその他の動物と同じように好中球の増加が見込めるかもしれません。ただし使用する場合は「オフラベル」になります。

回復後のケア

 猫が運良くパルボウイルスによる攻撃を退けて回復した場合、体内に抗体が形成されて生涯に渡って猫を同じウイルスから守ってくれるようになります。しかし他の猫への感染を避けるためには、体に付着しているウイルスを徹底的に除去しなければなりません。
 被毛にはシャワーを掛け、表面に付着しているウイルスを物理的に洗い流します。多くの場合、下痢によって肛門周辺がとても汚れていますので念入りに洗ってあげましょう。ペット用のバスタブを使用し、使った後は廃棄するのが無難です。 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)に感染した猫からは、回復後徹底的にウイルスを除去する  たとえ症状が回復しても、長ければ6週間ほど糞便の中にウイルスが排出される可能性が示されています。ですから回復してすぐに他の猫と合わせるのは危険です。感染歴がない猫に対しては早急にワクチンを接種し、体内に十分な量の抗体を形成しておきます。
 猫が接触した可能性があるウイルス媒介物(fomite)は徹底的に清掃しなければなりません。具体的には後述するウイルス媒介物の清掃をご参照ください。

猫汎白血球減少症の予防

 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)は抵抗力がない猫に感染した場合、非常に重篤な症状を引き起こすことがあります。しかしウイルスに対応したワクチンがありますので、事前に接種しておけば多くの場合は予防が可能です。またウイルスは通常の消毒には反応しません。環境中に長期間とどまる能力を有していますので、「これでもか!」というくらいの徹底した清掃が必要となります。

感染猫を隔離する

 猫のFPV感染が疑われるような場合や感染が確定した場合は、健常猫と感染猫が接触しないように完全に隔離します。動物病院に入院させる際は、隔離ケージに空きがあるかどうかを事前に電話で確認しておいてください。これは受け入れる側の病院にもリスクがあるためです。 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)に感染した猫は他の猫から完全に隔離する  感染が疑われる猫に対しては検査キットやPCRなどでウイルスの有無を確認します。検査の精度は100%ではありませんので、陰性と判定されたからといってその猫がウイルスを保有していないということにはなりません。ウイルスの最長潜伏期間である14日間は病状に変化がないかどうかをモニタリングする必要があります。

ワクチンを接種する

 FPVワクチンはコアワクチン、すなわち飼育環境にかかわらずぜひとも打っておくべきワクチンに指定されています。
 妊娠中の母猫がFPVに対する抗体を保有している場合、胎盤を経由したIgG抗体の移行が妊娠後期に起こります。しかしこの段階で胎子の抵抗力は母猫の10%程度に過ぎません。子猫が生まれた後、初乳を飲んで中和抗体を補った場合、抗体価は母猫の50%にまで上昇します。ただし生まれてから8時間が経過すると腸管のバリアが異物を排除し始めますので、初乳がバリアに弾かれる前に飲ませる必要があります。きょうだい間で抵抗力に大きな格差があるのは、初乳を飲む量によって抗体価が変動するためです。
 生まれてからの最初の1週間で抗体価は徐々に低下していきますが、通常は6~8週齢まで抵抗力がもちます。最初のワクチンは抗体価が十分に低下した8~12週齢ころ行うのがセオリーです。ただし子猫が初乳を飲んでいない場合は少し早めることもあります。

ワクチンの種類

 以下でご紹介するのは日本国内で認可されている猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)向けのワクチン一覧です。生ワクチンは「生」、不活化ワクチンは「不活化」と記載してあります。コアワクチンであるため、すべて他の重要疾患に対する効果も併せ持っています。ワクチンの詳細に関しては以下のページもご参照ください。 猫のワクチン接種
FPV向けワクチン一覧
  • 3種ワクチン猫用ビルバゲンCRP(生/詳細) | ノビバックTRICAT(生/詳細) | ピュアバックスRCP(混合/詳細) | フェロガード・プラス3(生/詳細) | フェロセルCVR(生/詳細) | フェロバックス3(不活化/アジュバントはエチレン・アクリル酸・油/詳細
  • 4種ワクチンピュアバックスRCP-FeLV(混合/詳細
  • 5種ワクチンフェロバックス5(不活化/アジュバントはエチレン・アクリル酸・油/詳細

ワクチンは確実?

 ワクチンを接種したにもかかわらず十分な免疫力が得られない「ワクチンブレイク」が起こることがあります。
 ドイツで行われた調査では、ワクチンを受けた47頭中11頭(23%)では抗体が検出されなかったといいます。また他の調査でも3回ワクチンを受けたにもかかわらず、37%の猫で抗体陰性だったとも(Hoffmann et al., 2010)。ワクチン接種に十分反応しないワクチンブレイクが起こる理由としては、体内に残っていた母猫由来の移行抗体がワクチンに干渉したからだと推測されています。

ワクチンに格差はある?

 ワクチンには不活化アジュバントワクチンと弱毒生ワクチンとがありますが、ワクチン接種後の抗体価に関しては前者では31%、後者では85%が十分量に達していたという報告があります(Patterson, 2007)。不活化ワクチンが市場から消えている国があるのは、おそらくワクチン間で上記したような格差があるためでしょう。各種のガイドラインでも「弱毒生ワクチン」の方を接種するよう勧めています。

ワクチン接種プログラム

 ワクチンの効果を最大限に高めるため、猫の年齢や来歴によってワクチンを打つタイミングや間隔は変わります。猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)をターゲットとした一般的なワクチン接種プログラムは以下です。
FPV向けワクチン接種プログラム
  • 病歴のわからない子猫子猫に対しては病歴にかかわらず生後8~9週齢で1回目、3~4週あけて2回目、そして16週齢以降に3回目→1年後にブースター→3年に1度というのが推奨されているワクチン接種プログラムです。免疫力は7年間持続するというデータがあるものの、万全を期して3年に1回というペースが採用されています。
  • 病歴のわからない成猫病歴のわからない成猫に対しては時期にかかわらずワクチンを1回接種し、その後2~3週あけて2回目を接種し、その後1~3年に1回のペースでワクチンを打ちます。
  • 妊娠・出産期のメス猫メス猫の場合、妊娠の前にワクチンを接種して体内に十分な抗体を形成しておくのが理想です。妊娠してからの反復ワクチン接種は、弱毒生ワクチンが胎盤経由で胎児に感染することがあるため避けるようにします。子猫を出産した後の授乳期におけるワクチン接種もストレスから育児放棄につながりやすいので避けるようにします。
  • 免疫不全の猫老齢、栄養不足、免疫不全症、全身性疾患、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤、環境ストレスなどで免疫力が低下した猫の場合、生ワクチンによって逆に具合が悪くなる可能性があります。またそもそも免疫力が低下しているため、十分な抗体ができない可能性も覚悟しなければなりません。

ウイルス媒介物の清掃

 ウイルスに感染してすぐの急性期においては、感染猫が排出するすべての体液(血液・唾液・鼻粘液・糞便)に大なり小なりウイルスが含まれています。またたとえ症状が回復しても、長ければ6週間ほど糞便の中にウイルスが排出される可能性がありますので、環境を徹底的に清掃してウイルスを除去しなければなりません。 室内の猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)を除去する際は作業員の体が汚染されないよう完全防備する必要がある  先述したように、パルボウイルスの特徴は消毒にめっぽう強いという点です。通常のアルコール消毒やアンモニア消毒、煮沸消毒では効き目がありませんので、以下に述べるような強力な薬剤を用いてウイルスを除去する必要があります。また作業する人は自分自身の身体や衣服が汚染されないよう、手袋、足カバー、キャップなどで完全防備します。ステンレスや床など表面がつるつるした場所に使用する場合の目安は室温で10分です(Eleraky, 2002)。
パルボウイルスに有効な清掃剤
  • 過酢酸
  • ホルムアルデヒド(4%)
  • 水酸化ナトリウム
  • 次亜塩素酸ナトリウム(6%)
  • グルタルアルデヒド(1%)
  • ペルオキシ一硫酸カリウム
  • 二酸化塩素
 一方、プラスチック製で多孔質のものは、顕微鏡を使って見えるような小さな穴の中にウイルスがとどまっている危険性がありますので、廃棄したほうが無難です。同じ理由でカーペットやキャットツリーも交換したほうがよいでしょう。 人間の手、衣服、靴などがパルボウイルスの伝播に一役買っていることもある  盲点になりやすいのは、人間の手、衣服、靴といったものもウイルス媒介物になりうるという事実です。感染した猫と接した場合はそうした媒介物が他の猫と接触しないよう気をつけなければなりません。野良猫を無節操に撫でることは、知らないうちにウイルスを拡散していることになりますので控えるようにします。
 また病歴がわからない猫を触った後は必ず手を洗うようにします。完全室内飼いであっても感染の危険性があるのは、危機意識のない飼い主が屋外から病原体を持ち込んでしまうからです。
まとめ
 猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)は感染力の強さと生存力の強さから、「猫の疫病」として恐れられている感染症です。頻繁に流行するウイルスではないものの、ひとたび猛威をふるい出すと収束させるのがやっかいな病気ですので、何よりもワクチンなどによる予防が重要となります。
 猫が完全室内飼いであっても、飼い主が病歴不明の猫を触ることによって家の中に病原体を持ち込んでしまうことがあります。自分自身の手、衣服、靴などがウイルス媒介物になりうるという自覚を持ち、無節操な撫で回しは控えましょう。これは人間の手を媒介として勢力を拡大するカリシウイルス白癬菌の拡散を予防する上でも重要です。
 初期の症状は発熱や食欲不振などわかりづらいものばかりです。ちょっとした不調にいち早く気づいてあげるのは飼い主の責任ですので、日常的にバイタルチェックを行って些細な変化に気を配っておきましょう。